第三十三話 ポーと別れ。
最近家の周りにカラスが増えてきました。
ただ鳴かれるくらいなら気にはならないんですが
フン害は困ります。
ポーたちは大冒険を終えて何を思うのか。
では、どうぞ。
「プランタ、ボンザ、ペイズ、ミーナ、そしてポー。こたびの働き、見事であった。礼を言う」
酔ってはいても大将軍。
清正はしっかりとした口調で話した。
大河が続けた。
「我らだけでは、きっと敗れていた。白家の五人の召喚者はみな手強かったが、特筆すべきはポーじゃ。あっぱれじゃ」
ふたりとも、まるで酔っていたのが芝居であったかのような印象さえ受けた。
「ちょっといいですか?」
とギンが口をはさんだ。
「ぼくたちはそろそろ帰る時間になってしまったんですけど、その、盤上遊戯の必要がなくなった以上、ぼくたちがホムラ国に呼ばれる理由もなくなったわけで、つまり、大将軍様とお会いして話ができるのも、もうあと少しになってしまったわけですから、言いたいことを言わせていただきます。大河様、ありがとうございました。白家のみなさま、大将軍の清正様、盤上での無礼をお許しください」
「本当に、特にギンは憎らしいほどの強さであった。いまとなってはよき思い出よ。気にするな」
「ギン、ひとつ訊きたいのだが、我との戦いで、少しでも手を抜いたか?」
清秀が訊く。
「まさか、そんなことする余裕なんてどこにもなかったよ」
「そうか」
清秀はかみしめるように二度、三度と肯いた。
「白家の五人の召喚者たち。最後の相手がきみたちでよかったよ」
ああ、この五人はもうすぐホムラ国から消えるんだ。
ポーたちでさえしんみりとした。
大河が餞別の言葉を送る。
「我が黒家の召喚者たちよ。おぬしらとともに戦ったこの三年間、楽しかったぞ。大儀であった。おぬしらは我が黒家の友じゃ」
「ありがたき幸せ」
深々と頭を下げて、ギンたちは手を見た。
黒家の召喚者も、白家と同様に指輪をしていたのだ。
みなさん、さようなら。
そう言ってから、呪いの言葉を言うと、何の余韻もなく、ぱっと消えた。
「なんか大袈裟だな。月のしずくが溜まるころには、また来られるじゃんか」
「いや、ボンザよ。月のしずくはもうないのじゃ」
大河の発言に、ボンザだけでなくポーたち召喚者全員が驚いたのだが、ポーたち以外は知っているようだった。
「大将軍様、白家の月のしずくは、また溜まるんですよね?」
ボンザが尋ねる。
「いや、朝雲の命で見張らせていたが、新たな月のしずくは生まれなんだ」
「不思議じゃろう。我が思うに、天子様の名を騙るあの悪党がいなくなったいま、月のしずくは役目を果たしたのではなかろうか」
清秀は、ポーたちが何でと訊く前に答えた。
「うむ。わしもそう思う。田畑や傷、病気の治癒に使えなくなったのはちと厳しいが、そこは栄と光に後進の育成ともども頑張ってもらうほかない。なに、心配はいらぬ。誰かを召喚して戦わなければならない時代はもう終わりじゃ。これからは黒家と白家、争いのない世にするために力を合わせようと、意気投合したところじゃ」
「これで、お別れなんですか?」
ペイズの発言で、一瞬だけ空気は重くなった。
だから、清秀は高らかに笑った。
「楽しかった。共に過ごした時間は一秒も余すことなく、楽しかった。そうであろう?」
「はい。楽しかったよ、若君」
ポーはそう言うと声を上げて笑った。
プランタもボンザもペイズもミーナも声を上げて笑った。
白家、黒家の面々も大声で笑った。
みな、多少の差はあれど、涙をこらえて笑った。
「待って、みんな。ぼくたちが帰る時間まで、あと二十分以上あるよ」
「そこまで笑い続けることは、さすがに無理じゃのう。ばあ様のようなしわ枯れ声になってしまうわ」
ペイズが懐中時計で確認して、豪山が答えると、また笑いが起きた。
清秀が立ち上がり、ポーたちに歩み寄った。
「握手をせぬか?」
「喜んで」
座っていた順番に、ペイズ、ボンザ、プランタ、ミーナ、ポーと握手をした。
清秀の手が、幾万と刀を振った武士の手であったことを、ポーたちは初めて知った。
そうか。
とペイズは気付く。
悲しい別れにならないように、みんな騒いでいたのか。
「ありがとう」
清秀が言う。
「ぼくたちのほうこそ、ありがとう」
ポーが返す。
そして、白家黒家の全員にも礼を言った。
ボンザたち四人も追随する。
じゃあ、ぼくたちも。
とプランタが言って、白家の召喚者である五人は肯いた。
清正がつぶやくように言った。
みなの人生に、幸多からんことを。
その声は、呪いの言葉に重なって、ポーたちには届かなかった。
五人が消えたあとで、清正と清秀はこんな会話をした。
「父上。不吉と言われていた了の力が、大きな益をもたらしてくれましたな」
「うむ。たしかに終わったな、これまでの白家は。これからはあの黒家と手を取って天下の泰平を目指すのだからな。人生とはどうなるものか、わからぬものだ」
「大樹、広樹、緑樹はどこか」
と清秀。
「はい。こちらに」
「語り部として、このことを後世にしかと伝えよ」
「は」
「待て」
清正が止めた。
そして、いくつかの指示を出した。
語り部たちは畏まった。
「これからはこれからで、大変でございますな」
「まだわしに隠居させぬつもりか。親不孝者め」
子は父を慕い、父は子を愛らしく思う。
多少の寂しさを、よき思い出で塗りつぶして。
見上げると、空に月が昇っていた。
とうとう次話で最終回です。
長らくお付き合いくださいましてありがとうございました。
まだ早いですか?
頑張って書いたこの物語、終わるとなるとやっぱりちょっと寂しいです。
みなさんにも面白かった。続きを読みたいって言っていただけたら嬉しいです。
では、またお逢いしましょうね。




