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2-6 労働に汗を流す姫 3

それから約30分後、何とか木を切り倒すと、休む間もなく蒔き割り作業へと入る。

手袋をはめ、斧で割り薪を乾燥させる棚へ運び、並べる……。

しかもこの薪を乾燥させる棚も特殊な魔力がかかっているのか、通常1年半かかる薪の乾燥もわずか1日で乾燥させてしまうらしい。

物凄く重労働な作業ではあったが、薪の予備は後数年は持つ程度の備蓄がされていたのである。


「薪割は毎日少しずつ作業すればだいじょうぶよ」


最終的にユリアナはそう言ったのである。



 夕食は昼にレイリアが作ったスープにパスタを入れてスープパスタを作った。

2人で食事を終わらせるとユリアナが声をかけた。


「1日中、労働して身体も汚れたし、疲れたでしょう。レイリア、入浴したいのではなくて?」


「ええ!? お湯を使えるのね?」


「そうよ、この敷地には地下水だけでなく地熱によって温められたお湯が沸いています。こちらにいらっしゃい」


ユリアナが案内したのはこの屋敷の奥にある部屋だった。中を開けてみると、レンガで作られた温泉がある。


「本当なら、ここは贅沢な設備なのだけどね。でもいざ旅に出た場合はお風呂なんて言ってる場合ではなくなりますからね」


ユリアナはタオルと石鹼を渡した。


「そんなの分かってるわよ!」


それを見たユリアナは笑みを浮かべる。


「ゆっくり入るといいわ」



ユリアナが用意してくれたお風呂は最高だった。1日の疲れも取れたし、あれ程筋肉痛で痛かった身体の痛みも消え去っていた。


「不思議な温泉……これも魔法がかかってるのかしら? ありがとう、おばあ様」


レイリアは素直な心でそっと礼を言うのだった――



****


「レイリア、私はそろそろ屋敷に戻りますが、貴女は今夜から一人でここで暮らしていくのですよ。そしてこれは私が作った簡単な料理のレシピです。寝る前にでも読んでおくといいわ」


お風呂から上がったレイリアにユリアナはノートを手渡した。


「え……? こんな時間なのに帰るの? 森の中を歩いて帰るのは危険じゃないかしら」


「大丈夫ですよ、ほら。御覧なさい、この鏡を」


ユリアナは壁にかかっている大きな楕円形の鏡の前にレイリアを連れて行った。

鏡を覗き込んで、レイリアは目を見開いた。


「え……この場所は……?」


「そうです、ここは私の屋敷の廊下ですよ。この鏡は私の屋敷と空間が繋がっているのです。だからいつでもすぐに貴女の元へ来れるので安心なさい」


「そ、そうね。これなら安心かもね」


「あら。そうだったわ。肝心な事を言ってなかったわね」


ユリアナはポケットから白い楕円形の石のような物をレイリアに見せた。


「レイリア、これは汚れを落とす魔石です。洗濯したい衣装と、水、魔石を一緒に入れて一晩置くと汚れものが綺麗に落ちますから、洗濯するときにお使いなさい。入れ物は……そうね、このタライにいれるようにしましょうか?」


ユリアナは納戸を開けると、大きなタライを出してきた。


「この魔石はマーヴェラス国から採石された石で作られたもので、国民全員が持っています。旅に出る時も持っていくといいわ」


レイリアは黙って頷いた。


「それじゃ、レイリア。また明日の朝来るわ。今日は疲れたでしょうからゆっくり休むのよ。おやすみなさい」


「……おやすみなさい」


レイリアの返事にユリアナは黙って頷くと、鏡に右手で触れた。すると驚く事にずぶずぶとユリアナの身体が鏡の中に飲み込まれていく。


レイリアはその様子を固唾をのんで見守っていた。

やがて、ユリアナの身体が完全に鏡に飲み込まれると、レイリアの方を振り返り手を振った。

レイリアもそれに合わせて手を振ると、ユリアナは満足そうに頷いた。次に鏡の映像がグニャリと曲がり—―

気が付いてみると、鏡にはレイリアの部屋が映し出されているだけだった。


「行っちゃった……」


レイリアはポツリと呟き、涙をぬぐった。どうやら無意識のうちに涙を流していたようだ。


「うううん、一人が寂しいからって泣いていられない。だってこの先私は一人で旅に出るのだから」


強く生きる。

レイリアは夜空に誓うのだった――




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