第三話:お金を稼ごう
しばらく歩いていると、小さな街にたどり着いた。その間、魔物は特に見かける事もなく……不自然なほど平穏に歩くことが出来た。
「ね、先輩。あたしの誘導って大したものでしょ?」
「魔物の居ないルートなんてそうそう見つけられるものじゃないけどな……確かに、大したもんだ」
そこで、ふと俺はユンナの『千里眼』の力がどこまで通用するのか気になった。
「ユンナの力なら、未来視だって可能なのか?」
「まさか~。あたしにできるのは今現在、どこで何が起こっているか、までですよ。それで十分だと思いますけどね。明日何が起きるかまで分かっちゃったら、つまんないですもん」
ユンナはけらけらと笑いながらそう答える。
まあ、そりゃそうか。未来視なんてただの幻想でしかなくて、見えた所で人間には有り余る力だろうから。
「でも、俺は魔物と戦っても良かったんだけどな。もしかしたらレベルも上がったりしてたかもしれねえし」
「あの大群を討伐して一つもレベル上がんなかったんだから無理ですって。それに、先輩の戦い方って奇襲のが向いてるでしょ? 正面切っての戦いしてたらいつかは死んじゃいますよ~」
そう言われて、ハッとした。いくら魔物から見えていないであろう事を考えても、例えば広範囲のブレスなんかを食らったらレベルゼロの俺はあっさり蒸発してしまうだろう。
魔物と戦う必要があるなら、相手が全くの無警戒状態である事が必須……その状態なら、俺は確実に勝てる。
「確かに、乱戦には向かない力だな。だけど、それじゃあいつまで経っても俺は成長できない事になる……そこをどうしたもんかな」
「そうですねえ……成長の仕方って、一つじゃないと思うんですよ。男の子の想像する勝利って真正面からの真っ当な討伐だと思うんですけど、最終的に立ってれば勝ちだーって考え方もあると思いません?」
最後に立ってれば勝ち、か。それはまあ……また泥臭いものだ。
「ま、スポーツしてるわけでもないし、生きてるモン勝ちなのは確かだな」
「ええ。死んじゃったら元も子もありませんから。そんで、あたしここに用があったんですよ」
そう言って連れていかれたのは、出店がずらりと並んでいる通りだった。シートだけ広げて、そこに様々な商品が置かれている。
「へえ、こういうの、なんて呼ぶんだっけかな」
「フリーマーケットって奴ですね。要らなくなったものを捨てるよりかは安価で他人に譲ろうって奴です」
テクテクと他の商品には目もくれず、何かを目指してユンナは歩いていく。女子といえばショッピングが好きなイメージがあるけど、ユンナはその性質じゃないらしい。
たどり着いたのは、確か『旧文明』と云われる頃のキカイを売っている店だった。魔法が主なこの世界では大した価値はないけど、好きな人は好きらしい。
「ここですよー。ここに無線機ってのがあるはずです」
「ほう? 嬢ちゃん、詳しいね。どこから聞いてきたんだい?」
答えたのは、店主のおじさんだった。ごそごそと包みから取り出されたのは、耳に嵌めるらしい機器だった。値段は30ゴールドと、何とも言えない価格だ。
「はい、ちょっとねー。それを二つくださいな」
「こいつぁ二つ以上はないと意味ないからねぇ。よし、売った! 僕は使い方が分かる人間にしか売らないって決めてんだが、嬢ちゃんなら問題なさそうだ」
「ありがとうございます、それじゃ、いただいていきますねー」
俺を置いてけぼりに話は進んでいき、ただユンナについていくだけの状態で大通りにまで戻ってきた。
「なあ、なんか買うなら別に俺だって少しは払ったぞ?」
「またまたー、先輩にお金がないのくらい知ってますって。『千里眼』を舐めちゃいけませんよ? それに、これから稼いでもらうんですから問題ありませんよ」
稼ぐ、っていっても……と言いかけた所で、また迷いなくユンナは歩き始めた。
◇
「冒険者登録には最低100レベルは必要なんですけど……」
「あ、登録するのはあたしなので問題ないですよー。今346なので」
「それなら……鉄級からの始まりとなりますが大丈夫ですか?」
そんな会話が目の前で繰り広げられている。レベル至上主義のこの世の中じゃ職業に就くのにもレベルが必要だったりする。
だからこそ、永遠にレベルゼロの俺には就職なんてできやしない。俺はあのまま学園を出ていたとして、どうやって生きていたんだろうな。
「はい、ユンナ・ファンヌビースさんですね。確かに登録しました。早速依頼を受けていかれますか?」
「いえ、素材を持ってくるので買取でお願いします~」
「了解しました。では、ご武運を」
冒険者の事なんか何も知らないものだから、それぞれの言葉の意味は理解できても意図が理解できない。
一体、ユンナは俺に何をさせようとしているんだ……?
