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蝙蝠の翼  作者: 瀬上七菜
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2−6 壁の外の経済

 日々日暮れが早くなる。そして夜が冷えてくる。公園の西の廃屋で過ごす女達が心配になってくる。何か出来る事がある訳では無い。先立つ物が無いからだ。大岩から見るとまだ飲食店以外の店も明かりが点いている様に見える。それを見ていて、私自身この街を歩いた事が無いからちょっと歩いてみたくなった。


 蝙蝠の翼を出すと、マスクと外套が付いてくるのだが、翼を消して外套だけ残す事は出来ないのか…中々イメージが合わなかったが、頭の中でイメージする蝙蝠に色を付けて、丸めた指から出し入れするイメージをしてみた。…黒蝙蝠が翼、灰色蝙蝠がマスクとミニスカート、白蝙蝠が外套という事の様だ。あいつら全部黒かったんだが…


 そういう訳で、まず大岩からダイブしてみる。顔に当たる風が強いから、進行方向の顔、頭の前に鳥の嘴の様な形に空気を固定してみる。うん、良い感じだ。だが、スピードが出過ぎた。翼の後端を大きく下げてみる…水平飛行を通り越して上向きになってしまった。翼の後端の角度を変えて、なんとか緩降下にしてみる。体の角度にもよるなぁ…速度優先なら進行方向になるべく体を平行にしないといけない。大分高度も下がったから水平飛行にする。あの飲食店街以外の明かりの近くに林を見つける。


 ちょっと歩く事になるが、外套を被っていれば女にも見えないだろう。着地をして黒蝙蝠と灰色蝙蝠を手の中から出すイメージを浮かべる。うん、外套以外はなくなっている。フードを被り明かりの方へ歩いて行く。私にはランプの明かりが随分明るく見えるが、一般人から見ると暗いだろうと思える程、店の外に点けるランプは少ない。人夫や工房の職人見習い等は今頃歩いているから店を開いているんだろうが、一般人では商品の見分けが厳しい暗さだ。人夫が既製服の値段を聞いている。男性向けだから私達が工場内で購入している女性向けより価格が高そうに見えるが…

「シャツなら銅貨10枚だよ」

「6枚なら買うよ」

「馬鹿だなあんた、既製服は公定価格以外で売れないんだよ。嫌なら古着屋に行きな」

「ちぇっ、しょうがないな」

…工場内なら銅貨20枚で売ってるよ、2級品を。港湾都市だからここで安く買って船員に銅貨10枚以下で売る可能性があるから公定価格でしか売れないんだ。ところが工場労働者は退職まで基本は工場から出られないから、高く売っても良いんだ。というより、お金を貯めて逃げ出さない様に何でも高く売ってるんだ。私達は贅沢はしていないとは言え、石鹸だけは買わない訳にはいかない。清潔にしていないと商品を汚すから、石鹸の使用は必要なのに、工場内で売っている石鹸は高いんだ。きっとその辺の店で買えばやはり安いんだろう。一度雇用してしまえば逃げられないアリ地獄になっているんだ。


 八百屋などは午前中にしか店を開かないらしい。屋台で売っているスープの価格を見たら、銅貨3枚だった。高い。大都市では食料の自給が出来ず周辺の農村から運んでくるから、輸送費がかかって高いんだ。この調子ではやはり困窮する街娼達に食料を与える事など出来ない。しかし、これだと工場の朝夕の食事が赤字にならないのだろうか。綿花を北から買っていると言っていた。農産物も北の農村から直接買っているのだろうか。


 そうか、伯爵が係わっているんだから、地元で安く仕入れて運賃だけか。綿花の輸送を担う連中にやらせれば良いんだ。綿花の輸送時期は限られているから、むしろ食料輸送が本職かもしれない。そもそも、都市内では金払いの良い船員が歩き回るから、物価は高い方が良いんだ。むしり取れる。そんな都市だから職にあぶれた者は飢え死に一直線で、街娼なら必死に客を取るしかない。それを誰もが見捨てている。汚らわしい仕事に就いているからでは無く、そうなる様に仕向けている者がいて、皆それを見ないふりして放置し餓死させている。他人事だからだ。自分事なのは繊維工場労働者だけだ。


 実家に帰る旅費を貯めさせない様に工場から出さず、工場内で高い物を買わせる。そうして実質賃金を低くして輸出価格を抑えられるというのもあるのだろう。それにより貿易が均衡し、国内の金が流出しない為に国内経済を健全に保つ…健全だろうか?大都市から離れた農家は困窮している。繊維工場に田舎者が集まっているのがその証拠だ。


 かって農産物が重要物資だった時は良かったが、貨幣が流通する様になると相対的に価値の低い農産物は価格が下がる。どの国でもどこでも農産物は作っているから、わざわざ買う必要が無い。不足するのは大都市だけで、その周囲以外では買い取る必要が無い。大都市から遠い農村は売れないから買い叩かれる、そうして益々田舎の農家は困窮するんだ。


 田舎の貴族は困窮する、の意味もある。商人達は貴族を困窮させる事で自分達の地位を相対的に向上させる意図もあるのじゃないだろうか。そうして貴族は商人が売らないやばい商品を売る。それがこの都市の裏で売っているものだ。そうなると問題解決は、伯爵を改心させれば良い、と言う事ではなさそうだ。どっちにしても改心などしないだろうが。王家のお墨付きだと言っているんだから。王家を動かせないといけないが、そもそも王家がお墨付きを出したのは、貿易均衡という国家レベルの政策の為だ。


 王家は動く筈が無い。

 輸送費が…競争が…とか書く必要がある気もしますが、もう十分くどいから良いかな、と省略しました。明日も投稿します。

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