プロローグ 2
先代が偉大な魔導士であった為、代々この国の王族にはその魔力が引き継がれている。
レイリアの父も魔力保持者であるが、どのような魔力を持っているのかは側近のみしか知られていない。
王族は10歳頃までに魔力に目覚めると言われている。
レイリアの父であり、現国王――ジークベルトは5歳で魔力を手に入れていたのだ。
「私もお父様のように魔力に目覚めていれば、もっとお父様のお役に立てるし、国の人達のお仕事の手伝いをする事が出来たのに」
10歳になっても一向に魔力に目覚めない自分が歯がゆくて口を尖らせた。
「大丈夫ですよ。婆やは信じております。姫もいつかきっと魔力に目覚めて皆さんのお役に立てる日が参りますよ」
「ありがとう、婆や。それじゃ、お父様に朝のご挨拶に行って来るわ」
レイリアが部屋の扉を開けると、ブラウンの髪の若い護衛の兵士――ミハエルが待機しており、レイリアを見ると敬礼した。
「お早うございます。レイリア様。本日も大変可愛らしゅうございますね。それでは陛下の元へ参りましょうか?」
「ミハエルさん、私なら一人でお父様の元へ行けるから大丈夫ですよ。それにこの国は魔導士様が守って下さってるので危険な事は何一つありませんから。毎朝待たせてしまうとミハエルさんだって大変でしょう?」
「レイリア様からそのようなお言葉を貰えるなんて、感動致しました。ですがどうかお気になさらないで下さい。護衛騎士に名乗りを上げたのは他でもない、自分なのですから。レイリア様の元で働けるなんて光栄至極です」
「そこまでミハエルさんが言うのなら……ではこれからもよろしくお願いします」
「はい、姫様。それでは参りましょうか?」
ミハエルは深々と頭を下げた――
――その頃
国王のジークベルトは執務室で仕事をしていた。
まだ28歳という若さのジークベルトは父親と言うよりはまだ青年のようにしか見えない。
レイリアと同じ金の髪で、エメラルド・グリーンの瞳は淡い光を帯びているようにも見える。そしてこの光は魔力を持つ人間の証でもあった。
国王の側には側近ヨハネスが控えていた。この二人は幼馴染で、お互い固い信頼関係で結ばれている。
「お父様!」
レイリアは執務室に入ると父親に駆け寄り、その膝に飛び乗った。
「おはよう、私の可愛い姫君」
ジークベルトはレイリアを抱きしめると、額にキスをした。
「ねえねえ、お父様。私また教会に行って神様にお祈りをしたいの。お母様が元気になって無事に赤ちゃんを産むことが出来ますようにって。ね? いいでしょう?」
レイリアは瞳を輝かせながら懇願した。
「そうかい、レイリアは本当に優しい子だね。でも今は仕事が立て込んでいて私は教会に連れて行ってあげる事が出来ないんだ。それに城の者達も皆今は忙しくてね。すまないがもう少しだけ待っていてくれるかい?」
申し訳なさそうにジークベルトはレイリアの頭を撫でる。
「そうなの……。それなら仕方ないわ。ごめんなさい、お父様」
「すまない、レイリア。実は近いうちにお母さんの国へ行く事になっているんだ。代わりにそこでお土産を買ってきてあげるよ」
「え? お父様、それ本当?」
「本当だよ。レイリアは貝が好きだったね。何か可愛らしい貝のアクセサリーでも買って来てあげよう」
「ありがとう、お父様。大好き!」
レイリアはジークベルトの頬にキスすると膝から飛び降りてヨハネスに挨拶した。
「ご挨拶が遅れてすみませんでした。おはようございます」
「おはようございます。レイリア様」
ヨハネスは笑顔で挨拶する。
「またね、お父様」
レイリアはスキップしながら部屋を後にしたのだった—―