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準備会議

挿絵(By みてみん)


出番がないブルー皇子。




「アノ様、どうなさるのですか?」


 リットルに問われて私は苦い顔になった。


「どうするもなにも消去法よ」


 ボルケーン皇子が遠征中に戦っていた蛮族の王と刺し違えたという知らせは、深い悲しみをこの国にもたらした。


 皇子でありながら戦場に出るボルケーン皇子は庶民には一定の人気があったから。


「デルフィン皇子ではないのですか?」

「彼は王になりたがっていないのよ」

「あらまあ、もったいない」

「まさか悪皇子を選ぶわけにもいかないわ。となればツゥレヒ皇子しかないわ」


 なぜこんな会話を侍女としているのかと言えば、王が立て続けに息子を失った悲しみもあってか、体調を崩されているからだ。


 心身ともにお疲れのところに熱病を患って、どうも危険な状況ではないかとの憶測が流れていた。


 もしものことがあれば王位指名の儀を行うことになる。


 リットルによれば庶民の話題もそれだし、ミッチオによれば公然とは話題にされないが騎士団や兵団でも何かとそのことが話されているらしい。


「ミッチオの話、聞かれましたか?」

「聞いたわ。ディングル家の噂でしょう?」

「はい、どうなんですかねえ?」


 どうなんですかねえと問われても困ってしまう。


 ミッチオからの情報。ディングル家の護衛騎士をしている者が、ディングル家にミネエ王国の者が出入りしていると言っているというのだ。


 ミネエ王国は我が国と領土問題を抱え、国境地帯で小競り合いをずっと続けている、いわゆる敵国である。


「こういうことが話題になると広がる流言ではないのかしら?デルフィン様は女性に興味がないと言う噂も、あるでしょう?」

「それは真実ではないのですか?」

「確かにデルフィン様はまだ妻を選んでいないけれど、懇意にしている女性がおられると聞いているわ」

「エイフェ家のイノーエ様ですね」

「リットルの方が詳しいじゃないの」


 エイフェ家は私が嫁いだシーノック家の系列の貴族だ。そこの娘さんにイノーエという女性がいる。


「それは自分が男性を好むことの隠れ蓑だとか」

「あー、はいはい。それくらいにして」


 もうきりが無いわ。


「悪皇子は相変わらずですがねえ」

「自分を王位継承者にするために、暗殺したんじゃないかって話?」

「そうです。悪皇子ならありうるって話ですよ」

「まさか。さすがにそれはないでしょう」


 ボルケーン皇子は蛮族との戦いで犠牲者が互いに増えることを防ぐために、蛮族の王に一騎打ちを挑んだと騎士団が実際に見てきたこととして報告している。


 可能性としては第3皇子の熱病だけれど、まさかだ。


 まさかだけれど、無いと言い切れない。


 悪皇子ならもしかしたらと思ってしまうのだ。


「それに彼を指名する者は公爵家にいないわよ」

「確かにそうですね」


 上位三名から選ぶ仕組みである以上、彼が選ばれる可能性は皆無だろう。







 王が崩御された。


 結局王も熱病によって命を落とされた。


 立派な国葬を終え、20日間喪に服した後に、王位指名の儀が行われることになる。


 残り3日となったところで、私達公爵家は準備会議を開くことになった。


 それぞれが持っている王位継承権を持つ3人に関する情報を互いに開示して、指名する根拠とするためである。


「待たせたな」


 ディングル家のカンジャインが最後に到着して椅子に座った。


「司会は誰だ?最初にここに来たのは?」


 カンジャインが聞くとビイデル家のツリウチが手を上げた。


「僕です。すいません、若輩者ですが」


 ツリウチはまだ成人していない。本来ここには彼の兄であるホンラインが座るはずだが、彼は騎士団の一員として北方へモンスター討伐に出ている。


 こちらは喪に服していても、モンスターには関係ないから暴れ回っているらしい。


「準備会議だ。こだわらずに」


 そう言ったのはシーノック家のウィスキンだ。私が嫁いだカルーアの兄である。


「分かった。話を始めよう」

「では、始めます。現在王位継承権第1位は第5皇子のツゥレヒ様、第2位が第6皇子のデルフィン様。そして第3位が第7皇子のブルー様です」

「ツゥレヒ様で決まりだ」


 カンジャインが間髪入れずに言った。


「デルフィン様には跡継ぎが出来ない可能性がある。ブルー様は奇行が目立つ」

「デルフィン様のその話は噂話ではないのですか?」


 ウィスキンが言った。系列の貴族に懇意にしている女性イノーエがいるだけに、噂は否定したいところよね。


「ではシーノック家はデルフィン様を推すのか」

「そうですね。デルフィン様の仕事ぶりには定評があります」

「宰相ならいいが、王としてはどうなのだ?」

「それは立場が人を作るとしか言えませんな」


 ウィスキンが少し苦い顔で言った。


 私はデルフィン様が王となることを望んでいないことを知っているだけに何とも言えない気持ちになる。


「エイデン家は?」


 ツリウチが私に話を振った。


「ウィスキンの言いたいことは理解できるけれど、現状ではツゥレヒ様ね。若いうちから外遊をなさっていて、他国の事情にもお詳しいし。現在領地問題で揉めているミネエ王国も訪問したことがあるわ。領地問題を解決してくれたら国益になる」

「そうだな。すでにツゥレヒ様は国境を接する4つの国に外遊しておられる。さらに2つ。合計6つの国に外遊したのはツゥレヒ様だけだ」


 カンジャインが言った。


「ビイデル家は立場を決めかねているのが現状です。この準備会議で得た情報を元に判断する予定です」


 司会のツリウチが自ら言った。


「まあ、そうは言っても。長年勤めた執事を咳一つで首にしたり、領地の麦畑を焼き払ったり、護衛騎士を町娘と無理やり結婚させて左遷したりとか、さすがにブルー様を選ぶ選択肢はありませんが」

「料理人も飛ばしたし、宮廷の鍛冶師も飛ばしたぞ」


 カンジャインが言った。


「孤児院を潰したこともありましたよね。院長は気に病んで自死してしまったと聞きます」


 私も言った。


「孤児を無理やり働かせているんだぞ。デルフィン様がフォローして環境を整えたからいいものの」

「そう言うところもデルフィン様が宰相向きなところだな」


 まあ、そう言われちゃうとそうなんだけど。


 王の命令の足りないところをさりげなくサポートするのが宰相の大事な役目の一つだから。


 この状況になってデルフィン様はどう考えておられるのだろうか。


 直接話が聞きたかったが、さすがにこの状況でデルフィン様が休憩室に顔を出すことは数回しかなく、そのどれも私とはタイミングが合わなかった。





挿絵(By みてみん)


出番がないデルフィン皇子。

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