1−7 夜の街(2)
想像するとかなり嫌な場面があります。
「何言ってんだい!病気なんて持ってないよ!」
「うるせえっ!裏のルールも守れないゴミが何言ってんだ!」
男は立ちんぼの女を蹴り飛ばした。
「ギャアッ」
「さあ、兄さん、こっちに来な。もっと良い女紹介してやるよ」
「ああ、悪いな」
客だった男は女に一声かけてガラの悪い男に付いて行く。
女は涙ぐみながら立ち上がる。
「…久しぶりの客だったのに…」
マフィアの下っ端に目を付けられてしまった今晩はもう客を取れないだろうと考えて、女は公園の向こうに歩いて行く。公園の向こうは全く明かりが点いていなかった。蝙蝠の目で見るから(実際には蝙蝠は目でなく音波で感じる筈だが)白っぽく風景が見える。女はさらに公園から遠ざかっていき、ボロボロの廃屋に入っていく。
「ごめん、チンピラに目を付けられて服を汚しちまった」
廃屋の中にはボロを着た女が5人程横になっていた。
「明日の朝、洗っときなよ」
「ああ」
「最後にメシを分け合ったのは三日前だよ。そろそろ不味いんじゃないかな」
もう一人が口を開く。
「そろそろ空腹も慣れちまったよね。ベラなんか今日は一言も喋らないよ」
「…危ないかもしれないね、明日、日が昇ったら様子を見てみよう」
誰の事を言っているか、蝙蝠の目を通して見ている私には分かった。蠅がたかっている女がいるんだ。瞼の間に2頭、口に出入りしているのが3頭…つまり、もう事切れているんだ。
入口近くの柱に止まっていた蝙蝠が廃屋を後にして戻って来る。これが学生労働期間を終えてどこにも就職出来なかった者の末路なんだろう。あるいは運よく逃亡出来ても仕事に就けない者の末路でもある。…自分の迎える未来の一つが分かってしまった。
震えが止まらない…
寄付も出来ない浮浪者の葬儀など教会がする筈もない。私達の何割かはこうしてゴミの様に死んでいく。そしてゴミを埋める様にただ埋められる。そうなりたくなければ商家に就職出来る程学業を頑張るか、裁縫の腕を磨いて工場に残るかだ。もちろん、3組の私には商家に就職出来る筈が無い。既に1組との学力の差は追いつくことが出来ない程開いている。だから裁縫の腕を磨くか野垂れ死ぬかの二択になる。裁縫の腕を磨いて工場に残ったとしても、工場に中年女は寮母以外見当たらない。20才くらいで解雇されるのだろうか。
誰かに聞きたいが…裁縫の仕上げ担当のサマンサ達は昼休みには学生労働者から離れている。彼女達から見れば未熟で言う事を聞かない学生労働者達は、用が無ければ近づきたくない類の人間なのだろう。寮母もこちらから話しかけたい様な人間では無い。私達の相手は仕事だからやっているだけで、向こうから積極的に交わろうとはしない。要するに、工場内は寮母、ベテラン労働者、学生労働者、中でも学がある者とない者でグループが分かれている。工場全体が結託して反抗しない様に意図的にそうしているのかもしれない。そうすると、何か相談出来そうなのは学校にやって来る修道女の中でも補助役の女だろうか。
心が重いと体も重い。次の日は仕事が捗らなかった。サマンサからもカミナリが落ちた。とてもじゃないが相談出来る状態じゃない。やはり修道女に相談するしかないか。
次の日の朝、朝食の残りのパンを口に含みながら歩くケイと並んで歩く。視界に入る港湾都市の住宅地を見るのが辛い。私があそこに住む事は無い。工場から出られないか、工場を解雇されたら立ちんぼとして徐々に朽ち果てるかだ。授業中もペンを持つ手が重い。授業が終わって補助の修道女を探すが、2年の補助の修道女はまた学生労働者から話しかけられている。何か顔つきが迷惑そうに見える。どうしたんだろう、この間は愛想が良さそうだったのに。
1年の補助の修道女を探して話しかけるが…
「個別の相談には対応していないわ。工場の人間に相談しなさい」
とにべも無かった。
短めですがキリが良いのでここで切ります。月曜には追い打ちがあります。ようやく本題に入りますよ。
明日は第三王子様がご出演の調査隊の投稿です。




