第三十話 ~異形~
言おうか言うまいか迷いましたが、言います。
メリークリスマス!
では、どうぞ。
天子様が坐すべきところに座っていたのは、人ではない生物だった。
座っているので推定になってしまうが、身長は百センチほど。
細い体で、衣服に覆われていない部分から出ている皮膚は、灰色。
頭は大きく、黒々とした目も大きい。
鼻は突起しておらず、顎は小さく細い。
化け物なのか?
将成は思った。
子どものようで、刀を振るわずとも拳ひとつで容易く倒せそうだとも、思った。
「余にこのような無礼を働くのか」
怖い。
その声を聞いた者はみな、鳥肌が立ち、体が勝手に後ずさりした。
立ち上がる、天子様であったはずの存在。
ゆっくりと歩を進める。
一番後ろにいた叶は、無人の観客席の最前列にまで下がっていた。
戦意は喪失しているようだ。
震えている。
黒家の陰陽師である周波動は思った。
いったい何者なのだ? いや、それよりもこの威圧感は。我々は向けてはいけぬ相手に刃を向けてしまったのではないか?
人ではない。
しかし、妖怪や魔物の類でもなさそうだ。
その顔からは感情を読み取ることはできない。
太陽を浴びて、一歩、一歩と距離を詰めるその生物の姿を、白家の戦士たちも恐れをもって見た。
「どうした? 余に刃を向けた勢いはどこへ消えた?」
黒家の戦士たちは、虎を持つ召喚者たちでさえ、完全に圧倒されていた。
「おぬしは天子様ではないのであろう。それならば、何者じゃ?」
大河が言う。
「余は天子である。余こそが天子である」
「そのような戯言、誰が信じるか。おぬしは人間ではあるまい。天子様は人間であるわ。
天子様の名を騙り、天子様であるかのように我らをたばかったおぬしは、何者だときいておるのだ。答えよ」
「ならば神と呼べ」
「ふざけるな」
刀を振りかざし、怒号を上げて大河は斬りかかった。
大河が舞台にまで、吹き飛ばされた。
ギンの治療を終えた三人が、駆け寄る。
胸に致命的な、焼けたような傷がある。
しかしまだ死んではいない。
すぐさま傷を癒す。
自らを神と名乗ったその生物は、男とも女とも判別できないその生物は、黒家の戦士たちも吹き飛ばした。
何の抵抗もできぬまま、黒家の戦士たちは死を覚悟した。
が、生きている。
手加減をされたのだ。
それは戦士として最大級の屈辱であった。
神を名乗る生物は、宙に浮いた。
宙を浮遊し、舞台に降り立った。
「余が神でなければ、なぜこのようなことができると思う?」
屈辱を忘れてしまうほどの芸当で、黒家の戦士たちの恐怖感はふたたびよみがえる。
白家の戦士たちも、本当に神なのではと信じそうになってしまうほどの衝撃を受けていた。
沈黙。
神を名乗る生物が生む恐怖がその場を支配していた。
が、その沈黙を破る者たちがいた。
清秀と、ギンと、ボンザだ。
三人はプランタの付与の力で力を増幅させていた。
「人の運命を弄ぶのは、人の上に立つ人のやることじゃないよ。あ、人じゃなかったか。許してな、か・み・さ・ん」
「我も許しを請おう。おぬしの命の灯は、いまをもって消える。我らの手によってな」
「おれとしては直接の恨みはないけどよお、悪者を倒すのは、おれの役目だって決まってるんだ」
ギンが、清秀が、ボンザが、刀を剣を構える。
「愉快、愉快。むしろ心地よいぞ」
神を名乗る生物が、嗤う。
清正も舞台に上がり、栄と光に大河の治癒をさせていた。
意識を取り戻した大河に、清正は訊いた。
「あやつは何者じゃ?」
「知らぬ。ただ、天子様でないことはたしかじゃ。あやつは我ら黒家と、おぬしら白家が威信をかけて戦っているのを、嗤って観ておったのじゃ。何たる屈辱か」
呻く大河。
「傷に障る。許せ、わしは気付かなんだ。共に戦おうぞ」
「よし」
大河の上体を起こして支え、清正は我が子、清秀の背中を見た。
たくましくなったものよ。
一雫の水滴が波紋を広げるように、心に浮かんだ。
神を名乗る生物対清秀・ボンザ・ギン組の戦いが始まる。
三人の同時攻撃。
しかも三人ともかなりの手練れ。
訓練をしたわけではないが、とても捌ききれるはずはない。
その常識に基づく推測が、覆された。
その華奢な体つきからは想像もつかない速く強い太刀筋で、三人の攻撃をさばいていくのだが、まるで事前に相手の剣がどこに振るわれるのかわかっているかのようにも見えてしまう、その身のこなしは軽やかだ。
「どうした? 三対一でも手加減が必要なのか?」
「嗤うな」
清秀は言うや上段から斬りかかり、ギンは胸元を突く。
ボンザが側面から胴を払う。
舞を舞うように神を名乗る生物はかわす。
笑みを浮かべて。
動きや剣技は、まるで人間のそれではなく、その容姿も合わさって、
どこが神じゃ、化け物め。
清正はそう吐き捨てた。
神を名乗る生物の指から光の槍が放たれて、清正の胸を貫いた。
「余を愚弄した罰である」
栄と光が慌てて治癒しようとする。
「無駄じゃ。月のしずくでなければな。それ、そこを見るがよい」
指さす先に、たしかに月のしずくが入った樽が、白家の祠にあるはずの樽があった。
白家の者が五人がかりで運んできたところだった。
「大将軍様」
清正の身を案じ駆け寄らんとするその五人にも光の槍が放たれた。
避けるまもなく、五人は餌食になった。
「それ、死んでしまうぞ。どうする、どうする?」
神を名乗る生物は、楽しくて仕方がないという顔をしている。
「おのれ」
また清秀が斬りかかる。
かわした神を名乗る生物が清秀に刀を振り下ろす前に、ボンザがギンが、剣を振るう。
しかし、かわされてしまう。
師範が剣を初めて握った者に稽古をつけるかのように。
「もう飽きてしもうた」
そう言うと、右手の刀でギンを斬り、左手でボンザに光の槍を放ち、大河と同様に清秀を吹き飛ばした。
吹き飛んだ清秀はポーの頭上を飛んで、受け身も取れずに舞台を転がった。
未知に対する恐怖って、大きいと思いませんか?
わたしはけっこう怖がりなので、天子様を名乗っていた生物を
目の当たりにしたら、ビビったと思います。
それでも勇敢に立ち上がった戦士たち。
どんな決着になるのかを楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、またお逢いしましょうね。




