1-8 宿命
「レイリア、入るわよ」
「おばあ様……?」
ユリアナはベッドの上に伏していたが、身体を起こした。今もその全身は黒いモヤに包まれている。
「レイリア、随分闇の魔力を吸い取った様ね。しかも最後に相手の呪いがかかった魔力まで吸い取ってしまうなんて。私と一緒に来なさい。このままこの城に居ては、魔力を持たない人々が貴女の放つ闇の力に取り込まれる事になるわ。それに今のままの状態でいると数年以内に死んでしまうわよ」
ユリアナは淡々とレイリアに語った。
「う……嘘よ、私が死ぬ? 誰が貴女なんかの言葉を信じると思うの? それに私がこのままこの城に残れば、城中の人間を苦しめる事が出来るのよね? 是非この目で確かめてみたいわ」
レイリアは口元に笑みを浮かべた。
「レイリア、私には貴女の心の声が聞こえているわ。おばあ様、私を助けて、苦しいってずっと訴えかけているのを。その証拠に貴女、泣いているじゃないの」
「嘘よ! 泣いてなんかいないわ。泣くわけ無いじゃないの!」
しかし、レイリアの両目からは涙が溢れている。
「可哀そうなレイリア……。待っていなさい。せめて今身体から溢れている闇の魔力だけは消してあげるわ」
言うとユリアナは懐から小さな水晶玉を取り出し、レイリアにかざした。
「水晶よ、その聖なる力であの者から闇の瘴気を吸収せよ!」
途端に水晶が目もくらむばかりに輝きを放ち、レイリアから漏れ出している瘴気をグングン吸い込み始めた。
「ア……アアアッ!!」
レイリアは苦しみの声を上げた。
「耐えるのです! レイリア!」
ユリアナは必死で呼びかける。
やがて徐々にレイリアの身体から放たれる禍々しい瘴気は消え、代わりに水晶玉の中にはどす黒い靄が封じ込められている。
「この位で大丈夫そうね……」
ユリアナは額に汗を浮かべながら言うと、水晶玉に手をかざした。
「水晶よ、闇の力を浄化せよ」
すると黒い靄が徐々に消失していき、やがて水晶は元の輝きを取り戻していた。
「どう? レイリア。身体が楽になったでしょう? これで他の人達に貴女の闇の力で影響される恐れは無くなった」
ユリアナは満足そうにレイリアに語る。
「随分余計な真似をしてくれたわね……。でも絶対貴女に感謝なんてしないから」
憎々し気にレイリアは睨みつけた。
「やはり身体から溢れ出す闇の瘴気は消す事が出来ても、貴女にかけられた呪いを解くまでには至らなかったみたいね」
確かに闇の瘴気は消え去ったが、レイリアの髪は相変わらず漆黒の色に染まり、口から出る言葉も人を蔑む内容ばかりだった。
それでもユリアナにはレイリアが<ありがとう、おばあ様>と訴えているのを理解していた。
「レイリア、よく聞きなさい。貴女の身体には未だ解けない呪いがかけられています。その証拠が漆黒の髪に赤い瞳。何より心とは正反対の言葉が口をついて出てしまう、おぞましき呪いです。この呪いを解くことが出来るのはただ一人、貴女に呪いをかけたサバトスだけ。しかし彼は貴女に魔力を吸い取られた事によりカラスとなって飛び立ちました。完全な人型に戻るまでは居場所を感知する事が出来ません」
レイリアは黙ってユリアナの話を聞いている。
「そこでレイリア、貴女はサバトスが完全に復活するまでに魔力、そして剣の腕を鍛えるのです。呪いを解くためには自分の力で彼を倒さなくてはなりません。まだ貴女は魔力に目覚めたばかりですが、私は貴女がマリネス王国でサバトスと戦う姿を視ました。貴女の魔力は恐らく私を凌ぐと確信しています」
ユリアナはレイリアをじっと見つめる。
「強くなるのです、レイリア。そして時が満ちたら旅立ち、サバトスを見つけて自分にかけられた呪いを自分自身の力で解くのです! それが貴女の宿命です」
レイリアは口を開く代わりに心の声で応えた。
<分かりました。おばあ様。私、強くなっていつか必ず呪いを解いてみせます>