3rd chapter. 「脱出」
「どうやら、気付いたみたいですね。」
「しかし、もう遅い。」
「でも、これからでしょう。あの子には頑張ってもらいたいものです。」
「そうだな、貴重な『合格者』なのだ。」
「では、僕はこれで。」
「うむ、ご苦労だったな。」
この村の人口は30人。私は20人ほどに質問して得られた情報が、「木陰で休む事が出来る。」「村には週に一度イベントがある。」「そのイベントは明日。」というものである。確かめているうちに、自分の行き場を狭めていたのだ。
もう、これ以上尋ねる質問がなかったのもあり、本質を問う質問には答えてくれないというのもあり、私は少し休むことにした。村人から聞いた、「木陰で休む事が出来る」を頼りに、大きな大木の木陰に腰掛けた。その大木はこの村で一番大きく、背も高い。何人かの村人もこの木陰に座っていて、休憩所がないこの村にとっては唯一のオアシスと言ったところだ。
そういう私も、木陰でゆっくりしているうちにうとうとしてきた。
目が覚めると、がらりと雰囲気の変わった村がそこにはあった。なんだか、賑やかである。賑やかさは昨日の活気のなかった村からは考えられない。私の休んでいた木陰の周りに人はいなくなっていた。村中の村人が村の中心で何やら騒いでいるのが聞こえた。
気になり、行ってみると30人の村人が踊りを踊っていた。どの村人に話しかけても「ああ、たのしいなあ。」「やっぱり祭りは楽しいな。」と、昨日と違う答えが返ってくる。ただ、今日は質問に答えてくれない。村中が私を見えない者として扱っているように感じた。
「村には週に一度イベントがある」「そのイベントは明日」と言っていたが、私がうとうとしているうちにそんなに時間がたったのだろうか。不思議なものだ。また、私は大きな大木の木陰へと歩いた。
歩く途中、一枚の紙切れを拾った。何やら絵が描かれている。そして、その絵の説明のような文字も書かれている。一部の文字は読む事が出来た。その紙きれの上の方には、『希望の剣』と書かれてある。そのほかの文字はなぜか読む事が出来ない。私はその紙きれを服の中に入れた。
大きな木の木陰につくとなぜか眠くなる。私はまた木陰でうとうとしてしまった。
目が覚めると、村の様子が元に戻っていた。さっきまでの活気のあった村ではなく、みんな元通り活気のない表情をしている。木陰から居なくなっていた村人たちも木陰に座っている。
何か尋ねるとやっぱり「週に一度イベントがある」「そのイベントは明日」などの情報しかくれない。
この木陰もなんだかおかしい。私が休もうと考えると、それだけでうとうとしてくる。うかうか休んでなんかいられない。
そして、極めつけはイベントの日に村で拾った紙切れである。一部の文字は読めるのに、それ以外の文字は読む事が出来ない。
これらは何を示しているのだろうか。不思議な世界から、ドアを抜けて現れたこの世界。この世界も謎だらけである。私はいつの間にか、この謎を考えることに没頭していた。疲れたら木陰で休み、また考える。そんな試行錯誤をしているうちに、私はある結論にたどり着いた。
6回木陰で休むと、イベントがある日がやってくる。つまり、木陰で休む事はそれ自体がその日の終わりを指していた。また、木陰で休まない限りはずっと日は変わらない。いくら待っても日は落ちないし、だから、次の日も来ない。村人は時計なんかしていないし、私も時計なんか持っていない。時間という概念が全て、この大木にゆだねられているのである。極端な話、この村には時間が流れていない。つまりはそういう事なのである。
それにしても、多くの時間を無駄にしたと思っていたが、時間が流れていないことが分かるとなんだか安心した。閉じ込められたのには違いはなかったが、一つ一つ物事が明らかになっていくとそんな閉塞感から少し解放された気分になるのだ。
まるでテレビゲームのような世界。村という狭い空間ではあるが、RPGとシュミレーションを同時にやっているような、そんな感じである。
そろそろ分かってくるんじゃないかなって時に、思わぬ邪魔ものが現れた。いつしか私を迎えにきた『案内人』だった。
「さて、そろそろ帰りましょう。『管理者』が待っている。」
これからが大事な時だって言うのに、あまり帰りたくはなかった。
「まだ、全部終わってないのよ。きっともう少しで真実にたどり着くはずなの。」
『案内人』はこう答える。
「真実?いえ、そんなものここにはありませんよ。私が作った仮想空間なのですから。」
私は「へ・・・?」と、ポカンとした。
「まだ、完成していなかったのですよ。このゲーム。イベントはむちゃくちゃだし、質問には答えてくれない村人には困ったものでしょう?」
なんだか、私は一杯食わされたような気持ちになった。いわゆるテストプレーヤーと言うやつになったのだ。
「でも、アクシデントも起きました。全てのあなたの行動は私の想定内で行われていたのですが、一つだけ。あなたが拾ったその紙切れ『希望の剣』ですが、私はそんなものプログラムした覚えはありません。」
「どういう事?」
「つまり、あなたの周りには災害が起こるってことですよ。」
私は『案内人』にうまくはぐらかされたような気分だ。しかし、彼はその事については詳しくは話してはくれなかった。
『案内人』は何やら呪文のようなものを唱え始めた。ぶつぶつぶつぶつ・・・。すると私たちは黄色い光に包まれ、このゲームの外へ飛んで行った。飛んで行ったように思えたが、このゲームのスイッチが切れただけだったようだ。この事は、ゲームから脱出した後、ドアの向こうのあの部屋にある据え置き型のゲーム機を目にするまで信じられなかった。




