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第三十四話 ポーと大団円。

ついに最終話です。長かったような短かったような。

戦いものを書こうとしたのにバトルシーンが少なかったのは、

わたしの持ち味でもあり、反省点でもあり。

みなさんはそんな感想をお持ちになられましたか?

ぜひ、お聞かせください。


では、どうぞ。

 目を開くと、来たときと同じ、ペイズの部屋だった。


 五人がつまんでいたお菓子。

 飲みかけのジュース。

 ボンザが開きっぱなしにしたままの本。

 カーテンは閉められている。

 そのせいで薄暗い室内。

 こちらでは一秒しか経っていないのだ。

 何も言えずに五人は立ち尽くしている。


 ポーが目を擦る。

 やめろよ。

 とボンザが言う。

 ポーは我慢をする。

 我慢して、震えて、我慢した。

 が、我慢しきれずに声をあげて泣いた。


 あとを追うようにミーナが、次いでペイズが、プランタが泣いた。

 馬鹿野郎。

 そう言ったボンザも涙を流した。

 でも、こんなときは笑うんだ。

 とポーをペイズをくすぐって、するとプランタがミーナをくすぐって、ミーナがペイズがくすぐり返して、ポーも泣き笑いの顔でボンザをくすぐり返した。

 みな泣きながら笑い、笑いながら泣いた。

 疲れるまでそうしたあとで、五人はソファに座った。


 ペイズが大時計の鐘で時刻を合わせる。

 鐘の音は聞きようによっては、勝利を祝うものにも、戦いを労うものにも聞こえる。

 五人は、帰ってきたんだと実感した。


 この指輪。

 とボンザが話し出した。


「本当に家宝になったな」

「そうだね。今年の夏は、ぼくたちに最高の思い出ができたね」

 とプランタが答える。

「誰にも話せないのがもどかしいけどね」

 と笑うペイズの後を受けて、ミーナが

「夢よりも夢みたいな、わたしたちだけの秘密ね」

 と笑った。

 たしかに、五人の絆は以前にもまして強く、太くなっていた。


 五人は手をかざし、まじまじと指輪を見た。

 窓から差し込む光が、白金の指輪を輝かせている。

 が、次の瞬間、みな同時に目を疑った。

 だが、決して見間違いではなかった。


 指輪が、蒸発するように消えていってしまったのだ。


 わあっ。

 とペイズが声を上げる。

 ボンザは煙のようになる指輪を手で抑え、留めようとする。

 ミーナとプランタとポーは口をぽかんと開けたまま、固まっている。

 指輪が霧散するまで、たったの数秒。

 ボンザが手を広げても、指には何もない。


「なくなっちゃったな」


 ボンザがつぶやいた。

 呆気に取られている四人は、声も出なかった。

 みな、ただ呆然とするしかなかった。

 呆然としたあとで、ぷっと吹き出したのはポーだった。


「別にいいじゃない。指輪が消えても、ぼくたちが忘れない限り、心の中にちゃんとあるんだから」


 それで何とか丸く収まった。

 ボンザはまだすんなりとは納得がいかないようだったが。

 ミーナが、ほかの誰かが口を開くより早く、立ち上がり、言った。


「ごめん。今日、わたし、早く帰らないといけないの」

「そう。じゃあ、急いだほうがいいよ。いま、二時過ぎだけど、大丈夫?」とペイズ。

「うん。ありがとう。じゃあまたね」


 そう言って、ミーナは急ぎ足で帰っていった。

 ミーナの顔が少し青いのは、本当に慌てているから、申し訳なく思っているからだと、みな思った。

 でも、違った。





「パパ」

「なんだい? ミーナ」

「二百年前に大政奉還をしたんでしょ? そのころの口伝を、それからの白家の人のことを聞きたいの」

「どうしたんだ? まあ、いいけど」

 

 と咳払いをしてから続けた。

 ミーナは終わりまで聞いたあとで、いくつか質問をして、自分の部屋に戻って胸を撫で下ろした。

 神を名乗る生物に殺されたはずの白家の人物が生きていても、歴史はわずかしか変わってはいなかったからだ。

 四十歳で殺されるはずの人間が、七十歳で死ぬまで幸せに生きた。

 それだけの違いだったのだ。

 安心して、心を縛り付けていた鎖が解かれると、うっすらと涙がにじんだ。

 それを指で拭って、声を出さずに笑った。


 よかった。


 心からそう思わずにはいられなかった。

 この話は、あの四人になら聞かせてもいいかもしれない。

 いや、駄目かもしれない。

 でも、わたしひとりの胸の内に仕舞っておくには、大きすぎる話だわ。

 ベッドに転がって、顔が笑ってしまうのを止められないミーナであった。

 




 ミーナが帰ってから、みな思うところがあったのか、しばらく沈黙の時間が過ぎた。

 ぽつりとボンザが話し始めると、それから、堰を切ったかのように盤上遊戯の話になった。


 始まりから終わりまで、みな興奮して話した。

 初めてホムラ国に行ったときについてまで話題は広がった。

 もしもあのときペイズが酔っぱらいに文句言わなかったら、おれたちこんな冒険はできなかったな。

 そうボンザが言った。

 だからって誰にも彼にも文句言ったりするなよ。

 とくぎを刺すのも忘れなかった。

 笑いに包まれた時間が過ぎる。

 だいぶ日が伸びたので四人は気が付かなかったが、もう五時を回っていた。


「あ、もう五時を過ぎてるよ。帰ったほうがいいんじゃない?」

「そうだね。今日はもう帰ろう」

「忘れ物はない?」

「ああ。大丈夫だ。またな」

「またね。ペイズ」


 ペイズが気付いて、プランタがまとめて、ペイズが確認して、ボンザが、次にポーが別れの挨拶を言った。

 ボンザと別れ、ふたりきりになったポーとプランタは、歩きながら夏休みが近いことを話題にする。

 と、向こうから歩いてくる五人組がいた。すぐに危険を察知し、プランタが言う。


「ポー、いまからでもボンザを呼んでこようか?」

「ううん、大丈夫。ぼくはポー。でももうあの頃のポーじゃないんだから」


                  *


 これにてこの物語も閉幕でございます。

 長らくお付き合いくださり、感謝の弁しかございません。

 ただひとつ、語り部として、最後にお尋ねしたいことがございます。

 面白うございましたか?

 あなた様の心に笑顔の花が咲いたなら、それがわたくしの幸福なのでございます。

 あ、また最初からこの物語を読み返してくださるのですか。ふふふ。


 では、さようなら。


                                 〈了〉


最終話なのに、第三十四話としたのは、

続きを書こうかという気持ちが心に少しあったからです。

書かないかもしれません。

でも、気持ちが昂ったら、そしてみなさんからのリクエストがあったなら、

書くかもしれません。楽しみにしていただけたら嬉しいです。


最終話を書き終えて、みなさんに面白かったと言っていただけたら

最高に嬉しいです。


では、また次回作でお逢いしましょうね。

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