「じゃ、行きますよー。先輩、バリバリ働いてもらいますからね!」
「働くのはもちろん良いんだけど……何をすればいいんだ? ユンナの補佐か?」
「あははー、逆ですよ。あたし、戦闘能力はほとんど期待できないので」
それなら余計になんで冒険者なんかに……。と、そこで気づいた。
「ユンナが魔物を見つけて、俺が狩って、素材を売るってわけか?」
「ん-、いいですね。80点です! 依頼って魔物討伐とか護衛とか色々あるんですけど、先輩の力を上手い事隠しながら上手い事稼ぐには、希少種って云われてる奴を討伐して素材にして売っちゃうのが一番だと思うんですよ」
希少種……。なるほど。
「そこで『千里眼』の真価発揮ってとこか」
「はい、百点満点です。希少種にも色々ありまして、逃げるのが上手くて小さい子から、単純に強く進化してしまった奴もいるんですよ。単純に強いだけの希少種は狙われがちなので、前者を狙うこととします」
魔物に気づかれない俺と、人に敏感な魔物か。確かに、それはピッタリだ。
「いいな、危険も少なそうだ。何をするにもまずは金がない事にはな」
「ですねー。それに、あたし希少種のミトンリスって魔物のお肉食べたいんですよねー。煮込んだりしたら、それはもうホロッホロらしいですよ!」
そっちが目的なんじゃないか? と思うと、少しだけ笑えた。
「……良かった」
ボソッとそう本当に小さな声で呟いたユンナに、俺はなぜか何も言えなかった。
◇
そして、早速俺は森の中へと足を踏み入れていた。だけど、近くにユンナは居ない。
『あー、あー。先輩、聞こえますか?』
「ああ、聞こえてるよ。これが無線機って奴の機能なのか」
『せっかく魔物見つけられても、あたしが一緒じゃ気づかれちゃいますからねー。こうして遠くから声を届けられたらそれにこしたことはないんですよ。それに、こっちのが先輩も気兼ねなく戦えるでしょう?』
無線機は、遠距離間での会話を可能とするキカイらしい。耳につけるだけで会話が成り立つから、機動力も落ちやしない。
確かに、これ以上ない編成だ。
「目標は?」
『そこから二時の方向に250歩ですね。小柄で綺麗な銀色の毛をした魔物です。ま、のんびり行きましょー』
まったく、気楽なもんだ。こっちはさっきから魔物の真横を通り抜けながら歩いてるんだけどな……。
「この魔物たちも討伐したら金になるんじゃないか?」
『ダメですよー、悲鳴でも聞こえたら銀子ちゃんが逃げちゃいます』
「……まともな呼び名はないのか?」
『姿しか確認されてない希少種ですからね。名前なんか無いですよ~』
それもそうか。それに、俺の力は武器一本分だけだ。道具頼りな以上、無駄な消耗は避けるべきだな。
『……先輩、そろそろです。あたし、一応黙りますね。電波で気づかれても仕方ないです』
「了解、これより希少種討伐に移る」
さて、銀子ちゃんの様子はどんなもんかな……。




