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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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3−2 異変(2)

「だから、何もしてないんだよ!」

背中側に立つ男は木剣で二回続けて女の背中を叩く。

「ああっ、止めて、本当に何も知らないんだよ」

「お前らが逃げ出す相談をしてたのは知っている。昨日の晩にも部屋を出ていたのを見た者がいる。その時どこに行ったか言え!」

「知らないよ!トイレにしか行ってないんだよ!」

男はまた木剣で背中を叩く。

「そら、見ている奴らも何か知っていたら言え!こいつもそう長くは持たないから、次はお前らだぞ!」

「やめて、本当に何もしてないんだから!」

問答無用で背中を叩く男。

「痛い、死んじゃうよ…」

「だから死ぬ前にちゃんと白状しろよ」

「本当に何もしてないんだよ…」

女の肩を木剣で強く叩く男。

「痛いっ!」

「お前らが紡績3班の女達にも話を持ち掛けてたのも知っている。お前らみんな死ぬまで話さなければ、次はあいつらだぞ?」

「そんな連中知らないよ!」

男が木剣で強く背中を叩くと、女がふらついた。連続で叩こうとしていた男の打撃は、女の後頭部に入って、骨の折れる音がした。

「がはっ」

女は力なく倒れこんだ。前で見ていた男が近づき、倒れた女をひっくり返してこう言った。

「あ~あ、息してねぇぞ。お前らが何も白状しないから仲間が死んだじゃねぇか」

女達から悲鳴が上がった。

「一度報告するか、女達を部屋に閉じ込めておけ」

女達を離れた部屋に閉じ込めて、監視を残して男達は代官のいる建物の方に歩いて行く。…何も知る訳ないよ。私が盗んだんだから。その時周囲に労働者なんて全くいなかった。


 ぺたん。とへたり込むしか無かった。必要な事だったとは言え、そのせいで今、一人女が拷問死したんだ。そりゃ、そうだ。犯人捜しは苛烈になるに決まっている。ネズミが不正の現場に入り込んでいるんだから。こんなものを見せられるとは思っていなかったけど、これは私がした事の結果なんだ…


 ガタガタ震える私に向かって、南の方から歩いて近づいて来る人物がいる。夜中に光って見える人間はこの都市に一人しかいない。何やってんだ聖女!慌ててフードを被る。蝙蝠達は木にぶら下がり、枯葉のフリを始めた。結構似合う。


 フードを被った聖女と多分イライザがへたり込む私の前に立つ。

「どうかなさったんですか?」

…心配そうに声をかけるが、こんな晩に外を歩いているあんたの方が危ないんだよ。必死に立ち上がって聖女に向かう。

「今日は危険だ!すぐ帰れ!」

「その危険な夜に何をなさっているのか教えて頂きたいのですが?」

相変わらず謎の押しの強さをみせる聖女。もうちょっと大人しいのが聖女じゃないのかよ!

「俺の方は何とでもなる。あんたには今後の人生があるだろう」

「あなたにも大事な人生があると思いますよ」

長くて後6年で餓死か凍死する人生だよ!心配してもらってもどうにもならない!拷問を受けてあっさり死んだ女も私の近い未来の一つだ。思わず涙が零れた。それを指で拭う。

「良いから、危険なんだ…早く帰ってくれ…」

すっと聖女が近づく。彼女のフードと私のフードが触れ合う。彼女の唇と私の唇が軽く触れる。

!何やってんだ聖女!

「さあ、少し落ち着いたと思います。お話を聞かせて頂きますか?」

確かに驚いて震えが止まったよ。男っぽい話し方をしていても、女だとバレていたらしい。聖女が見知らぬ男にキスなどしたら大問題だ。


 フードの上から頭を両手で抱える。

「本当に一大事なんだよ。しばらく外出は避けた方が良い」

「一大事の内容を教えて頂けますか?」

柔らかいけれど芯の強い言葉で喋る聖女。聖女とは優しい生き物というより、強い生き物だと知る。

「重要情報が盗難されたから、代官一味が犯人を捜している。怪しい奴は拷問で殺される」

「重要情報とは?」

「もちろん、人身売買の帳簿だ。暗号で顧客名が書いてあるが、暗号表も同じ場所に保管していたんだ」

「盗まれただけですか?どこかに持ち込まれたのでは無く?」

「騎士団の調査官が来る予定だったんだ。そいつが予定を延期して港湾都市からいなくなった。誰かが手渡したと代官は思ってる」

「…あなたがそう仰ると言う事は、それが真実なんですね。その方は逃げきれたので?」

?何この信頼感?

「分からんが、必死に紡績工場の女達を拷問している。まだ取り返してはいない筈だ」

頬に手を当てた聖女が口に出す。

「それで救出したいとお考えで?」

考えてないよ!誰かが侵入するのを警戒してかがり火を焚いて警戒してんだよ!しかも代官の手の者は伯爵家の兵隊だ。王立騎士団程の手練れはいないだろうが鍛えられている筈だ。口籠る私を聖女が見つめる。いくら見つめられても救出なんて無理だ。ここでイライザが口を挟む。

「南の国の総領事館にあちらの国の司教が滞在しています。冬至祭を総領事館で祝う為です。彼は汚染されていないでしょう。そちらに連れて行っては如何でしょうか?」

それ以前に連れ出すのが無理なんだって!

 ここで明日は第3王子調査隊です。

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