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幹事長 川端朝日くんの性春コンプレックス  作者: 七篠 康晴
Chapter 1.6 黄金になる方法

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エピローグ 駆け抜けて性春



 気怠い体を引きずって、布団から這い出る。時計の時刻は十四時を回っていて、三限にすら間に合わないことに気づいた。あの後、徹夜で原稿を書き上げて、朝五時にそれを送ったことに後悔はない。


 惰眠を貪り、気高く飢える俺たちは、自分たちだけの黄金時代を待っている。やっぱり、社会の物差しから逃れることは難しいけれど、この潤沢な時間を使って、自分だけの黄金を磨き上げなければならないと知っているのだ。


 もう、遅刻して講義に出る気もなくなって、部室にやってきた。鍵はどうやら開いているようで、誰かがいる。


「おつかれー。みんな」


「あ、朝日……その顔は、寝起きだね。おはよう」


「あ、お疲れ様。朝日くん」


「川端くんお疲れ~」


 堀江と、昨日の夜ロータリー広場で語り合ったメンバーがそこにはいた。どうやら彼女たちも、いてもたってもいられなくなって、ここに集ったみたいだった。


「……昨日は世話掛けたな。宵原。鹿崎」


「ううん。全然良いよ。朝日くん。面白いものが見れたから」


「まあ、確かに面白かったよねー。あそこから、ありえない勢いで川端くんがいろいろなやつにレスバ仕掛け始めたとき」


「なんか謎に、酒を奢られてつまみを分けられたのは覚えている」


 堀江が楽しそうに、昨夜の話を聞いていた。どうやら彼や他のメンバーは、すでに俺が送った原稿に目を通しているようで、少し照れくさかった。


 彼女たちとともにその感想を話し合ったり、誤字脱字の修正をした。俺は自分が大学生たる意味とはなんなのか、ということを取り上げ、その意味をこの学生研究会というサークルにいる他者から導出することができた、とした。具体的な趣味もない、同好会ですらない集まりの特徴というのが現れ出ていると思う。


 四人でテレビの電源を点けて、ゲームを始めた。カチャカチャというコントローラーの操作音がなり、負けた宵原の嘆きの声が部室に響き渡る。途中抜けした鹿崎はカクテルについての本を開き、それをめくった。



 月葉。俺は、大学に来て良かったと思うよ。


 貴女を失った痛みだけが残り続けているけれど、その傷も、俺の黄金のひとつだ。この出来事なしでは俺を語れない、俺を俺たらしめる、鈍い輝きのひとつだ。

 だから俺は、これからの時間を全力で駆け抜ける。その全てを、自分にとっての黄金にするために。


 血反吐を吐くほど、苦しんでやろう。

 脳が焼き切れてしまうほどに、喜んでやろう。

 夜も眠れなくなるほどに、言葉に渦巻いて、悩んでしまおう。

 言葉の一つも紡げないくらい、呆気にとられよう。



 ふと、考えてみる。

 まだ貴女は生きている。自分だけの宝石を握っている貴女は、社会の黄金律なんて知ったこっちゃない。だから高校生のとき、貴女は、自分が夢見た何かを追いかけて、全てを置き去りにして旅立った。


 もちろん、状況から考えて、そんなポジティブな理由であると考えるのは、あまりにも希望的観測が過ぎると思う。ただもし貴女がまだ生きていて、これから年を重ねていくのなら。そしてまた過去を捉え直すのであれば、きっとこれは黄金になるだろう。俺を切り捨てたということさえも、貴女の輝きの一部になって、それは貴女を魅了する。貴女ひとりを虜にする。


 貴女が、全てに蓋をして、目をそらすようなことは決してない。

 なぜなら、貴女が俺にこのことを教えてくれたのだから。


 どうか、自分のこの学内での活動が、どこかにいる貴女に届くほどの力を持てますように。もしそんなことが叶って、俺が楽しくやっているという事実が、貴女の過去を黄金たらしめるようになるのであれば、こんなに嬉しいことはない。



 部室の扉から、ガチャリ、という音が鳴る。


 繊細なようにも聞こえるその音遣いからして、丹波茉美耶だろうか。いやそれとも、意外と緊張しいの雀野栄楽だろうか。はたまた、飛び入り見学で来るような、まだ見ぬ人やもしれない。

 どんな奴でも掛かってくればいい。俺は全力で食ってかかって、黄金を発掘してやる。


 さあ次は、誰が来るだろう?



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