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紅蓮ノ月  作者: 夢うつつ
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2nd chapter. 「ドアの向こう」

 『案内人』はじっと直立不動のまま立っている。私としては口をはさんで空気を和ませてもらい他のだけれど、『案内人』は確実に『管理者』の前では簡単には動けないみたいだ。私の頭の中で次のような式が成り立つ。


『管理者』>『案内人』、『管理者』>『合格者』、『案内人』>『合格者』


 私は新入社員のようなもので、ここでは勿論一番下っぱなのだ。別にそれに苦痛はなかったが、居心地の悪さはここに居る時間と比例して大きくなっていく。


 『管理者』は、3人の関係を話た後、少し別の話をして私をあらかじめ用意してあった部屋へと通してくれた。『管理者の部屋』ほど豪華な装飾などは施されていなかったが、それなりに美しい作りとなっている。部屋の中の家具は、シングルベッドが一つと、少し大きめのクローゼットが一つ。それだけのシンプルな作りだったが、装飾はあちこちに散らばっている。電飾一つとっても、どこかの芸術家の作品のような出来栄えである。私はとりあえず大きなベッドに腰掛けた。


 まもなくドアをノックする音が聞こえた。ノックからあまり時間のたたないうちに、ドアが開き『案内人』が入ってきた。

「この部屋の使い方を少し説明させてください。」

ここにきてまたもや説明。うんざりする。だけど、私は新入社員なのだ。慣れるまでは説明の嵐に耐えなければならない。


「あれはベッドです。そこで眠る事が出来ます。」

そんなことは知っている。

「そしてあれはクローゼットです。衣服の管理はあれ一つで十分だと思います。」

そんな事も知っている。

「説明は以上です。」

「は?・・・」私はまたもや後で後悔するような顔をしてしまった。しかし、疑問は残る。

「それだけ?説明って・・・。」

「ええ、十分かと。」

確かに十分だけれど、しなくてもいいじゃないか。と思う私を背中にいつの間にか『案内人』は私の部屋のドアを閉め、私の目の前から消えていた。


 私はベッドに横になり、不思議な世界の1日目を終えた。これが1日という概念があっての話だが。


 次の日の朝、私はベッドから起き上がりカーテンを開けようとしたが、この部屋にはカーテンはもちろんのこと、窓なんてものがなかった。明るい装飾や、灯で分からなかったが、窓がなかった。


 カーテンを開けられなかった私はもう一つの疑問に直面した。クローゼットである。クローゼットの中身は、空っぽ。大体どうしてクローゼットなのか。どうせなら、もっと暖房器具とか本棚とかにしてほしかった。この部屋の意図がさっぱりわからない。


 「説明の時間です。」

いつの間にか『案内人』が私の部屋に立っていた。

「ちょっと、女の子の部屋に何勝手に入ってくるのよ。ノックぐらいしなさいよ。」

「ノックなら、ちゃんとしましたよ。」

いろんな事考えていて気付かなかったのだろうか、それともこの男のでっち上げた嘘なのだろうか、今となっては分からなくなってしまった。


 「それでは説明を始めます。3人の関係は昨日『管理者』から聞いたとおりですが少々補足を入れておきますね。将棋とかチェスというゲームを御存知ですか。『管理者』はあれらでいう王将やキングの事、私たち『案内人』『合格者』は他の駒、という位置関係にあります。ただし、『案内人』は『合格者』の補助、『合格者』は『管理者』『案内人』のガードと言う事になります。『案内人』『合格者』の違いはそれくらいですが、『管理者』は絶対の権力者だという事を忘れないでください。」


 要するに、『管理者』>>>>超えられない壁>>>>『案内人』=『合格者』だという事なのか。立場的には。私は少し昇進した気分になった。


 『案内人』は私を連れていつの間にかある部屋の前に立っていた。本当にこの男の存在はいつの間にかという事に限る。行ったり来たり、その過程が目に見えない。まるで何かの超能力者のようだ。


