1-3 レイリアVS魔術師
「お……お父様……」
レイリアは震えながら目に涙を浮かべている。
「レイリア!! 何故ついてきたのだ!?」
ジークベルトはレイリアに駆け寄ると両手をしっかり握りしめた。
「ご、ごめんなさい。私、どうしてもお母様に貝を拾ってプレゼントしてあげたかったの。だから馬車の幌の中に隠れていて……」
グスッグスッとすすり泣く。
「すまない、私がいけなかった。きちんとレイリアに話をしていればこのような事にならなかったのに……でもここは危険だ」
ジークベルトは騎士達に命じた。
「皆の者、このままここにいては危険だ。一度国に帰り態勢を立て直す事にする」
――その時
「そうはさせぬ……」
まるで地の底から聞こえてくるような恐ろしい声が周囲に響き渡った。
「何奴!!」
ジークベルトはレイリアを背後に庇い、剣を構えた。
キィィィーンッ!
突如空気が張り詰め、全身を黒いローブで覆われた人物が現れた。
その身体は宙に浮いている。
「ようやく会えたな……我が因縁の末裔よ。1000年の間、この時を待ち続けた。先程の戦い、敵ながら見事であったぞ。さすが『マーヴェラス』の国王だな」
「何故、私の事を知っているのだ? 貴様は誰だ?」
ジークベルトは剣を構えたまま対峙する。
「フ……我はかつてお前の先祖である魔導士によって封印された魔術師だ。1000年に渡る長い封印がようやく解け、お前たちを滅ぼす為に蘇った。しかし魔導士も小癪な真似をしてくれる。あの国に封印をして我が近づけないようにしていたのだからな。そこでこの国を利用させてもらうことにしたのだ」
「何!? まさか私の国を狙う為だけに、この国を襲ったのか!?」
「話の理解が早くて助かる。その通り、この国は単なる捨て駒だ」
「貴様……」
ジークベルトは剣を向けた。
「絶対許すものか!!」
「ほお……そのように魔力を使い切った身体で我に勝てると思うのか? 立っているのもやっとではないのか?」
確かに言われた通りだった。魔力は枯渇し、今にも意識を失いそうだった。
「待て! 俺がやる!!」
ヨハネスはジークベルトの前に立つと、剣を構えた。
「ほう……それは魔剣だな。流石だ」
感心したように魔術師は笑う。
「だが、これは受けられるかな?」
魔術師は右手を上に上げた。すると黒い球体が浮かび上がる。そしてヨハネス目掛けて投げつけた。
黒い球体はヨハネスの腹部に当たり、激しい雷を放った。
「グアッ!!」
倒れ込むヨハネス。
「ヨハネス様!!」
騎士たちが駆け寄ろうとすると、魔術師は右腕を薙ぎ払った。
途端に激しい風が巻き起こり、地面を切り裂く。
「邪魔をするな……」
「ヨ・ヨハネス……」
ジークベルトの額から冷汗が流れ落ちる。
「さて、次はお前の番だ」
魔術師はジークベルトに向き直ると再び黒い球体を生み出した。
――その時
「やめて!!」
レイリアが叫び、魔術師の黒い球体がかき消されてしまった。
「何!?」
魔術師の声に焦りが生じる。
「お前一体何者だ……?」
「やめて! お父様に……皆に酷い事しないで!!」
レイリアは魔術師に両手を向けると、そこから眩しい光が迸り、魔術師に放たれた。
「ギャアアアーッ!!」
およそこの世の物とは思えない絶叫が響き渡り、地面に倒れ込む魔術師。
「お、おのれ許さぬぞ‥…! お前の魔力を全て吸い取ってやる!」
魔術師は両手をレイリアにかざすと魔力を吸い取り始めた。
「く……!」
レイリアの身体から光がどんどん抜き取られていく。
「レイリア!!」
ジークベルトの悲惨な声が聞こえてくる。
「お……お父様……」
(こんな……所で負けられない!)
自分も同じように魔導士に両手をかざした。
すると、今度は逆に魔術師の身体から黒い靄がレイリアによって吸い取られていく。
「グアアア……や、やめろ……やめてくれ……!」
どんどん魔術師の身体がしぼんでいく。それでもレイリアは魔力を吸い取る事をやめない。
徐々にレイリアの身体が闇に染まっていく。
やがて魔術師の身体は煙に包まれ、後には1羽のカラスがそこにいた。
「グワアグワアッ!」
カラスは鳴き声を上げて、飛び去って行った。
「あ……」
レイリアはそれを見届けると地面に倒れてしまった。
「レイリア!!」
ジークベルトは気を失った娘を抱き上げた。
レイリアの髪は漆黒の色に染まり、着ていたドレスは闇の色に染まっていた――