表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
19/36

2−10 聖女(3)

「この間はよくもやってくれたな、本当に殺してやるぜ」

「棒っ切れ持った三人で勝てると思ってんのか、頭が悪い奴はお気楽で良いな」

一人は後ろに回り込もうと音を立てない様に歩いていたんだ。でも風の流れで分かるよ。

話しかけてきた、この間は木に叩きつけてやった男はぎょっとした顔をした。でも暗いから分からないだろうと平静を装って話を続けた。悪いけど、私には丸見えだよ。

「恰好良いな、三対一でも余裕だとは。今日は手加減しねぇぜ」

「御託は良いから、さっさと来な。どうせ馬鹿は口だけだからな」

「手前!」

男は安い挑発に乗った。後ろの男が近づくのを待たないと駄目だろうに。前にいた二人はほぼ同時に走りだそうとして、同時に転んだ。足元の空気を棒状に横に固定しておいたんだ。話していなかった方の男は持っていた棒を手放して前に飛ばしてしまった。その棒を拾う。うつぶせに倒れてまだ立ち上がれないでいたその男の後頭部に棒を叩き込む。非力な女では上から振り下ろす打撃が基本だ。それを更に空気で後押しする。

「ぎゃっ」

悲鳴を上げた男の肩の下に足を入れてひっくり返す。そして股間に棒を思いっきり振り下ろす。

「~~~」

声にならない悲鳴を上げて男が気絶する。


 暗くてよく見えない筈だが物音で仲間が酷い目に会っているのが分かるらしく、最初に話していた男が立ち上がろうとする。

「手前!何しやがる!」

「殺し合いなんだろ?」

そいつの横っ面に棒を斜めに振り下ろす。もちろん、空気を操って加速したやつだ。

「ぐはっ」

半回転しながら仰向けに倒れこんだ男の股間にまた棒を叩き下ろす。

「~~~」

今度も悶絶したが気絶はしなかった。


 私の背中方向から近づいていた男が声を上げる。黙って近づいて不意打ちしないと駄目だろう。

「手前!調子こきやがって!」

でもこいつは脳みそがあった。逃げにくいように横なぎに棒を振って来たんだ。

でも意味が無い。リーチはこっちの方が長いんだ。バックステップして相手の棒が届かない距離から突きを放つ。もちろん、棒の前の空気を固めながら突き押ししたんだ。届く筈のない突きを鳩尾に食らい、男は言葉が無かった。呼吸が出来なくなったんだ。体を二つ折りにしていた最後の男の顔を下から叩き上げる。跳ね上がった上半身に肉薄して股間に棒を振り上げる。こいつはこれで気絶した。


 まだ聖女とイライザは後ろにいた。

「死んでないからそのうち動き出すぞ!お前らも逃げろ!」

私の立ち回りを眺めていた聖女が声をかけてくる。

「お話したい事があるのですが…」

「まずここを離れてからだ!」

私が早足で歩くのに二人は付いてくる。ペースを落としてイライザの方に話しかける。

「繁華街は不味い。どこか話が出来る場所を知っているか?」

「こちらへどうぞ」

先導するイライザは繁華街を抜けて雑貨屋、古着屋がある辺りの横道に入った。

「多分ここにはマフィアは来ないと思います」

そこで聖女の方を見る。

「もっと根本的な解決を考えた方が良いと思いますが…」

思っていた通りの言葉が出て来た。私だって下っ端と乱闘を続けてもやがて本気で武器を持った連中に囲まれる事くらいは分かる。

「根本的な解決なんて無いのさ。これは領主のデザインした娼婦の供給と処理だからな」

「領主のデザインとはどういう事です?」

「裁縫工場には毎年100人入る。2年で30人出て行く。次の仕事があるのは10人くらいだ。50人が継続して務めるが、それも4年以内だ。つまり、毎年70人程度解雇されるが、解雇後に受け皿になる仕事は無い。それが全員娼婦になる。紡績工場と機織工場にも同程度入るが、毎年何人入って何人出るかは正確には分からん」

ここでイライザを見る。

「紡績工場と機織工場は毎年何人解雇するか知っているか?」

「正確には分かりませんが、50人位と聞いています」

「じゃあ、毎年合計170人くらいか。秋に学生労働者を娼婦として供給して冬に全滅した後に、春にはベテランを娼婦として供給するんだろうな」

聖女は絶句していたが、何とか声を絞り出した。

「もっと人数を減らせば良いのでは?」

「だから、そういうデザインなんだよ。娼婦に船乗り達の金を搾り取らせ、それをマフィアが搾り取る。その金がこの都市を潤し、税金として領主の収入になると言う訳だ」

聖女は怒りに震え出した。震える声で話を続けた。

「教会に言って、教会から止めてもらう様に言ってもらいましょう…」

「教会は娼婦どころか人身売買も知っているが、その人身売買で得た金から教会に寄進するから黙っているんだよ」

「…人身売買とは?」

「さっき、人数を話したろう?計算が合わないと思わなかったのか?毎年、裁縫工場だけで20人程度、その他の工場も同じくらい人身売買に人を出しているんだよ」

「…役人達は取り締まらないんですか?」

「都市の役人は領主の部下だから取り締まらない。港湾警察は王立騎士団の分団だし、南の国の総領事館と交渉する役の外務の役人もいるが、こいつらには『これは先王が認めたことだから見逃せ』という合言葉が代々の責任者に伝わっている。そして教会もさっき言った通り、寄進で黙らせている」

救いを求めて聖女がイライザを見たが、返って来たのは残酷な話だった。

「…10年前にその時の修道院長が聖堂の司教に何故見逃しているのか、と詰め寄ったそうです。そうしたら、殉教を希望した、と発表されて、冬至祭の時に聖堂前広場で生贄として焼き殺されたそうです」

これにはキアラも絶句した。口封じくらいするだろうとは思ったが、まさか見せしめの公開処刑とは…そしてこの間の修道院長の『あんたを差し出す』の意味が分かった。殉教の事を言っていたんだ。

 あしたはクロちゃんの出番な筈ですが…これから書きます…蝙蝠は余裕が出来ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