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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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2−8 代官(2)

 街に降りても何も出来ない事が分かった。お金が無いというのは罪なのだ。

貧乏人は罪人だから、社会からどの様な仕打ちを受けても誰も同情しないのだ。

外に出る気が無くなった私に、容赦なく外出を強いる奴がいる。蝙蝠達だ。窓の外で小さな声できぃきぃと鳴く。出てこい、いるのは分かってるんだぞ、と言う訳だ。仕方がない。噛みつかれて強制的に何かやらされるよりは自由意志…かなぁ?で動く方が良い。窓を開けて飛び降りる。窓の下に空気を固定して階段状にすれば簡単に降りられる。林の方に蝙蝠が飛んでいく。早く来い、と口で言わなくてもこいつらの意思は伝わる。見え見えだ。


 林の中の木がまばらな場所で翼を伸ばす。蝙蝠達は先に飛んでいく。ふふん、飛び立ってしまえばこちらの方が速いんだから気にしないよ。工場から学校へ向かう階段を避け、その東側を飛んでいく。珍しいな、いつもなら西側の大岩の方を飛ぶのに。


 理由は分かった。目的地が代官の館だったから、繁華街方向の大岩の方に向かう意味が無かったんだ。また囲いの中の林に着地する。蝙蝠がまた私を見つめ、視界転送が始まる。室内のカーテンの近くの薄暗い場所に陣取った蝙蝠がテーブルを囲む男達を見つめる。

「先日の火事の説明を聞きに王家直轄領の砦から騎士団南部方面隊の者が来て、直接話を聞きたいそうだ。その内容を王都に報告するらしい。何か見せろというかもしれないから、不味い物は工場の事務所から持ち出せ」

「一番不味い物はこちらにあるのでは?」

「女の売買帳簿だな。隠し場所はあるか?」

「普通に考えれば、裁縫工場の出荷用倉庫は見に行くと思うのですが、紡績工場の綿花受け入れ事務所を見たいとは言わないと思うのですよ。言ったら逆におかしいです」

「ふむ、では綿花受け入れ事務所の隠し金庫に暗号表と共に入れておくか」

「それが良いと思います」

…綿花受け入れ事務所に隠し金庫がある理由を聞きたいところだが…もう何でもありそうだよあの三工場。

「では紡績工場長、帰りに鞄に入れて渡すからしっかりしまっておけよ」

「必ずしまいます」

「それでモーガン様、騎士団の訪問は何時になりますか?」

「四日後だ。三日後に到着するが、訪問はその翌朝になるとの事だ」

「裁縫工場と倉庫はしっかり掃除を致します」

「ああ、不味い物はしっかり片づけておけよ」

「心得ております」

「他の二工場も一応事務所は片づけておけ」

「事務所は確認されるかもしれませんからね」

「工場の現場は女しかいないから、男性は困るとでも言って断るから、そちらも強硬に言われたらそう断れよ」

「分かりました」

男達は酒杯を交わし雑談を始めた。もう大事な話はなさそうだからと蝙蝠がカーテンをくぐり抜けて戻ってくる。


 …いや、何をさせたいかは分かりましたが、随分遅くなりそうじゃん!明日が眠いから、そういう事は蝙蝠様達でやって下さいよ。そんな私の気持ちに気付かないフリをして蝙蝠達は人気のない倉庫街と港の間を通り繁華街に接した場所にある宿屋街を通る。あれか!騎士様が来たらその帳簿を渡せと言うのか!私が!…それは確かに蝙蝠には無理だね。翼が小さいから帳簿なんて運べそうにない。そうして宿屋街を通り、大岩の方に飛んでいく。多分、代官の館は他の蝙蝠が見張っているんだろうなぁ…


 大岩の上に2匹の蝙蝠と私が着地する。出番はしばらく無い筈だ。ゴロンと横になって丸まる。岩、冷たいよ。空気を一層固めてその上に横になる。うん、空気マットは中々良い感じだ。あ、蝙蝠も空気マットの上に乗った。あの足で冷たさを感じるのだろうか?


 少しうとうとしたところで蝙蝠がきぃ、と一鳴きした。あ、寝てたか、ごめん。一匹が私の目を見る。また視界の転送をする為だ。その一匹が紡績工場の方に飛んでいく。初めて紡績工場を見るが、一番北に大きな建物が3棟ある。あれが綿花置き場という訳だろう。壁に囲まれた工場なのは裁縫工場と一緒だが、その大きな建物の北に小さな建物があり、その近くに大きな門がある。


 門が開けられ、馬車が入ってくる。四人が降り、小さな建物に人が入っていく。見張りが立つかと思ったが、高台の森側だから人気が無いと判断しているのか、鍵を開けて全員中に入った。扉は閉められたが、馬車を追跡していたと思われる二匹と一匹が合流し、二匹が扉の足元の方を押すと小さな隙間が開き、一匹が体をねじ込んで中に入っていった。


 短い廊下の先の小部屋から明かりが漏れている。その扉の外枠に降りた蝙蝠が扉の上から中に体を滑り込ませて入り込む。事務所の中でも管理職の部屋なのか狭い。机の横の本棚が横スライドしている。壁の中に小さな扉が作られていて、そこに紙と帳簿を入れている。本棚の横スライドの仕組みが分からないと、後で開けられないんだけど、どうなんだろう…小さな扉は閉められ、外付けの鍵でロックする。あれは開錠出来るかな?


 そして本棚をスライドさせる。スライドを規制する構造はどうなっているんだろう?締めるアクションで開けることが出来るのだろうか?心配して見ていると、本棚がスライドしない様に机を移動して止めただけだった。それだけか…蝙蝠が扉をすり抜け出てくる。そして外の扉を蝙蝠二匹が押して隙間を作り、中に入っていた蝙蝠が無事気づかれずに出て来た。


 じゃあ、あいつらがいなくなったら取りに行くんだね?と起き上がって飛び上がる準備をしたら、蝙蝠が何か半目で見ている気がする。え、違うの?じっと彼等が私を見つめる。そうか、あいつらも前日には帳簿の在りかを確認するだろうから、その後に盗み出すんだね。盗み出す…何か普通に考えてる自分が怖い。私利私欲で盗みはしませんよ。


 蝙蝠一匹が大銅貨一枚を私の前に落とした…盗みの報酬が大銅貨一枚なのか…嬉しいけど悲しい…


 そういう事で、今晩はお開きになった。

 明日は第三王子調査隊です。しばらく王子は出てこない予定ですが。

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― 新着の感想 ―
もし今のキアラを見ている人がいたとしたら、まるでキアラは蝙蝠を操る怪人ですね 実際は強制的にこきつかわれてるんだけど…
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