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幹事長 川端朝日くんの性春コンプレックス  作者: 七篠 康晴
Chapter 1.4 叫んでしまいたいだけ

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第五話 レッツチンタオ


 気づけば、ずいぶんと遅い時間になっていた。


 きっと、堀江あたりが要らない気を回して、集めてくれたんだと思う。全員の都合が合うようにすれば、開始時間が遅くになってしまうのは当たり前のことで、更に話が盛り上がった結果、全員お腹がペコペコになってしまった。せっかくなら皆でご飯に行こうと提案した堀江に乗っかって、大学近くの店を吟味する。


「うーん、チェーンはできれば避けたいな……かといって歩いて行くのもなんかなあ」


「あ、あと安いのがいいね」


 堀江と二人で先頭を歩きながら、考えていた。


 そういえば、少し離れたキャンパスの前に、餃子屋がある。そこの水餃子がとても美味しいという話をしたら、満場一致で、そこにすることになった。ガラス張りで中の見える店舗の方へ行くと、そこには店員さんを除いて、誰も客がいなかった。待たずに済むことに喜びを感じつつ、店へ要らない心配をかけながら、入店する。


「いらっしゃいませ」


 日本語になまりの入った店主が迎え入れてくれた。


「えーっと、あーっと、五名で!」


「いや私もいるから六名だって、何奴」


 話し合いにほぼ参加せず、部室ではドカ寝を繰り返している酒飲み野郎を弄ってやろうと思ったら、条約違反のカウンターが行われた。


 ツイッターの話を現実でする奴に、ろくな奴はいないのである。

 此奴、何奴。


「ふふ、武士みたいな口ぶりですね。鹿崎先輩」


「えー、あはは」


 何も知らない丹波ちゃんが、ニコニコと笑っていた。


 これ以上話をするなという眼光で天ちゃんを睨みつけていると、鹿崎が手を上げ降伏の意を示した。

 席に着いた後、テーブルに貼られたラミネート加工済みのQRコードを、店員さんが指差す。


「こちらから注文お願いします」


「はーい」


 壁に貼られたメニューと、QRコードを読み取って見れる注文画面以外に、メニューを見る方法はないらしい。


「あ、朝日ー。ライス大ね」


「先生はライス大じゃありません」


「あ、朝日せんせーい。水筒飲んでも良いですか?」


「瑞規ちゃん。水筒は飲めません」


「こういうの幼稚園のときガチでムカついてたからやめてくれない? 川端。あー、イライラしてきた。水筒のやつマジでムカつく」


「雀野先輩は幼稚園のときムカついてたこと覚えてるんですか……?」


「え、うん。積み木の一番小さい四角がなくなったとき、最初に疑われたのとかまだ覚えてる」


 いきなり鹿崎が手を挙げた。


「あ、すみませんチンタオビールください」


「注文はQRコードからお願いします」


 とりあえず全体のことを考えて適当に、水餃子や焼き餃子、皆で分けられそうな中華料理を入れていく。


「あれ……私、こんなの入れなかったんだけどな。消しときますね、先輩」


「……なあ。なんか堀江のライス大を何回カートに入れても消えるんだけど、これバグかな?」


「あれ、朝日くんも? 私のエビワンタンも全然入んないんだよね」


「うーん? ……おいちょっと待って。丹波ちゃん今何消した?」


 スマホをおそるおそる操作する丹波ちゃんが、俺を上目遣いで見た。


「えっとぉ……なんか、私入れてないのにライス大が何回も入ってくるんですよ。主にそれと、あと他にもいくつか」


「あ、分かったよ朝日! これもしかして、端末一つしか使えない感じじゃない? カートとか全部共有の状態でさ」


 堀江の言葉を噛み締め、何が起きているのか理解した丹波ちゃんが、あわあわする。


「みゃ、みゃああああああすみません! 堀江先輩のライス大が……何回も消しちゃいました!」


「もうこれライス大食うなっていう神の思し召しなんじゃないか?」


「仕方ない、中にするか……朝日。こういうこともあるよね」


「え、ご、ごめんなさい消しちゃって! わざとじゃないんです! 堀江先輩は是非ライス大を食べてください!」


「ぼくなんか恥ずかしくなってきた。ライス大って何回も連呼されてると、なんか……」


「まあ、丹波ちゃん。そういうこともあるよ」


「みゃ、すみません……」


 ライス大を消していたのは丹波ちゃんだが、宵原のエビワンタンを消していたのは、実は俺だったりする。それと、少し肩を震わせている宵原は、俺のミミガーを消したはずだろう。


「ねえ、私はチンタオビールだからね」


「自分で注文してくれ、鹿崎」


「なんか川端くん私にだけ当たり強くない?」


 浪人界隈の有名アカウント、浪ランドは言った。世界には二種類の人間がいると。浪か、浪以外か。その理論に乗っ取り彼女には浪の扱いをしていたが、あまり良いものでもないだろう。


