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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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1−5 裁縫工場の人間関係

 大分やる気が失せても毎日は続く。1組の連中にやる気のない人間が多い気がするが、それは都市の賑わいに比べてここが底辺である事を知るからか。とは言え、やる気を見せるかどうかはともかく、実績は記録が残ってしまう。サマンサが先週の不良率を発表する。

「キャシーの班のベティとローラは1年の中でも5位内に入る程不良率が高いよ。気を付けな」

「は~い」「気をつけま~す」

二人の応答も酷い。これで都市の商家に雇ってもらえると思うのだろうか。班長のキャシーも注意をする。

「あなた達、真面目に仕事をしないと就職の時に悪い話を伝えられて雇ってもらえなくなる事もあるんだから、気を付けなさい!」

「うるさいな、あんたには関係ないでしょ」「サマンサの機嫌取りなんかしてセコイよあんた」

自分の名前が出されてサマンサがキレる。

「おい、あんたら、不良率だけじゃなく態度が悪くても配置転換で機織り工場や紡績工場に移る事もあるんだから、言葉には気を付けな!」

「は~い」「気をつけま~す」

全く堪えていない様だった。


 その日の作業として縫い始めると、同じ班のエイミーの縫い目は最初の内はきれいだ。一方、ケイは皺が寄りがちだ。

「ケイ、あまり強く引っ張らないで。不良になってしまうよ」

「うん…」

気持ち布を伸ばして再び縫い始めるが、やはり皺が寄る。寒い地方では布をしっかり縫わないと風が入るとかいう理由があるんだろうか。母親がそういう教え方をしたのだろうか。エイミーは早く縫えると自分で裁断をするが、型紙を合わせて線を引く時がいい加減なんだ。

「エイミー、もっと丁寧に線を引いて」

「うるさいな、あんた達みたいにのろのろやってたら仕上げ数が少なくて怒られるじゃないか」

「だからって、この間も寸法がおかしいって怒られたばっかりじゃない」

そうして適当に引いた線に沿わずに裁断している。何でこんなにいい加減なんだ。彼女もキャシーの班の3人と同様に学校は1組だから、2年が過ぎたら商家に就職できると思っているんだろうか。この意識の差が1組とそれ以外の組の軋轢を生む。だからなるべく1組は1組同士で班を組む様にしているが、何せ1組の人間は肝心の縫い仕事が適当な人間が多い。こうして私の班にも一人1組が入れられているんだ。


 昼休みにはビスケットを白湯で流し込む。その時にケイに注意しておく。

「ケイ、皺が寄ると不良扱いされるかもしれないから、もっと注意して」

「うん…気を付けているんだけど…」

しっかり縫わないと縫い目がほどけるのが怖いのかな…それはあるけどさ。

食後には床に支給された布を敷いて横になる。体を丸めて眠るケイを見て思う。

この娘も私も、今の状態では他の学生労働者の中で飛びぬけて上手い訳ではない。朧げに将来を不安に思いながら、変わらない日々を真面目に作業するしかない。それでも半数は解雇されるのだから、もし解雇されたらどうするか。空から見たあの明かりの下に住めるとは思えない。故郷に帰る…まだ貧しいながら農民の嫁になる可能性はあるかもしれない。都市では無理だ。田舎者よりずっときれいな都会の女を見慣れた男が私達の様な垢ぬけない女の面倒を見てくれるとは思えない。


 一日の仕事を終え、夕食を食べ、水浴びをして部屋に戻る。寮母室で燭台につけてもらったロウソクを寮の自分の部屋の燭台置き場に置き、ベッドに横になってロウソクを消す。毎日少ししか使わないロウソクが溜まっている。こんな物では、解雇された場合に大したお金にはならないが、無いよりましだ。今日は昨日の晩に夜更かししたせいか、疲労が大きい。不安はあっても早く寝てしまった。


 夢の中で蝙蝠が出てくる。白っぽい世界で蝙蝠が3匹飛んでいる。次々と私に向かってくる。

(だから噛まないでよ!)

顔を腕で守ってもその腕に噛みついてくる。

がばっとベッドから起き上がる。

気が付くと翼が生え、昨晩の恰好になっていた。

(…分かったよ、こういう事でしょ?)

両手を軽く握る。その手の中に蝙蝠が出てくるイメージをしてみる。

すると、翼がなくなり、服装は普段着に戻った。

蝙蝠が体に入る様なイメージで翼が生え、蝙蝠が体から出ていくイメージで元に戻るという訳だ。

(今日は疲れたからさ、もっと寝ていたいんだよ)

そうして再び眠りに就いた。


 次の日の朝、ケイは懲りずに歩きながらパンを齧っている。気になって壁の西の方の風景を見てみるが、この間の大岩は見当たらない。階段の進む方向のみ港湾都市も見えるが、この間見た港や繁華街は見えない。見えると困るのだろう。


 学校では3組は国語教師二人と算術教師がついている。

 1組は国語、算術、社会科の教師がついているという。

 2組は2時間目が国語になったり社会科になったりするという。

つまり、国語、算術、社会の教師以外に国語教師が一人多く必要だ。これに加えて補助の教師もついて、1学年毎に5人の修道女がやって来る。2年の学生労働者が補助の修道女に何か話している。この修道女は中々愛想が良い。学生の方は恰好が違うので多分1組の生徒だ。就職相談でもしているのだろうか。私も1年の補助の修道女に就職関係の相談は出来るだろうか。漠然とした不安しかないので相談しづらいのだが。授業を終えてケイと並んで階段を登りながら、誰かに相談したいという気持ちになっていた。

 一応金土は蝙蝠を投稿する予定です。金曜分がちょっと厳しい状態。

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