2-2 新しい家 2
「何処へ連れて行こうと言うの?」
レイリアはユリアナの後ろを歩きながら尋ねた。
「これから貴女が暮らす家よ」
ユリアナは振り返りもせずに森の中を歩き続ける。
「え! 何ですって!? 私はあの屋敷でこれから暮らしていくのではなかったの?」
「そうよ。これから貴女は私が用意した家で一人で暮らしていくのです。勿論慣れるまではこちらにも考えがありますからその辺りは心配しなくても大丈夫よ」
「そんな! 私をたった一人にするなんて、こんなの納得いくわけ無いでしょう!」
レイリアは姫であり、しかもまだ10歳の少女だ。無理も無い。
「大丈夫よレイリア。最初は不安かもしれませんが、その内慣れますから」
「信じられないわ……! たった一人で暮らせだなんて……!」
ブツブツ文句を言うも、まるで意に介さないようなユリアナにレイリアは苛立ちを覚えるのだった――
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屋敷を出て5分程森の中を歩くと、ユリアナは足を止めた。
「ここよ。今日から貴女はここで一人で暮らしてゆくのです」
ユリアナが指示した場所は不思議な空間だった。直径50m程の更地の土地を木々が囲むように生えている。
「え? 何にも無い只の空き地じゃないのよ。私に野宿をしろと言うの!?」
レイリアはユリアナをキッと睨み付けた。
「いいから落ち着きなさい。よく見ているのよ」
ユリアナは更地に右手を掲げる。
「イデア・ディル・マーヴェラス」
するとユリアナの発した言葉に呼応するかのように空間が揺らめき、一瞬で2階建ての木造のこじんまりとした家が姿を現した。
「え? な、何なの!?」
驚いたのはレイリアである。何も無い空間に突然家が現れたのだから無理もない。
「ふふふ……驚いたでしょう? この家は魔法陣によって周囲から閉ざされた空間にあるの。今唱えた言葉により、ここに姿を現すのよ。勿論、この家を今の空間から切り離す言葉もあります。それを唱えればこの家は完全に外界から遮断され、外部からの危険を受ける心配も一切無くなる仕組みになっているのですよ。そしてこれがその呪文」
ユリアナは再び右手を出現させた家に掲げて唱えた。
「グノーシア・フィル・マーヴェラス」
すると今度はまた空間が震え、二人の前から家が完全に消え失せたのである。
「す、すごいわ……」
思わず感心するレイリア。
「どう? レイリア。これなら森の中の家で一人で暮らしても何の危険も無いから、安心出来ますね?」
ユリアナは呆然としているレイリアに向かって笑みを浮かべた。
「そ、そうね……。これなら私一人でも安心して暮らせそうね」
まさかマーヴェラス王国にこのような高等魔術が存在しているとはレイリアは思いもしなかった。
「ではレイリア。先程の私を真似して家を出現させてみなさい」
ユリアナに促されてレイリアは右手をかざした。
「イデア・ディル・マーヴェラス」
すると先程と同様、二人の前に家が出現したのである。
「では次にこの家を外界から遮断してみなさい」
レイリアは頷くと呪文を唱えた。
「グノーシア・フィル・マーヴェラス」
すると今度は家が見事に消え失せたのだった――