「しゃーねーな。俺も飲むか。レッツダブルチンタオ」


 一人だけ酒を飲んでいるのは流石に気まずいのか、普通に嬉しそうににやついた鹿崎がこちらを見る。


「そのノリは、我が友、李徴子ではないか?」


「酒カス記やめてね」


「朝日ー。二人が飲むなら僕も飲む。僕はもちろん、アサヒスゥーパァードラァイィ」


「そのネタもう中高でやられすぎて飽きてるんだよな」


「そこもドライなんだね……」


「ちょ、みんなやめて。面白すぎて喋れない」


「瑞規ちゃんがツボに入ってる……」


 一度場を落ち着かせた後、料理が来るまで、お喋りをする。


 大学に入ったばかりの丹波ちゃんの奮闘記を微笑ましいものを見るように皆で聞き、その後鹿崎から、テキーラは竜舌蘭の一種を用い、メキシコ現地で作られた蒸留酒のことを指すが、テキーラと呼称するためにはその51%が含まれてればよいという定義のため、安い焼酎が混ぜられることによって本来のおいしさが理解されていないという酒雑学を知った。堀江の男子校エピ、宵原おすすめのロックバンドの話になったり、雀野が今までで一番恐ろしかったバイトランキングの話など、食べる前からもうお腹いっぱいになりそうなくらい、話をした。


 大変気分が良くなってしまい、そのままの勢いで餃子とお酒に舌鼓を打った。雀野もこっそり注文をしていたようで、ハイボールを飲んでいるし、宵原の手には梅酒ロックが握られている。丹波ちゃんはコーラで酔っ払っていて、冷静なのは堀江一人だった。鹿崎は言うまでもなく、入店する前から少し酔っている。


「なんか、楽しいね。朝日」


「間違いない。マジで楽しいな……」


 そう、堀江に漏らす。俺はきっと、こんな夜をこの前地元の友達と飲みに行ったときも、過ごしたかった。


 何を食べるかではなく、誰と食べるか、という話をよく聞くけれど、それを痛感する。




 丹波ちゃんにだけ傾斜を付け割り勘し、店を出る。


 夜の静けさと涼しさが火照った体に心地良かった。

 電車組を駅まで送り、家に帰ろうとする。少し用事があるから、とみんなを見送った宵原と、二人きりになった。


「や、楽しかったね」


「そうだな。まだギリ大学開いてる?」


「開いてるねえ」


「じゃあ、行こっか」


 何も語らずとも、示し合わせるように、喫煙所へ向かう。流石にもう夜も遅いのか、喫煙所には一匹も赤い光を放つ蛍がいなかった。


 彼女と二人で並んで座りながら、無言で火を差し出す。

 宵原の吐いた煙から、甘くかぐわしい匂いがした。


「ふー。朝日くん、お疲れ様。今日は面白い話を聞かせてもらったよ」


「そう思ってもらえるなら、何よりだわ。それに、沢山アイディアを出してもらって、本当に助かった」


 部室での会議は、今後の方針を打ち立てるまでに至り、後は行動に移すのみになった。やることは明確で、俺と堀江のわがままが少し入っていることから、まず俺たちが動き出すことになる。


「あー、おいし。今、何吸ってるの」


「マルメン。たまたまだけど、酔っ払ってるときは美味しいんだよな。スースーして。それ以外のときは激マズだけど」


「ちょうだいよ、また」


「ほい」


 彼女に煙草を咥えさせた。

 火をまた点けてあげて、彼女が煙を吐く。


「あー。確かにこれは美味しいわ。ありがと」


 彼女が携帯を取り出して、マルメンを持つ俺をパシャリと撮影した。別に構わないけれど、何故だろう。こんな男一人撮ったって、何にもならないのに。


「気分。今日も楽しかったから、それを思い出せるように。それを表現できるようにさ」


「そっかぁ……その、なんとなく気になるからなんだけどさ、君の夢って、聞いてもいいか?」


「えー? それ、気にしてたの?」


「気になることがあると、知りたくなるタチでして」


「そうだなぁ……まあ、朝日くんならいっか。多分、じきに気づかれるような気もするし」


 彼女は煙草を口に咥えて、両手を空けた後、左手を内側に曲げ、何かを掴むようにし、右手を振りながら一定のリズムを刻んだ。


 エアギター。言ってしまえばただそれだけだけど、その精密さ、動作のリアリティは宴会芸のそれとは比べものにならない。


「私はさ、曲を書いて歌って弾ける、ギタリストになりたい。正直、ロックバンドって男社会でしょ? もちろん活躍してる人もいるけれど、私、私の表現を、創作を、世界に刻みたいなって」


 街灯のない喫煙所の中、月明かりに照らされた彼女が、気恥ずかしげに笑う。その瞳は決意で満ちていて、遠くを見ていた。


「それはとても、素敵なことだと思う」


 それがお世辞でもなんでもない、心の底から湧き上がった言葉として、彼女に通じただろうか。

 月葉と俺には希望があったけれど、夢がなかった。


 もし、彼女がポジティブな理由でどこかへ消えていってしまったのなら、それは自分を照らす夢を追いかけて、蝶のように飛んでいってしまったからなのだと思う。俺も同じように飛び立って、そのまま燃え尽きてしまって、消えてしまいたい。


 飛んで火に入れ、夏の夢。


「……今、一緒にその夢を駆けれる仲間を探しているところだったの。正直、もう学外でバンド組んでて、活動してるんだけど……ま、そんな感じ」


 その生き様が美しいと思った。


 ぷい、と宵原が、俺に背を向ける。


「私は朝日くんが、こっち側の人間なんじゃないかって少し疑い始めてるんだけど……どうなのさ」


「創作とかは、したことがないかな。ただ、やりたいことというか、やるなら夢を追うというほどのことは、きっとあるよ。でも、ここから動きたくないだけ」


「……そっかぁ。それが貴方の言う、ねむねむぺこぺこなのかもね。私も、いつも誘惑されてばっかりだから」


 彼女は歩き出す。座ったままの俺を置いていきながら。





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