 「今からこの部屋に入ってもらいます。説明は以上です。」

そういうと『案内人』は『合格者』である私をその部屋の中に押し入れると勢いよくドアを閉めた。部屋の中に入ると私は突然ながら、意識を失った。


 「ちょっとサボりすぎじゃないか。説明は『案内人』の責務であろうに。」

「申し訳ありません、次からは気をつけます。」

「別に責めているわけじゃないよ、それが君のやり方だというならね。」

「彼女は少し不安定なので、試練は厳しい方がいいかと。」

「もしかして、あの部屋に入れたのかね。」

「はい、私は『案内人』ですので。」

「無事に帰ってきてくれるといいのだがな。」

「私もそう思います。」

『管理人』『案内人』はしばしの語らいの後、別れた。


 目が覚めた。確か、部屋に閉じ込められた後、意識が遠のいていったところから意識がはっきりしない。つまり、その次の場面だという事になる。私は起き上がり、とりあえず周りを見渡してみる。


 草原。とても部屋の中だとは思えない作りである。今まで信じがたい事をしていなかったら私は発狂し三月記の虎のごとく身を変えていたかもしれない。


 少し歩いてみた。いつものように息は切れるし、運動不足の体も悲鳴を上げそうになる。疲労を体に感じる事が出来る。私は生き返ったのだろうか。ほっぺたをつねってみる。これは夢ではない事が分かった。最初から夢でない事は分かっていた。つまり、無駄にほっぺたを痛めてしまった。


 歩いている途中、一人の若者に出会った。いくら名前を聞いても教えてくれなかったが、その若者はこの先に村がある事を教えてくれた。その若者と別れた後は、誰とも会わずに再び私は歩き始めた。


 村は案外遠いところにあった。若者の言うこの先というのは非常に遠い“この先”だったに違いない。しかし、今の私にとってはそんなことはどうでもよかった。村という存在が私の心を安心させた。同時に、ここが現実世界だとしたら、と、身の回りに起こる災害の為に離れて行った友人たちに会うのが少し怖かった。


 村の立て看板を見る。文字はかすれていて見えない。ただ、【~~村】とだけはっきりと読み取る事が出来る。村である事には間違いはない。私は、村の中へと足を進めていく。


 村には活気などなかった。みんな暗い顔をして、うつむいている。同じ範囲を行ったり来たりしている。人というより、どこか機械じみた印象を受けた。お互いの会話もなく、ただ同じ場所を行ったり来たりしている。


 勇気を出して話しかけて見た。

「あの、すみません。ここはどこですか。」

私の問いに対しての回答はすごく早かった。早いというより、反射的に聞かれる事が初めから分かっていたような反応だ。

「この村には名前などありはしないのだよ。」

名前がない村。この時はまだ私は気づいていなかったのだが、ふとしたことからおかしい事に気付き始めた。


 この村についての話を聞こうと思い、何人かの村人に一度ずつ話しかけていった。2人、3人と話を聞いて行くうちに、村人の話し方の奇妙さが出てきた。


 奇妙さと言っても、普通に話しかけ、対応してくれる分には何の問題もない。ただ、本当に奇妙なのだ。というのも、全ての対応が反射的なのだ。しかも、同じ言葉しかしゃべらない。私が、「この村で休めるところはありませんか?」と尋ねると、村人は「あの木陰で休むといいよ。」と言ってくれた。その村人に今度は「その傷はどうしたんですか。」と尋ねると、「あの木陰で休むといいよ。」と言う。


 どんな村人も、私の問いには答えてくれるが、一度答えた村人はその答えしか言わなくなるのだ。村人の数は限られている。その中であらゆる情報を入手すべきであった。私は確認のためだけに村人の約半数にくだらない質問を投げかけ、くだらない回答を得ていた。


 今はすっかり『案内人』『管理者』のことなど忘れていた。私はこの村の事で頭がいっぱいだった。この村は何なのか、私がここに来た理由、それらを考えているうちにどんどん分からなくなっていく。


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