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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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1−8 事件(1)

 その日の晩は体が重かった。空気が明らかに悪く、気が重かったんだ。いや、誰かがトラブルを起こした訳じゃない。空を飛ぶときに風向きを気にしているからか、空気の様子がなんとなく分かる様になったのかもしれない。外に出てまた人の死を見るのも怖かったが、背中がむずむずしてつい、外に出てしまった。寮の近くの林から大岩まで飛んで休んでいると、高台の下の空気が悪い気がした。


 そして、大岩の下の方からまた2匹の蝙蝠が飛んで来た。また女達の惨状でも見せるつもりか。つむじを曲げている私に、蝙蝠は口をぱくぱくして何かを訴えようとしている。空気が悪い事と関係しているのか?一匹が先行して飛んでいくので、仕方なくついていく。ところが軽量級の蝙蝠と重量級の私では降下速度が違う。もっと速く飛んで欲しいんだけど、仕方がない。翼を広げて滑空と上昇を繰り返し、速度を調整して蝙蝠について行く。


 私達が通学に使う壁に囲まれた階段の東側に上から地肌が見えるところがある。工場から都市に荷物を運ぶ道かもしれない。その道の更に東側を蝙蝠は下っていく。つまり、この道を現在使っている者がいるんだ。あまり高度を上げない様にして蝙蝠について行く。


 平地に倉庫らしき大きいが窓等は少ない建物がある。開けた場所から少し距離をおいた場所で蝙蝠が止まる。私も木々の間に何とか着地する。また私の目を見る蝙蝠の目が煌めく。蝙蝠の視界を私に見させながら、倉庫らしき建物に飛んでいく。


 倉庫の前に荷運び用の小さな馬車と長距離用の大きな馬車が停まっているが、馬は繋いでいない。多分、小さな馬車が高台の上の工場から毎日荷物を下す馬車で、大きな馬車で纏めて港近くに運ぶのだろう。そして、倉庫の扉が半開きで、中から明かりが漏れている。蝙蝠は扉の上に降りて、そこから足で扉や壁伝いに歩いて中に入っていく。中々器用だ。そうして蝙蝠が見せたい物を私に見せる。


 木箱が壁面寄りに積まれた中、目隠しと猿轡をされた少女らしき人物が六人横たわっている。体には毛布がかけられていてその下は分からないが、何人かは体をよじらせているから多分毛布の下では手足が縛られているんだろう。二人は多分見たことがある、ズボン班の2年生だ。一人は昼間に修道女に話をしていた女だと思う。他の四人は見覚えが無い。


 それはそうとして、縛られた女が6人、表に長距離の馬車が停まっている。普通に考えれば早朝にでもこの女たちを載せて馬車が走っていくと思われる。そしてこの内二人は明らかに壁の中から連れ出されている…つまり、これは工場関係者が手引きした誘拐、多分人身売買と思われる。そうすると、残り四人は紡績工場と機織り工場から連れ出されたと考えるのが妥当だろう。…先日は逃亡すれば野垂れ死に、解雇されれば野垂れ死にという学生労働者の末路が明らかになったが、真面目に働いても見栄えが良ければ誘拐・人身売買の被害にまで会う。しかも働き続けても蓄え一つ出来ない薄給。この仕事は絶望しかない地獄じゃないか。


 呆けている場合じゃない。何か出来る事はないだろうか。しかし、蝙蝠が送って来る情報は視覚だけじゃなかった。蝙蝠は音で周囲の距離を測るというくらい音波に敏感だ。誘拐犯の男達の会話も拾って私に聞かせてくれる。

「とりあえず寮の方からは問題なく運び出せた様だな。良くやった」

「大体三カ月に一回やってますから、それなりに手際も良くなりますよ」

「後は早朝に発ってしまえばどうにでもなる。女たちは寝ずの番で見張っていろよ」

「売却先は貴族ですから、不具合があったら不味いですからね」

宗教的には人身売買は禁止されていて、だから各国の法律も人身売買を犯罪としているんだが。貴族にとっては農民など領土の付属物扱いだし、どこかで攫われた平民の女を買うくらいは罪悪感を抱く様なものじゃないんだろう。金の力と権力の力で、どちらも持たない女を蹂躙する事など貴族男性の嗜みかもしれない。


 今回だけ人身売買を止めても次がある。何とかこれを公にする事は出来ないだろうか。とは言え、大声で叫んでもここは都市の外れだ。声の届く範囲に民家も無い。少女達を運んでいるところを大声で告発出来ないだろうか…早朝だよ、発つのは。早朝に発つのは都市が眠っている間に発とうという意思だから、この都市で人身売買を人目に晒すのは無理だ。そして日中にこの翼で飛んでいるのを見られれば大騒ぎだ。なにより工場を脱走した事になり仕事が無くなる。この夜中の内に、外部の目がこの倉庫に向く様な騒ぎを起こす事が望まれるのだが。


 目の前の蝙蝠が口をぱくぱく動かす。注目しろという事か?蝙蝠は低いところを飛びながら、地面に小さな雷撃を撃った。凄いな蝙蝠、雷撃まで出来るんだ。その蝙蝠が口をぱくぱくする。何、やってみろ?出来る訳ないよ。雷撃は教会も能力者を集めているが、大体、大きな教会に一人ぐらいしかいない。まあ国全体で異能を持つ者は百人もいないし、その中でも使える能力者は二十人くらいだ。雷撃、つまり神鳴りを持つ者は教会に強制徴用される。だから例え雷撃が出来るとしても、人前では使いたくない。もちろん、使えないんだけど。


 蝙蝠が目を細めた気がした。


 そして私に向かってくる。嫌だ、噛まれたくない、と両腕で顔を護ったが、馬鹿な選択だった。考えてみれば飛行速度は私の方が速くなる。だから飛び立って逃げれば良かったんだが、そこまで飛ぶ事に慣れていないからつい、腕で守ってしまったんだ。また蝙蝠に腕に噛みつかれ、私は眩暈を起こして倒れこんだ。

 …またか、と思われたら負けなんですが…

テーマ、作品構造的にこうなりました。キャサリンとは手法も違うのでこれはこれで纏めるつもりなんですが。明日も投稿します。

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