2-8 初めての街 2
翌朝、レイリアはユリアナの操る馬車に乗って街へ来ていた。
勿論黒髪は人目に付かないようにまとめ上げ、ボンネットで隠している。
「ねえ、どんな買い物をするのか、早く教えなさいよ」
レイリアは御者台にいるユリアナに生意気な口を利く。
「そうですね。今日はまず貴女の洋服と靴、それに果物を買ってみることにしましょう」
「それもそうね。私がいつも着ているのは作業着のような着古した洋服だものね。靴も畑仕事用の長靴しか無いし」
レイリアは自分の粗末な服を見た。
いくら呪いによってひねくれた性格になってしまったとは言え、元々質素な暮らしをしていたレイリア。
だからこそ、姫と言う身分にありながら粗末な服でも渋々着ていられるし、畑仕事や薪割の仕事まで出来るのだろうとユリアナは思っていた。
そこで何着かは町娘のような洋服を買ってあげようと思ったのである。
「それでは、このお店で貴女の洋服を何枚か買いましょうか?」
ユリアナは1軒の洋品店の前に馬車を停めるとレイリアに声をかけた。
店のガラス越しには可愛らしい少女向けの洋服が売られている。
それを見ただけで、レイリアはワクワクしてきた。
2人で店のドアをくぐるとチャイムが鳴り響き、店の奥から店主と思わしき男性が出てきた。
「いらっしゃいま……せ……」
にこやかに出てきた店主であったが、ユリアナとレイリアの粗末な格好を見ると表情が変わった。
「この子に合ったサイズの洋服を何点か見せていただきたいのだけど」
ユリアナは店主に尋ねるも、彼の目には明らかに軽蔑の眼差しが浮かんでいる。
(この女、一体何を言ってるんだ? お前たちのような貧しい人間が買えるような洋服など俺の店では扱っていないと言うのに。面倒臭いから適当にあしらって帰ってもらうか)
「あの、お客様。大変残念ではありますが当店に置いてある服は、どれも中々値が張る品物ばかりですので他を当たっていただいた方がよろしいかと思うのですが?」
(さあ、分かったならさっさと帰ってくれよ!)
「な……!」
明らかに侮辱されたと感じたレイリアは店主に食って掛かろうとしたが、ユリアナに止められた。
「この金貨1枚で買える洋服を持って来て下さるかしら?」
店主はユリアナが見せた金貨を見て驚愕した。
「き、金貨をお持ちのお客様だったんですね……。た、大変失礼致しました! すぐにそちらのお嬢様にお似合いの洋服を持って参りますのでお待ちください!」
慌ててバタバタと店の奥へと走って行ったのである。
レイリアにはお金の価値という物が全く分からなかったが今の店主の態度で金貨という物はどれ程すごい金額なのかと言う事が理解出来た。
「ねえ。私にはお金の価値という物があまり分からないのだけれど金貨1枚あればどれだけの事が出来るのかしら?」
「そうねえ……。例えばだけど、「小さなダイヤモンドなら買えるのではないかしら?」
ユリアナは事も無げに言った。
「そ、そんなに……?」
(流石はこの国の元女王様だわ。そんな大金を持ち歩いているのだから。おばあ様ってやっぱりすごい人なのね)
普段自分と同じように労働しているユリアナを見ていると、かつては女王だったという事実を忘れてしまいそうになる自分がいるのだった――