2-7 初めての街 1
レイリアがこの家に住み、ユリアナと一緒に労働するようになって1週間が過ぎた。
初日に蒔いた種からは立派な野菜が収穫出来るまでになっていた。
薪割作業も今では同じ量の薪を半分の時間で終わらせる事が出来るようになり、料理のレパートリーも少しずつ増えてきている。
口では何だかんだとユリアナに文句は言うが、元々本来のレイリアは素直な子供だったので、真面目に取り組んできた努力の賜物であるとユリアナは考えていた。
「この分だと、思っていた以上に早目に魔法と剣の鍛錬に入れるかもしれないわね」
ユリアナはレイリアが料理をしている姿を見つめながら呟いた。
「今日私が作った料理はどう? 自分で研究して生み出したレシピよ」
畑で採れた野菜にチーズと干し肉を加え、スパイスで味付けをしてかまどで焼いたグリル料理であった。
「まあ凄いじゃない。レイリア、料理の腕を上げましたね?」
「そうね、私だってやれば出来るっていう姿を見せてやろうかと思ったのよ。どう?見直したでしょう?」
「ええ、勿論です。それでは頂いてみましょうか?」
ユリアナは二人分の皿を出すと、スプーンで熱々のグリルを取り分けた。
一口食べてみると、味は絶品である。
塩味の強い干し肉とチーズの旨味が野菜と良く味が馴染んでいた。
「レイリア、料理がすっかり上手になりましたね。とっても美味しいですよ。これならパン作りもやれそうですね」
「ようやく私の実力が分かったようね。だったら早く私にパン作りを教えなさい」
「ええ、では食事が済んだらパン作りを伝授しますね。」
その後――
食事の後片付けをするとユリアナのパン作りの特訓を受けたのであった……。
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「では、レイリア。また明日ね。」
ユリアナは鏡の前に立つと声をかけた。
「ええ、分かったわ」
まだまだ寂しいけれども、レイリアは大分一人の夜には慣れてきた。
「あ、そうそう。レイリア、明日は街へ買い物に行きますよ」
「え? 買い物へ?」
今迄一度も街へ降りたことが無かったレイリアの胸はその言葉を聞いて踊った。しかし、サバトスにかけられた呪いで喜びを露わにする事が出来ない。
「ふ~ん。でも何故街へ行くの?」
「それは、これから貴女は街で買い物をしたり、色々な人々と接する事になるからです。今から自分で買い物の仕方も学ばなければなりません。」
「そう、なら行くしかないわね」
(嬉しい! 初めて街に出られるわ!)
レイリアは内心の喜びを隠し、冷静に返事をしたのである。
「それでは、また明日ね」
ユリアナは鏡の中の自分の屋敷へと帰って行った。
それを見届けるとようやく本来のレイリアの姿が表に出てくる。
「嬉しいわ……。街でどんな買い物をするのかしら。そう言えば私今迄お金を使った事が無かったわね。確か何かを買う時はお金が必要なのよね? 私、どういう物がいくら位で売ってるのかお城に居る時は考えた事も無かったし……。明日はおばあ様から買い物の方法をよく学ばないといけないわね」
明日への期待でレイリアは中々眠れぬ夜を過ごす事になったのであった—―