第八話 ポーと白金の指輪。
今話でまたいったん話に区切りがつきます。
ホムラ国で、そしてグッドラック・アイランドに帰ってきて、
ポーたちは何を思うのか。
では、どうぞ。
コンコン、とノックをしてペイズの母親が入ってくる。
「みなさん、ケーキとジュースを持ってきましたよ」
部屋の中を見渡して、あら、と声を出した。
そして声を殺して笑った。
昨日した夜更かしのせいで、眠かったのね。
痛むといけないので、ケーキとジュースを持ってそっと部屋を出た。
五人が目を覚ましたのは、昼前だった。
そんなに時間差はなかったのだが、最後まで寝ていたのは、やはりポーだった。
申し合わせたわけではないが、ポーが目を覚ますまでは、誰も何もしゃべらなかった。
ポーがまだ眠りたそうに目を擦りながら四人に目をやって、四人もちらりと目を合わせる。
「夢じゃないんだよな」
ぼそりとつぶやいて、ボンザはポケットに手を入れる。
「これが証拠だもんな」
四人もポケットに手を入れて、ボンザの手にあるものと同じものを取り出す。
それは白金の指輪だった。
その指輪は元の世界に帰る前に若君、つまり白清秀から渡されたものだ。
近い将来に間違いなく家宝になるものだ、とひとりひとりに手渡しながら、清秀は言った。
若君とは朝雲に三人の呼び名を尋ねたときの答えだった。
白清正の呼び名は大将軍様、陰陽師の鵜久森朝雲は、白家の陰陽師を束ねる立場の、つまりはとても偉い人なのだったが、五人には朝雲でいいと、むしろそうでないと失礼に当たると恐縮されてしまったので、じゃあ朝雲さんで、と呼び名を決めた。
ボンザはもう一度、夢じゃないんだよな、と自分に言い聞かせるようにつぶやいた。
正確にはその日の深夜、ホムラ国の城の一室で引き受けることを告げると、朝雲は喜びをあらわにした。
大将軍様も若君も同様だった。
プランタだけが、気のせいかもしれないと思うと同時に、襖の向こうの空気が軽くなったと感じた。
それではと、清正が清秀に目配せをした。
清秀は肯いて、懐に手を入れる。
そうして、五つの綺麗な指輪を出した。
「引き受けていただけるのなら、これを差し出そう。これは時の指輪と言って、これを指に嵌めている者は、その都度召喚の議を行わなくてもここホムラ国とそなたらの世界とを行き来することができるのじゃ」
「時間も時間であるし、貴公らをここに長く留まらせておくこともできん。だから本来ならばいろいろと説明をしたいところなのじゃが、今日はここでいったん打ち切り、また貴公らの都合のいい時間にこちらに来てもらって、そこであらためて話をしたいのじゃが、どうであろうか?」
清秀のあとに清正が話した。
ミーナがはっとして言った。
「そうだわ。いま、何時ですか? あんまり遅いとママが心配しちゃうわ」
「安心してくれ。ここから貴公らの世界に戻るのは、貴公らが時空の渦に飲み込まれてから一秒後なのじゃ。ただ、ここで過ごした時間は、そのまま、貴公らが生きた時間ということになる。ここで一週間過ごしたら、貴公らは元の世界の人間たちより一週間分、年を重ねたということじゃ」
「じゃあ、早く帰らないと、ぼくたちおじいちゃんになっちゃうよ」
「じゃから、また後日、なのじゃ」
ペイズが心配すると、無用、とばかりに清正が言った。
五人は相談して、明日の、遅くても二時には来られるし、ぼくたちは来なければいけない、と決めた。
では、と朝雲が五人に呪いの言葉を教える。
我、光となりて、彼の地に赴かん。
「ふうん。我、光となりて、彼の地に赴かん、か」
ポーが言った。言った瞬間、ぱっと消えた。
「ポー」
四人の声が揃う。
「ポー殿。ひとりでも効果があるから気を付けてくだされと言おうとした矢先に」
「まあ、これでおれたちには呪文の効果が証明されたわけだ」
とボンザが言う。
そしてプランタが言う。
「そうだね。じゃあ、ぼくたちも帰ります。あ、そうだ。ぼくたちはみなさんのことを、なんとお呼びしたらいいですか?」
*
こうして五人は、歴史の渦に飲み込まれていくのでございます。
その肩にのしかかる運命の重さも知らずに。
いや、知らないからこそ、引き受けられたのでしょう。
わたくしにはとてもとても。
あなた様は、五人の少年少女を勇敢だとお称えになられますか?
飛んで火にいる夏の虫と蔑まれますか?
誰にも答えはわかりません。
だからおそらくは、どちらも正解なのでございましょう。
わたくしは、ホムラ国、白家の語り部。
五人の少年少女の行く道に幸あれと、願わずにはいられないのでございます。
白清秀から渡された白金の指輪。
次話からまた少し、話が深くなります。
少しずつバトルの要素が見えてきます。ちょっとだけですけどね。
楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、またお逢いしましょうね。