1-1 不穏な動き
「ああ……私の可愛いレイリア。どうか早く目を覚まして頂戴」
天蓋付きの大きなベッドに寝かされたレイリアの枕元には母親のエレーヌが身重の身体で看病を続けている。美しい横顔には疲労が蓄積していた。
レイリアは荒い息を吐きながらうなされている。
「レイリア……何故このような髪の色に……」
エレーヌは真っ黒に染まったレイリアの髪の毛に触れ、涙を浮かべた。
代々、この国では黒は穢れの色として恐れられていた。このような姿が国民の目に触れる事になったとしたら魔女として人々に恐れてしまう。
今の姿からは誰が見てもレイリアだとは信じないだろう。
レイリアが呪いにより姿を変えられてしまった瞬間をジークベルトと兵士達がこの目で見ていたからこそ、レイリアだと判断出来たのである。
「何故レイリアがこのような姿になり、苦しんでいるのか知る者はいないの!?」
エレーヌは付き添いの侍女達に問いかけた。
「お妃様、どうか落ち着いて下さい。いずれは赤ちゃんを出産される御身だというのに、それではお身体に触ります」
メアリがエレーヌに寄り添い、ソファに座らせた。
「どうかお休みになって下さい。レイリア様は私共がお世話いたしますので」
メアリの言葉にエレーヌは不承不承うなずいた。そして侍女達に連れられ、レイリアの部屋を後にした。
「レイリア様……お可哀そうに……」
メアリはそっとレイリアの額に触れて涙を浮かべるのだった。
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何故レイリアがこのような目に遭ったのかというと――
ジークベルトはエレーヌの故郷『マリネス王国』に自国の外交官を派遣していた。
目的は国の現状を逐一報告させる為であった。
すると半年程前から外交官から報告が入ってきた。
『王宮に怪しい黒魔術を使う人物が出入りするようになり、国王がおかしくなってしまいました』
ジークベルトは引き続き監視を怠らないように命じた者の、やがて派遣した外交官からの連絡も一切途絶えてしまった。
そこで剣士としても参謀としても腕の立つ使者を1週間程前に偵察に送り込んだのだが、やはり連絡が来ることは無かった。
もうこれ以上看過する事は出来なかった。
同盟を結んでいる国が存亡の危機にさらされてい可能性が高い。
懸念したジークベルトは兵を引き連れ、『マリネス王国』へ向かったのである。
まさか荷台に紛れてレイリアがついてきているとは夢にも思わずに――