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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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3−4 時間稼ぎ

 女4人が出て行ったところで門を締め、閂と施錠をする。笛を聞いて集まってくる兵達に対して少しでも時間を稼ぐ為だ。

「相手は一人だ!囲んで押さえろ!手足は好きにしていいが、喋れる様に捕まえろ!」

…背後組織を調べようと言うんだね。この中で何人が人身売買帳簿が盗まれた事を知っているのか。正義は自分達に無いのを知らずに代官の犬をやっている。まあ、この背徳の都市では悪が正義だ。私は悪で、悪い女を逃がしたから罰を与える必要があるという訳だ。


 十人が集まって来たところで戦法が決まったらしい。四人が前に立ち、早足でこちらに向かってきた。私はこちらの通用門に人を近づかせない様に、なるべく前で奴らを迎え撃たないといけない。通常より少し速いくらいのステップで左端の男に近づく。目標の男は気持ち足を遅らせて他の男達が包囲の為に回り込む時間を与えようとした。そんなもんだろう。が、ここで右端の男に更に速いステップで近づく。これで包囲は出来まい。


 既に抜剣していた男は、包囲網に私を戻す様に左から右の横薙ぎの剣を振った。風の流れで軌道は予測出来る。紙一重で避けて拳を握り、男の左腹にパンチを…すると見せかけて太腿に膝蹴りを加えた。予測しない攻撃をくらって男は倒れこんだ。その倒れた男の左右から一人は突き、一人は横薙ぎで攻撃してくるが、風の流れで予測出来る以上、二人くらいの攻撃では有効打にならない。横薙ぎの剣が私を包囲の中に動かそうとするのが予測出来る以上、その隙に攻撃を加えるだけだ。左拳で鳩尾を打ち、屈んだ男の太腿を膝で蹴る。もう一人が突いて来るのを避けて、最初に速度を落とした男に向かう。一方的に包囲する筈がここまで崩されて焦った男は、無駄に大振りの剣を振り下ろしてきた。素早く横に回って男の横っ面を殴る。ぐらついた男に後ろに回り後頭部を両手で殴る。


 ここで時間切れだ。第二波の四人が近づいてきたんだ。通用門の鍵を持つ男は近づけられないが、普通の兵なら鍵は持っていないだろう。ダメージを与えられなかった突きの男を背中に残し、また四人に対処しないといけない。


 最初の四人を見ていた次の四人は、横一列で攻めて来た。包囲行動を取る必要はないのだ。適宜、後ろにいる突きの男が介入すれば良いのだから。横一列の四人に対し、後ろの男は私の後ろに付いて良い攻撃タイミングを待っている。これで良いのだ。逃走した女を追うよりこちらを抑える事に専念させれば、今晩の私達の行動は成功に近づく。


 凄いきついんだけどね!


 向かって一番左の男に踏み込む。男達は構わず突っ込んでくる。もう、通常の打撃技だけでは対処は出来ないと思う。バレない範囲で空気を使った打撃も混ぜよう。そして、一列に突撃するというのは良い作戦ではない。単に先ほどの失敗を見ているから襲われた人間がペースを落として隊形が崩れるのを避けたけだ。

当然、向かって右の端の男は、戦列の前に私を戻そうと右から左に剣を振ってくるが、そこを紙一重で避けて空気の棒で男の腹を叩く。腹の近くで拳をスイングしているから特殊な打撃と勘違いするだろう。男は突進するタイミングと相まって、腹部に強い衝撃を受けたから、つんのめって前に一回転して倒れこんだ。


 横一列だと、ここで左二番目の男しか私に攻撃出来ない。そして前進から右に回転してくる以上、斬撃は横薙ぎになる。思いっきりしゃがんで剣を避け、振りぬいた後の隙のある体の鳩尾に、空気を押し出して打撃を加える。腹に力を入れるタイミングより前に打撃を受けて男は後ろに転がる。そうすると左からみて三番目の男もこれを避けて攻撃しないといけない。その男が避けた方向と逆の方向に、一番右にいた男がステップする。そこに風で後押ししたこれまでで一番速いステップで踏み込む。準備が出来ていない男は右の裏拳…に空気の固まりを付けてリーチを変えている打撃を受けて、予測しないタイミングで顔面を吹き飛ばされ、昏倒した。


 ここで後ろの突きの男が私の腹を突いて来る…殺したら駄目なんじゃないのか?もちろん刺さらないけど。空気の流れでタイミングが読める突きなんて。空気で前進を止め、右後ろにステップして突きの男の横に回る。左の拳…の前に付けた空気の固まりを男の鳩尾に叩き込む。男の前進が鋭いだけに二倍の威力の打撃になる。男は全身を折り曲げて前向きに倒れこんだ。しかし、私もそろそろ疲労が溜まって来た…


「下がれ!」

残り一人の男と、立ち上がるだけでやっとの男達が通用門から遠ざかる。さっきから気付いていたが、館の方から十六人を連れて中隊長らしき男がやって来ていたんだ。


 私の左右に四人ずつが遠巻きに回り込み、その隊長とその後ろで左右に男一人ずつが抜剣した。一目見てこの三人は出来が違う。重心の低さ、移動の滑らかさが別格だった。ここで時間稼ぎに拘泥すると三回は死ぬ。むしろ逃げるのも難しい状況かもしれない。迎撃しつつ逃げる機会を探す事にする。


 隊長の衣服の下の肉体から急激に何かが爆発した、そんな何かを感じた途端、隊長は急加速した。上半身を屈め左右の腕を伸ばすその突きは空気を切り裂かん程だった。すんでのところで右に体を屈めて避けるが、もちろんそこはこちら側の後ろに控えていた男の切り上げる剣が待っていた。空気で予測出来なければ真っ二つだよ!しかも鋭い!もうこの体勢で普通に避ける手は無かった。右足が縮んでいるから横に移動出来ないんだ。だから、異能を疑われても仕方のない避け方になった。縮んだ足の下を空気で後押しして足を伸ばし、上に跳び、三の太刀としての斬撃を用意していた三人目の男の頭上に腕を伸ばし、着地する。逆立ち体勢で。着頭か。


 一瞬目を見張った三人の手練れ達だが、隊長の斬撃が私の両手を襲った。今度はくるっと回転して、隊長の頭に足で着地した。ここで私は勘違いをしていた。隊長が連れて来たのは包囲する為の剣士達だと思い込んでいたんだ。


 隊長が少し遅れて来たのは、装備を持ち出す為だった。隊長が十六人を連れてきて、八人が回り込み、二人が隊長に付いて来る。残り六人の内、四人は背中に装備を隠していた。私と隊長達の距離が開いたたところで、その装備で足止めするつもりだったんだ。今現在は私と隊長達は縦方向にずれている。


 四射の弓矢がここで飛んできた。打ち出したところで軌道も速度も分かるが、既に疲れ果てている上に足場が弱い状態だ。もう風に乗って逃げるしかなかったが、風による加速より弓の到着の方が速かった。


 一射は最初から外れていた。一射を風で横に逸らす。もう一射を下に逸らす。でも、残りの一射が逸らす間もなく私の右太腿に突き刺さった。

 風魔法師は辛そうです。火魔法には強そうですが。

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