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紅蓮ノ月  作者: 夢うつつ
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prologue. 「空へ」

 ここ最近、この星はどうにかなってしまったのだろうか。私が思っている以上に、この星は残酷である。例えばの話、地震や雷は勿論のこと、私の恋愛事情にまで頸を突っ込んでくるほどの残酷ぶり。どうにかならないのかしら。


 ある時の事。私が彼と夕方一緒に帰っていると、突然の地割れ。ちょうど、私と彼の間を引き裂くように入ったそのひび割れはそのまま私たちがつないでいた手を引き離した。


 またある時の事。私が彼とメールしていると、突然の雷。今は携帯電話があるおかげで家の電線を断ち切った雷も私の携帯には関係ないかなと思っていたところに図ったかのように電池切れ。その時の彼は、私の事を束縛したがる人だったから、次の日にどんなにメールを待っても帰ってこないと怒鳴られた。理由を話そうと思ったけど、こんな彼氏を説得する義理なんてないなって思ったら、いつの間にか一緒に居なくなっていた。


 こんな事が何度も続くとさすがに偶然の産物とは思えなくなっている私がいた。お祓いにも言ったし、SFが強そうな友達にも何人か相談してみたけど、一向にその傾向は収まらなかった。


 なんか、むしろどんどんエスカレートしているみたいだった。


 私はそんな生活が怖かったんだけど、それも慣れてきて一種の人生なんだろうなと半ばあきらめかけていた。別に楽しい事がなかったわけじゃないし、そんな災害に命の危険を迫られた事はない。友達に話題として話すときには必ず言われるのが「よかったね、なにもなくて。」で、そんなセリフももう聞きあきた。


 まだまだ、災害は続く。地球にとっての災害であって、私にとっては一つのイベントでしかなくなっていった。私の周りの友達も、そんな災害を恐れ、少しずつ離れて行った。災害が起こっても私は何ともないと分かっているけれど、隣で災害を呼ぶ私みたいな存在がいて気持ちいいはずはない。それは間接的にも伝わってくるから、メールや文通なんかもしなくなっていった。


 地球さん、私は何をしたっていうの? さすがに友達が離れていくってのは、私にとってすごく悲しい事だった。


 私は買い物に行くにしても、綺麗な景色を見に行くにしても、一人ぼっちだった。独りで夕方の細い道を家路についていると、反対方向から見た事もない老婆が歩いてきた。いや、歩いて来たのかは分からないけれど、気がついたときには目の前にいたから、はっとして私は立ち止まった。その老婆は深々と薄気味悪い頭巾をかぶっていた。


 「おじょうさん、あんた、死ぬよ・・・。」

「えっ?」私は面喰ってしまった。初対面の老婆に死ぬと言われた。災害を周りに起こす力を持った私でも、その言葉はさすがに心に焼きついた。

「えっと、どういう意味でしょうか?」

落ち着きを取り戻した私は、老婆に尋ねた。すると老婆は、かぶっていた頭巾を更に深くかぶったかと思うと、何も話さずに私とすれ違った。すれ違った老婆をすぐに目で追いかけたが、不思議な事にもう気配すらなくなっていた。


 相手は年のいった老婆である事を考慮して、「へんなこといわないでよ!」なんて叫ばなかった。でも、死ぬっていう言葉は頭の中に引っかかったままだ。


 死ぬってどういう意味だろう。私はそれから毎日その事ばかりを考えて、鬱になっていった。災害の次は、死。何かとりついているとしか思えない。

 

 私は何が何だか分からないうちに、後日、いつの日かすれ違った老婆の予言通り、死んだ。死因は、不明。自分にすら分からないんだから、後で触ってくる他人なんかには絶対にわかりっこない。


 そして、私は肉体を残し、空へと召されていったのだ。これが、この物語の始まり。

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