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第五話 ポーと渦巻の向こう。

質問です。第三部とかを書かれている人もいらっしゃいますが、

一度、第一部や第二部を完結設定で「この部分で完結します」にチェックしてから、また新たに第三部を書かれていらっしゃるのでしょうか?

 



渦巻の先で、ポーたちが見たものは……?

 

では、どうぞ。

                 2




 ケーキを運んできたペイズの母親に、ポーもきちんと礼を言った。

 友達の家でケーキをごちそうになりながら、大好きな小説を読む。

 こんな幸せを、ポーはずっと焦がれていた。


 ポーはページをめくった。

 そしてふと思った。


 この前のページのストーリーは、どんなだったっけ?


 思い出そうとしても思い出せないので、ページを戻した。

 愕然がくぜんとした。

 前のページも、次のページも、どのページをめくっても白紙なのだ。


 顔を上げると、みなは楽しそうに小説を読んでいる。

 声をかけようとしたのだが、声が出ない。

 どんなに大声を出そうとしても出ない。

 やっと出せた声は、小さなかすれ声だった。

 でも、みな小説に夢中で、誰も気づいてはくれない。

 ポーは反射的に下を見た。

 と、


「ポー」


 とボンザの声がした。

 ポーは顔を上げた。

 だが、ボンザは小説を読んでいて、ポーのことなんて見てはいない。

 しかし声が聞こえるのは気のせいではない。


「ポー。ポー。おい、起きろ、ポー」


 目を開けると、自分をのぞき込む四人の顔が見えた。

 上体を起こすと、一気に目が覚めた。


ポーたちを取り囲むように大勢の大人たちがいて、みな、本でも見たことのない、(おそらくだがそうであろうとしか言いようのない)異国の服をまとっている。

 ポーは何度も周囲を確認した。

 言葉が出なかった。


 ゆっくりと立ち上がると、ポーは四人の顔を見た。

 明らかに緊張している。

 ミーナに至っては目に涙が浮かんでいる。


 ポーたちは教室よりも広い部屋の中央の、一段高くなっている、組まれた木々と四方に紙の飾りがある場所に立っていた。どうやら祭壇であるらしいと、ポーは思った。


 みなひれ伏しているのだが、五、六人ほどは集まって何事かを話し合っていた。


 どれほどの時間が過ぎたのかはわからない。

 あるいは一分も経ってはいなかったのかもしれない。

 身を寄せ合って固まっている五人に、三人の大人が、それも身分の高そうな身なりの大人が近づいてきた。

 十分に近づいてから、彼らはポーたちに向かって膝をついて礼をした。

 なにか話しかけてはきたのだが、当然言葉はわからない。

 すると、ひとりが先端に毛のついた細い棒を取り出し、黒い水のようなものに毛を浸し、隣にいた、よく見ると(ポーたちよりは年上ではあるが)大人とはまだ言えない年頃の男子の耳に何か小さな魔法陣のようなものを描いた。

 

 もう片方の大人にも同様に描いた。鏡を取り出し自分の耳にも描いたあとで、笑みを浮かべながら、棒の先端を向けた。


「あれを、ぼくたちの耳にも描かせろってことなんじゃない?」

 プランタが気付く。

「大丈夫なのかな」

 ペイズは弱気だ。

「びびったってなにも始まんないだろ。あいつらが耳に描いてなんにもなかったんだ。俺たちだって大丈夫さ」

 

 ボンザだって怖いはずだ、とポーは思ったが、一歩足を踏み出すと、ボンザはぐいっと耳を向けた。

 毛の感触は気持ちのいいものではなかったのだが、悲鳴が上がりそうになるのを堪える。


「勇敢な若者でよかった」

 ボンザにははっきりと聞こえた。

「聞こえた。いま、あんたの言ったことがはっきり聞こえたぞ」

「そのためのまじないなのです。耳にこの印を描くことで、異国の言葉が理解できるようになるのです」

「おい、みんな。みんなもこれを耳に描いてもらえよ」


 安心しきったボンザの顔を見て、それならと四人も順番に耳に魔法陣のようなものを描いてもらった。

 ポーたちの驚きが収まったあとで、三人はあらためて礼をする。


「まず初めに、このように乱暴なかたちで呼び出してしまって申し訳ありません。それについては今後、お詫びしていくつもりです。ですが我らにはこれしか方法がなかったのです。どうかご理解とご容赦をください」


 平謝りのこの大人は、隣にいる大将軍に使える、陰陽師の鵜久うくもり朝雲ちょううんだと名乗った。

 ボンザは知らないので

「陰陽師ってなんだ?」

 と訊く。

 これにプランタが

「魔術師みたいなものだよ」

 と答える。

 

ペイズもポーも知らなかったので、心の中でへえ、そうなんだと思ったのだが、知っていましたよという顔をしていた。

 警戒心が少し解けた五人も名を名乗った。

 名乗ると、三人の口元はほころんだ。

 

 ここではなんだから場所を変えて話をしましょうと、朝雲は五人を誘った。

 そこはたしかに親睦を深めるような会話にふさわしい場所ではない(そもそも向こうに親睦を深める意思があるのかどうかが怪しいと、プランタは思っていた)し、とにかく落ち着ける場所で休みたいというのが、五人の本音でもあった。


 歩きながら、ポーたちは何体もの魔物を見ることになる。

 ただそれは、ポーたちの世界に伝わっている「悪魔」ではなくて、筋骨隆々の体をした、ひとつの角と一対の牙を持った魔物だった。


「やはり見えるのですね」

 五人を先導している朝雲が確認する。

「ぼくたちの知っている悪魔とは違うのですが、いったいなんなんですか?」

 とプランタが訊く。

「これは式神といいます。式神の『鬼』というものです」

「『鬼』、ですか」

「はい。まったく驚かれないのですね」

「魔物は、ぼくたちの国にもいますから。そんなに頻繁に見るものでもないのですが」

「そうですか。まもなく到着いたします。お疲れでしょうが、もうしばらく、お付き合い願います」


 初めて見るものだらけなのだが、物珍しさよりも手提げバッグも一緒に吸い込まれていて、小説が無事であることのほうに、ボンザは気を取られていた。

 ペイズはここがどこなのかと質問したかったのだが、雰囲気にのまれてできなかった。

 ポーは暢気のんきに月を見上げて、ここも今は夜なのかと、そんなことを考えていた。

 ミーナは固く押し黙っていて、その様子を見た朝雲は女の子だからおびえているのだろうと受け止めた。

 さあ、着きました。


 と通された部屋で、五人は初めて畳の上を歩き、座布団というものの上に座った。

 窓のない、四方を襖に囲まれた部屋なのだが広さがあり、圧迫感はない。

 なぜだか、五人はそんなには緊張はしていなかった。

 なのに、五人の向かいに座った大人三人は、重苦しい顔をしている。

 そして、大将軍が重々しく口を開く。


「まずは挨拶を。わしはこの国の大将軍、白清正はくきよまさと申す」

「ハク!」

 五人は目を白黒させる。


次回では白清正と話をします。

それがポーたちにとって吉か凶か。

楽しみにしていただけたら嬉しいです。


では、またお逢いしましょうね。

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