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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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1−9 事件(2)

 目が覚めた。多分すぐに気が付いたのだろう。先ほど蝙蝠とどんなやり取りがあったか覚えていた。顔の前の地面に降りていた蝙蝠が口をぱくぱくする。はいはい。底辺労働者は蝙蝠より立場が低いんだ。地面に向けて右の手のひらを向ける。さっきの蝙蝠は体の下の方が薄く光った後に足から雷撃を飛ばしていた。つまり、空中の雷撃成分…冬の静電気の様なものか?それを集めて足から飛ばしたんだ。だから手の周りの雷撃成分を集めるイメージで…うっすらと右手全体が光始める。この雷撃成分を右の手のひらから地面に叩きつける。


 バリバリッ


 さすがに蝙蝠先生の噛みつきによる能力引き継ぎは効果的だ。今まで失敗知らずだ。だが、これをどうするのか?


 こちらの顔を一回見てから蝙蝠は旋回して倉庫に向かう。私も飛び立って蝙蝠に付いて行く。翼にあたる風の速度が下がって失速しない程度に羽ばたき速度を落して付いて行く。どうせ早朝まで連中は出発しないから、音を立てない程度の羽ばたきでゆっくり飛んでいく。


 問題の馬なしの馬車が止められている倉庫の裏に降りる。裏口はある。荷物搬入扉と人が通るだけの小さな扉の二つがある。閂で扉は閉めてあり、外付けの錠が付いている


 蝙蝠が鍵に降りた。こちらの顔を一度見てから鍵穴に顔を近づける。見てろ、と言う事の様だ。私達は工場経営者の奴隷で、解雇されれば多分マフィアの奴隷となるが、私限定では蝙蝠の奴隷の様だ。切ない。


 蝙蝠は鍵穴に息を吹きかける。なるほど、風の流れで中の構造が分かる。その構造に従って風魔法らしき魔法で空気を固定した。それを魔法でくるっと回転させる。


 ガチャ、と開錠された。器用だな。そして蝙蝠が飛び立って私の顔を見る。やってみろ?一回見ただけで出来るか!しかし蝙蝠はじっと私の顔を見続ける。仕方が無いので錠を一度外して開錠出来なくなっても扉が開けられる様にして、外した錠をセット状態に戻す。そして、鍵穴に息を吹きかけて内部の風の流れから形状を把握する。この形状に沿って空気を固定して、これをくるっと回す。ガチャ、と開錠された。うん、噛まれずに済んだのは良いのだが…解雇されたら泥棒として就職する事になるかもしれない…人としてどうよ。項垂れる私に、蝙蝠が蹴りを入れる。そう、鍵を開けた以上、中に入れという事だ。


 音を立てない様に、ゆっくり裏口の扉を開ける。こちら側に明かりは無い暗闇だが、私は暗闇でも白っぽく風景が見える様になった。倉庫の内部は大きな一部屋ではなく、何部屋かに区切ってあった。だから向こう側の明かりは見えない。当然、暗闇の中に侵入した私と蝙蝠に向こうの人身売買犯達は気付かない。


 それにしても、侵入してどうしろと言うのか。雷撃?これを使って女性達を解放しろというのか?犯人を倒して?無茶だ。見目の良い女より雷撃が使える人間の方が高く売れる。雷撃を使ったものが分かる様な行動をとり、目撃されたら、人探しが始まり、それは苛烈なものになるだろう。拷問で死ぬ人間は6人じゃあ済まない筈だ。何より自分が危なくなる様な行動はとりたくない。そして、何とか彼女達を解放したとしても、仕事がない上に工場関係者の目から逃げないといけない。立ちんぼすら出来ない以上、飢え死にという未来しかない。自分を危険に晒して助けた筈の女性は全滅、これでは意味が無い。


 暗闇の中、蝙蝠は私を見るだけで選択は私に任せている。それは私だって人身売買は止めたい。優先順位は都会的な見目の良さを持つ女性だろうが、私が売られる未来が無い訳では無い。継続的に売買していると言っていたのだから。しかもそれなのに表沙汰になっていない。工場内部のかなり高い地位の人間までグルと言う事だ。一回何とか失敗させたとしても、隠蔽されまた次を行うだろう。


 …鍵は雷撃だ。蝙蝠達は私に雷撃で人身売買を阻止しろと言っているのだろう。雷撃…表沙汰にならない…阻止…私の身元を明かさない…いや、個人的には最後の一つが一番大事な事なんだ。彼女達には悪いけど。つまり、ここで不味い事をやっている事を明らかにする必要があるんだ。という事は、隠し様が無い事件を起こす必要があり、外部の公共団体が介入する事を起こせば良い。


 雷撃でそれが出来るとしたら、まあそれしかないだろう。蝙蝠を見る。逃げないと焼き鳥だよ。蝙蝠は鳥じゃないか。蝙蝠は出口近くに移動した。近くに木箱が積んである。中身は繊維だ。そして、季節は晩秋。あまり雨は降っていないから空気は乾燥している。部屋中の雷撃成分を集めようとイメージを広げる。部屋全体が帯電して私の髪の毛が逆立つ。この静電気の流れを部屋の木箱に向ける。


 バリバリッ!


 木箱から床に流れた雷撃が高温を発し、木箱に火が付く。音もした以上、連中が調べに来る可能性もある。扉を開けて蝙蝠と共に倉庫を出る。蝙蝠が錠の上で羽ばたいている。そう、誰かがここにいた痕跡を残してはいけない。錠を施錠した状態に戻す。後は飛んで逃げるだけだ。


 発火した倉庫の周囲に本来、人はいない。工場から遠く離れているからだ。そこに人がいて消火していたらおかしい。だから人身売買犯達は何とか女性達を倉庫から運び出し、森林の中に身を隠す以外に出来る事は無かった。港湾都市の北部の消防組織は自警団であり、住民の組織だったから工場組織が介入する事は出来なかった。


 すぐに消防組織は工場に連絡をしたが、そこから工場関係者が鍵を持って倉庫の敷地に入る門を開ける為に高台を降りる頃には倉庫一棟は全焼していた。それでも周囲の倉庫に延焼して森林火災になったら住民達の家にも被害が及ぶから、消防組織は必死のバケツリレーで延焼を食い止めた。ここまで大事になったら工場組織も都市の消防組織と行政組織の調査を受けない訳にはいかなかった。火元があるとしたらランプだが、当日そこに人はいないとされたので、自然発火と思われた。繊維工場の商品は国策として輸出されているから、倉庫の敷地に人が入るのは困難であり、放火は難しいと判断されたのだ。


 こうして、自然発火に備えて住民による消防組織が倉庫の周囲を定期的に見回る事になったので、倉庫経由の人身売買は困難となった。

 明日は風塵の魔女が登場する第三王子特別調査隊の投稿日です。木曜からこちらは2章に入る予定です。

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