1-2 闇からの侵略者
『マリネス王国』に到着したジークベルトたちは目の前の光景に息を飲んだ。
青い空に美しい海、漁業が盛んだったはずの国。
それが今や空は不気味な色で染まり、海はどす黒く悪臭を放っていた。
荒れ果てた街は濃い霧に覆われて、人々の姿は一切見られない。
「な……何なんだ? 一体何が起こったと言うのだ?」
白銀の鎧姿のジークベルトは恐ろしい光景を信じられない気持ちで見つめた。
他の兵士達もざわついている。
「ジークベルト、これはかなりまずい状況だぞ。やはり何者かが魔術を使い、この国を荒廃させたのではないか?」
ヨハネスがジークベルトの隣に馬を付け、周囲を見渡した。
「ああ……そうだな……」
ジークベルトは美しい顔に眉を顰めた。額には冷汗が流れている。
「とにかく、まずはあの城を目指そう」
ジークベルトは剣を抜き、山頂にそびえ立つ城を指した。特に城の周囲は禍々しい雲に覆われ、雷が鳴り響いている。
――その時。
「グルルル……」
恐ろしいうめき声が周囲から聞こえてきた。
ジークベルトとヨハネスは魔力を帯びた剣を構え、騎士達も剣を引き抜く。
――ジャリッ
砂を踏むような足音が徐々に近づいてくる。
(くっ……霧が濃すぎて敵の姿が見えない!)
焦るジークベルト。
出来れば魔力は温存しておきたかったが、敵の姿が見えなければ戦う事すら出来ない。
「我が剣に命じる! この霧を払え!」
ジークベルトは魔力を注ぎ込み、剣を薙ぎ払った。一気に周囲の霧は消える。
そして姿を現したのは……。
「グ、グール……」
「そんな…‥何故ここに!?」
騎士達の間でざわめきが起こった。それもそのはず。
グールは太古の昔に存在した悪鬼で人々の間で恐れられていたからだ。しかし伝承によれば魔導士たちによって滅ぼされたと言われていた。
そのグールが今、自分たちの目の前にいるのだ。
体長2mはあろうかと思われる緑色の身体は筋肉で覆われていた。瞳は白く濁り、大きく開けた口からは鋭い牙が覗いている。
武器は所持していなかったが爪は鋭く尖っていた。
「およそグールの数は約5~60体と言うところか……」
冷静さを保つジークベルト。
「ああ、そうだな。所でジーク。お前はアイツらの弱点を当然知ってるよな?」
ヨハネスはジークベルトの背後に立ち、剣を構えながら尋ねる。
「当然だ。聞くまでも無い」
そして兵士たちに叫んだ。
「皆の、よく聞け! 奴らの弱点は鉄だ! 鉄の剣に持ち替えろ! そして眉間を狙え!!」
「はい!!」
いずれも精鋭揃いの騎士たちは一斉に返事をすると鉄の剣に持ち替え、グールめがけて掛け声を上げて突進して行った。
ジークベルトは自らの剣に命じた。
「我が剣よ! この身に炎をまとえ!!」
途端にジークベルトの剣は炎に包まれる。
「行くぞ!!」
ジークベルトは剣を振りかざすとグールの群れに突っ込んで行き、次々と炎の剣で薙ぎ払い、グールを倒していった。
ヨハネスも魔剣でグールを着実に倒している。
やがて辺りは静まり返ると、全てのグールは倒されていた。
勿論一人の犠牲者も出さずに。
ジークベルトは倒したグールを真っ青な顔で見つめている。
そこへヨハネスがかけより、ジークベルトの肩を叩いた。
「やったな、ジーク。全て倒し……え!?」
倒れていたのはこの国の兵士達だった。彼らは皆ジークベルト達の手によって絶命していたのだ。
「ま、まさか……」
ヨハネスの顔が青ざめる。
「……どうやら私達が戦っていた相手は『マリネス王国』の兵士達だったみたいだ」
ジークベルトは唇を噛み締めた。
「まさか……魔術を使って……?」
――その時。
「レ・レイリア様!?」
護衛のミハエルが驚きの声をあげる。
「何だって!?」
ジークベルトは驚いて振り向くと、そこには震えるレイリアの姿があった――