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第六話 ポーと嘆願。

12月です。今年最後の月になりました。

インフルエンザが流行っているそうなので、

お互い体を大事にしましょうね。


では、どうぞ。

「どうかしたのか?」

「いえ」

 とプランタは逡巡しゅんじゅんして、おずおずとたずねる。

「ハクというと、ここはホムラ国なのですか?」

「おお、知っているのか」

「知っているもなにも、今度の世界史の授業で習うところなんです」

 ペイズの発言は不用意で、プランタは目を固くつむる。

「世界史、とは?」

「ぼくたちは学校に通っているんです。そこで近いうちに先生に教わるんです」

 ペイズはけろりと答える。

「彼らは見るからに異国の者です。我々とはまた違った文化があるのでしょう」

 朝雲が耳打ちをする。

「ふうむ。まあよい。この者はわしの不肖の息子、白清秀はくきよひで。そして陰陽師の鵜久森朝雲。朝雲はもう名乗っているな」


 朝雲が返事をする。

 清正はここで言葉を切って、すまぬ、と頭を深く下げた。

 五人は面を食らった。


「ここからは完全にわしらの我が儘じゃ。勝手に呼び出して、わしらに加担してくれと、わしは言わなければならない。しかしそうしなければ、わしは当主失格。白家の者と白家に仕える者たちに苦汁を飲ませることになってしまうのじゃ」

「頭を上げてください」

 プランタが最初に、続いて四人がそれぞれにお願いする。

 それでも清正は頭を上げなかった。


「わしら白家には宿怨しゅくえんの敵がいるのじゃ。名を黒という。わしの祖父の代から六十年以上も覇権をかけて争っている。多くの敵を殺し、多くの同胞が死んだ。それでも膠着こうちゃく状態は続いている。十年前になるのだが、天子様がこうおっしゃった。『白家も黒家も優れた侍たちである。死にゆくは口惜しい。そこで、である。双方の気持ちを考えれば、すべての禍根かこんを無にし手を取り合えとまでは言えない。そこで、争うのは、年に一度の御前試合のみにしてはもらえぬだろうか』と。御前試合とは別名を、盤上遊戯と呼ばれている。その時々にもよるが、わしらは盤上遊戯と呼ぶことのほうが多いのだ」

「……バンジョー……ユウギ?」


 ボンザが付いてこられなくなっているのも当然で、清正は説明する。


 盤上遊戯とは、白家と黒家が十人ずつ兵を出し、六十四のマス目の中で、軍師もしくは参謀と策を練りながらいかに速く敵を討ち落とすかを競う、将棋のような試合であると。

 将棋とはこちらの国のチェスのようなものだとプランタが説明を付け加えた。


「天子様の御力で、そこでは斬られても突かれても死ぬことはないのだ」

「へえ。面白そうだな」

 とボンザの目が輝くと、清正は顔を上げ、清秀、朝雲と目を合わせて露骨にうれしそうな顔をした。


「そう言ってくれるか。それでだな、しかし我ら白家はここ二年、負け続けているのだ。なぜだと思われるか」

「黒家の方が強いから」

 ペイズの身も蓋もない言い方に、プランタは凍り付く。

 さすがにペイズも

「すみません」

 と謝った。

「よい。その通りじゃ。では、なぜ強いのかは、わかるか?」

 五人は考えた。

 しかし答えは出ない。

「わからんだろう。召喚者じゃ。向こうの陰陽師が呼び出した召喚者に、いいようにやられてしまっているのじゃ」

「召喚者」

 ポーは繰り返した。

「どうやら陰陽師によって召喚された者はみな、不思議な、そして戦局を有利にする強い力を宿されて、呼び出されているようなのだ。その力をやつらは『虎』と呼んでいる。忌々(いまいま)しいことじゃ」

「それを黒家が始めたのが三年前で、白家のみなさんも負けてはいられないと、召喚の儀式を行った、と」

「察しがよくて助かる」

 ミーナに向かって、清正はにっこりとした。

「え?」

「じゃあ」

「つまりは」

「ぼくたち」

「盤上遊戯に」

「そう。出ていただきたいのじゃ」


 プランタが声を上げ、ミーナが息をのみ、ボンザが興奮し、ペイズがおくし、ポーが呆然として、清正が目的を告げた。

 そうしてまた頭を下げて


「頼む。この通りじゃ。やられても死ぬことはない。貴公らを悪いようにはせぬ。力を貸して下れ。わしらを助けてくれ」


 と嘆願たんがんした。

 両脇の清秀と朝雲も、お頼み申します、と畳に額を押し付ける。


 当然、五人は、いや、ボンザを除いた四人は大きく困惑した。

 不安げに目を動かし顔を見合わせて、でも言いたいことは言えなかった。


「わしらはいったん席を外したほうがよいであろうから、貴公らで話し合って、答えをお聞かせ願いたい」


 そう言うと、清正が席を立ち、清秀と朝雲も続いて、退室した。

 残されたポーたちは、小声で早口で話をする。


「どうしたらいいと思う?」

 一番にペイズが口を開く。

「急すぎてどうしたらいいかなんてわからないよ」

 ポーが答える。

「いいじゃねえか、盤上遊戯。面白そうだ」

 ボンザは乗り気だ。

「ボンザさんの剣の腕前なら面白いのかもしれないけど、わたし怖いわ」

 ミーナは顔を曇らせる。

 すると、さらに小さな声でプランタが言う。

「断ったら殺されるかもしれないよ」


盤上遊戯に出てほしいと嘆願されて、プランタは

「断ったら殺されるかもしれない」と言いました。

ポーの胸中やいかに? しかし、あくまで嘆願なのです。


では、またお逢いしましょうね。

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