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1-5 変貌

 ジークベルトがレイリアの部屋へ行くと、何故か侍女達がドアの外で震えながら立っている。


「どうしたのだお前たち。何故ここにいるのだ?」


「そ、それが……レイリア様が……」


1人の侍女が震えながら答える。


「何? レイリアがどうかしたのか? 入るぞ! レイリア!」


ジークベルトは扉を開けて部屋の中へと足を踏み入れた。


「う……な、何だ。この禍々しい空気は……」


部屋全体に恐ろしい気配が漂い、その中心はベッドの上で起き上がっているレイリアから放たれていた。


「レイリア……?」


ジークベルトの身体はいつの間にか鉛のように重くなっている。それでも必死でレイリアに近付いた。


「お父様……」


背中を向けていたレイリアがジークベルトの方を振り向いた。


「!」


ジークベルトは息が止まりそうになった。


白い肌に光沢のある黒髪、漆黒のドレスを身に付けたレイリア。

その瞳はアレキサンドライトのように赤く輝いていた。紅をさしたような真っ赤な唇は妖艶で本当に我が娘なのかと疑ってしまう程の変わりようにジークベルトは我が目を疑った。

レイリアはまるで魔界の姫のごとき、怪しい美しさを放っている。


「レ、レイリアなのか……? 私の娘の……」


震えながらジークベルトは尋ねた。


「ええ、私は貴方の娘のレイリアよ」


口調までも変わっている。

およそ子供らしくない話し方に戸惑っていると、レイリアの口から信じられない言葉を口にした。


「お父様たちがあまりにも無能だったから私はこんな姿になってしまったのよ? でもこの姿とても気に入ったわ。だって私はお父様もお母様も大嫌い。貴方と同じ金の髪が本当に嫌で嫌でたまらなかったの。今となっては私をこのような姿に変えてくれたあの魔術師に感謝したい位だわ」


「な、何だって……?」


「それにしても以前のレイリアが着ているドレスは何て安物ばかりなの? 一人きりの可愛い娘に満足にドレスも買ってくれないなんて貴方は父親失格よ。何が国王よ、娘を満足させることが出来なくて国民を幸せにする事が出来ると思ってるの?」


自分を指さしながら冷たく言い放つレイリアの姿はとても正視する事が出来なかった。

挙句に部屋中に漂う禍々しい空気はジークベルトを飲み込もうとしているようにすら感じられる。


「グ……ッ!」


ジークベルトは膝を付き、荒い息を吐きながらレイリアに尋ねた。


「レイリア……本気でそのような事を言っているのか?」


「フフフ……。無様な姿ね。ええ、その通りよ。今まで私がどれだけ我慢してきたか貴方には分からないでしょうね。貴方を見ていると不愉快になってくるわ。さっさと私の部屋から出て行ってちょうだい!」


ジークベルトに枕を投げつけながらレイリアは叫んだ。


「分かった……また来るよ。私の可愛いレイリア。ゆっくり休むんだよ」


寂しげに笑うとジークベルトは部屋を出て行き、レイリアは一人残された。

ジークベルトの足音が遠ざかっていくと、レイリアの瞳から涙が溢れだす。


「どうして……? どうしてこんな言葉が口から出て来てしまうの? 私、そんな事全然思ってもいないのに! 何でお父様の傷つく姿を見ると嬉しくなってくるの?

本当はお父様の悲しい顔を見ると、胸が苦しくて仕方が無いのに……!」


レイリアは鏡を覗き込んだ。黒髪に赤く輝く瞳、真っ赤な唇……。


「いやああああ!」


ガチャーンッ!!


投げつけた鏡が音を立てて割れる。


「お父様……お母様……! 誰か私を助けてっ!」


レイリアはいつまでも泣き続けるのだった――


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