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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
28/36

3−6 応報

 残酷な表現があります。

 今日は大岩から繁華街のずっと西側の上空を通って飛んでいる。立ちんぼ達が済んでいる廃屋に何かあったのだろうか…ところが蝙蝠達は高度を上げたまま廃屋の集落を飛び越えて行く。だんだんと海が近づく頃、蝙蝠は高度を下げていった。


 港の近くの廃屋の影で蝙蝠達がくるくる回る。ここに何かあると言うより、ここで待てという事だろう。私が着地すると、蝙蝠が私を見つめる。そうしてまた視界の転送が始まる。


 蝙蝠は海上の大型船の停泊地点に向かう。船員も陸上作業員も寝ている時間に風に流された船が岸壁に叩きつけられるのを避けて、ぶつからない地点に錨を下しているんだ。船に手漕ぎの小舟が接舷し、船からは小舟に対して縄梯子を下している。櫂を持つ男と船尾に載せた白い物体を見る男、その男の後ろに控える男の三人が乗っている。


 白い物体は長い物体で、途中で二つに分かれていて、二つに分かれているのと逆側では横に二つ長いものが、端に何か付いていた。

「酷いな、身元が分からない様に執拗に顔を壊していやがる」

「マフィアでしょう。あいつら暴力で思い通りになるのが楽しくて仕方ない連中ですからね」

顔?これが人?


 顔と思われる場所を見ると、眉から頭頂部と思われる個所の皮が毛髪ごと剝がされて白骨が見えていた。その下には乱暴に抉り取った穴があり、瞼部分が無かった。鼻は削られ、その下では下唇から下の下顎部が切り落とされていた。白骨と白い皮膚とピンクの肉部が並ぶそれを、遠目に顔を判断するのは難しかった。手足の関節部に皺が寄り、多分中年以上の年齢の女性の死体と思われた。そんな壊され方をされる可能性のある中年女性を一人知っている…

「陸揚げして港湾警察を急いで呼べ」

そう言って一人の男が縄梯子を登って行った。


 何で?総領事館に逃げ込まなければ殺されるって分かっていたのに総領事館に行かなかった?じゃ、聖女や女達は!?その場でジャンプしてそのまま羽ばたいて修道院へ向かう。蝙蝠達が付いてこれずにキイキイ言っているが構っている暇は無い。


 港を東向きに横切って、そこから北上して修道院を目指す。木の壁で囲まれた修道院だが上空から入れば問題は無い。玄関には内側から閂と外付け錠がかかっているが、風の流れで何とかなる。開錠して閂と錠を扉から外し、扉を開けて中に入る。この前、イライザと話していた年嵩の修道女が院長だろう。その時の部屋の扉を開けて入り込む。

「イライザとアグネスはどうしたっ!?」

院長らしき修道女はたじろぎもせずに答える。

「二人なら聖堂の連中が昨晩連れて行ったよ。どうかしたのかい?」

「港に中年女の死体が上がったんだ。身元が分からない様にされていて…」

私が口籠った内容が想像出来たらしい。

「ああ、イライザだろうね」

「でも教会の連中が連れて行ったんだろう?」

「当然、聖堂から代官に渡されたんだろ、代官の館で事件を起こしたんだから」

院長らしき修道女は私が共犯だと分かっているらしい。言葉に棘を感じる。

「連中が何で入念に顔を壊すか分かるかい?」

「え、身元を分からせない様にじゃ…」

「それでも私らには分かるだろ?それでも壊すのは、引取に来たら殺すってメッセージさ」

私は頭が回っていなかった。フードの下から除く口はぽかんと空いたままだったろう。

「身元が分からない死体を引き取る為には、細かい説明が必要だろ?それでこの都市の裏を喋らなきゃいけない。そうするなら殺すって言ってるんだよ。死体を弔う事すら許さない、酷い話さ」

「それじゃあ、アグネスは…」

「ああ、聖女を闇から闇へ葬れないからね、当然、三日後の冬至祭に公衆の面前で殉教して貰うんだろうよ」

奥歯を噛みしめる私に院長は続けて言った。

「聖女がその場で代官の悪事を告発するなんて思わない事だね。聖堂には昔異教徒を火あぶりにしていた頃に使っていた喉を傷める薬があって、しばらく声が出なくなるんだよ。異教のお経を人前で唱えられると困るから、とね。そいつをまだ作っていて、十年前に当時の修道院長のフィオナって婆ぁを焼き殺す時にも使ったんだよ。同じ宗教徒に最期の祈りもさせないんだから、酷い連中だと思わないかい?」

「糞っ」

急がないといけない。私はそこを飛び出した。


 飛び込んできた女の頬に涙が光っており、イライザの事で泣いているのを知っても、院長としては棘のある言葉を投げざるを得なかった。院長はイライザが死んだ事を悲しんでいたが、涙は流さなかった。修道院で多くの女達が男達の不公正と不公平を呪って死んでいったのを見ており、とっくに涙など涸れ果てていたんだ。おまけに今、神まで不公平である事を知った。院長は指を組み、神に問うた。

(主よ、聖女の奇跡を諸人に示す為には、哀れな修道女の生贄が必要だと仰るのですか?)

今、同じ事件で修道女は死に、聖女は死なない。十年前に修道院長フィオナは焼き殺され、聖女は焼けない。その不公平を嘆いた。


 それでも院長バーバラは修道院から出て還俗する事は出来なかった。もう数十年間、修道院で暮らしている。この老女が今から出来る仕事など外界には無いと知っていたんだ。だって、修道院に入る女達は皆、外界の不公平さに痛めつけられて逃げ込んで来るのだから。ここ以外に女達の逃げ場など無かった。

 クリスマス寒波と言われていますが、今週は先週より確実に温度が低そうです。お体には気をつけて下さい。


 アメリカ入国システムの簡易化の発表に、今永投手が立ち会ったそうです。WBS報道より。今永さん、微妙にフレンドリーだからね…

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