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喪に服す皇子達




挿絵(By みてみん)


「静かだねえ」


 休憩室で私の前に座るデルフィン第6皇子が小声で言った。


「喪に服しているのですから当然です」


 私も小声で返した。


 王位継承権第1位だった第3皇子がお隠れになったのだ。


「今や王位継承権第3位の皇子が、こんな時にここで息抜きしていていいのですか?」

「こんな時だからこそだよ。喪に服しつつも日常を大事にしないと」

「皇子が休憩室に来ることはあまり日常ではないのですが」

「ブルーだって来ているじゃないか」

「あの方は本当に稀にですから」

「あ、そうなんだ」


 王位継承権第3位となれば、もしかしたらがありうると思う。宮廷に勤める者の身元調査はしっかりしているが、完ぺきとは言えない。休憩室に護衛もつけずに来ることは少し危険な気もする。


「第1皇子がお戻りになる可能性は無いのですか?」

「ああ、それはないだろうなあ。辺境伯として生き生きとしていると聞いているし」


 本来王位継承権第1位であるはずの第1皇子は、成人を機に政争を恐れて自ら辺境へと赴いた。王位継承権は放棄すると宣言して。


 もちろん、はいそうですかと認められることはなかったが、それ以降王都に一度も戻らずに辺境で生活している。結果、王位継承権はもう彼には無いという認識なのである。


 第1側室の子である彼が生まれてすぐに正室の子である第2皇子が生まれた。


 どちらも優秀なお方で、いっそ二人とも王になれればいいのにと噂されたほどだった。


 しかし第1皇子が辺境伯となってからおよそ1年後、第2皇子は狩りに出た際に落馬して怪我を負い、その後お隠れになってしまったのだ。


 その結果王位継承権第1位となった第3皇子だが、その彼が突然原因不明の熱病にかかり、あっという間にお隠れになったのが4日前のことだ。


 昨日国葬が行われ、現在我が国は喪に服している状態である。


「第4皇子が心配ですね」

「そうだね。でもまあ彼は殺しても死なないって言われているし」


 皇位継承権第1位となった第4皇子は、現在東方の蛮族との戦いの総司令官として遠征中なのよね。


 騎士団顔負けの戦闘力で、皇子でありながら実際の戦場に出て行ってしまうことが何度もあって、周囲を慌てさせていると聞く。


「ご自分が第1位になったことは伝わっているのですよね?」

「伝わっているよ。でも、東方の一族と決着をつけてから戻るんだってさ」

「そうですか。ボルケーン様らしいですが」


 私は紅茶のカップを手に取りながら言った。


 デルフィン様も同様にカップを手に取る。


「そう言えば休憩室の紅茶の茶葉を変える申請を出してくれたのって、アノなんだって?」

「はい」

「なんで?」

「元々御用達の地域の茶葉だったのですが、昨年は天候不順であまり茶葉の出来が良くなかったのです。この茶葉は別の地域で、近年でも稀にみるほどの出来の良い茶葉なんです」

「なるほどね」


 嬉しそうな笑顔を浮かべてデルフィン様はカップを置いて私を見つめた。


「ところでさ」

「はい」

「王位指名の儀となったら、エイデン家は、つまりアノは誰を指名するつもり?」

「その話ですか」


 もし王がお隠れになった場合、次の王を王位継承権第3位までの中から一人選ぶことになるのだ。


「ビイデル家はボルケーン皇子でしょうね。兵団を統括する立場のビイデル家とすれば、勇猛果敢なボルケーン皇子が王になってくれればと思っているはずです」

「そうだろうね」

「ディングル家は第5皇子のツゥレヒ皇子を推すと思います。皇子の母である第2側室はディングル家の系列の貴族出身です」

「確かにね」


 デルフィン様が頷きながら栗色の前髪を除けた。


「シーノック家の系列が第3側室でしたから、第3皇子がお隠れになって、今は状況を見極めているのではないでしょうか」

「かもしれないね。で、最後にエイデン家、アノは?」


 そうなのよ。


 エイデン家では私に指名権があるのだ。


 公爵家の中で次の公爵家を引き継ぐ予定の者が、次の王を指名するのだ。次代の王を選ぶのは次代を作る者達が、という思想らしい。


 長男は幼い頃に亡くなり、次男は成人した際に北方のモンスター討伐遠征に出て、そこで亡くなってしまった。


 未亡人として家に戻った私が、結果指名権をもつ状態になっているのだ。


 私としてもこんなことになるなんて思っていなかった。


「私はデルフィン様かしら」

「いやあ、私は王に向いている人間ではないよ」

「宰相みたいな立場をお望みですか?」


 何となく聞いてしまった。


「そうだね。可能なら次代の王を支える立場になりたいね」


 まさかの大当たりだった。


「デルフィン、やはりここか」


挿絵(By みてみん)


 突然声を掛けられた。喪に服しているのに大声を出している声の主は、もちろんブルー様だった。


「ブルー。どうした?」

「ボルケーンが死んだ」

「え?」

「え?」

「蛮族の王と刺し違えたらしい。来い」

「分かった」


 デルフィン様が立ち上がってテーブルを見た。休憩所では自分の使った食器は自分で片付けるのがマナーだ。


「行ってください。私が片付けます」

「ありがとう」


 ブルー様は私を一瞥するとデルフィン様を連れて休憩所から出て行かれた。


 ん?


 ってことは王位継承権がスライドして、悪皇子が王位継承権第3位ってことに?


 恐ろしい話だわ。


 悪皇子が王となったらこの国はお終いだ。





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