第二十九話 盤上遊戯 ~白清秀~
今話の主役は、若君、白清秀です。
多くは語りません。読んでみてください。
みなさんの満足のいく内容になっているかはわかりませんが、
わたしなりに頑張りました。
では、どうぞ。
舞台に上がり、黒家を待つ。
風が吹き、舞台にわずかに砂埃が舞う。
黒家の面々が、ゆっくりと六段ばかりの階段を上り、舞台で体を慣らす。
太陽の位置はほとんど変わらず、じりじりと肌を焦がす。
白家の戦士たちの血は、どくどくと脈打つ。
清正は大河の思惑を図りかねていた。
舞台の対面に座っている大河の顔で察するには、あまりにも距離がありすぎる。
何が言いたいのじゃ、大河よ。わしがどうすることを望んでいるのじゃ。
清正は悩み、迷う。
そんななか、盤上遊戯第二戦の開幕が告げられた。
「はじめ」
清正も大将軍、悩みや迷いなどを戦場に持ち込み、後れを取るうつけではない。
眼光も鋭く、舞台を見た。
そうして、度肝を抜かれた。
黒家は、後衛に五人、中衛に四人、そして前衛は、ギン、ただひとり。
それはもはや「戦法」だとか「戦術」といったものではなかった。
ギンは嗤っている。
声を出さずに、嗤っている。
何かが面白くて嗤っているのか、挑発のために嗤っているのかは定かではない。
ただ、清秀は震えるほどに腹が立った。
清正が采配を振るう。
「清秀、行け」
また、消えた。
しかし、黒家の忍頭である赤森宗助のときのようにはいかなかった。
目を移すと、鍔迫り合いをしている清秀とギンがいる。
「貴様の顔、忘れてはおらぬぞ」
「そう? ぼくはきみと初対面な気がするけどね」
「叩いた減らず口の数だけ、寿命が縮まると思え」
名刀「雷刃」を操り、攻める清秀。
ギンの顔から笑みが消え、額に第三の眼が開いた。
「今度はぼくの番だ」
受けに回る清秀。
雷刃で受けたり、蜻蛉を切ってかわしたりしている。
足を払いに来るギンの剣を、間一髪、かわして返す刀で斬り返す。
ギンは後ろに飛んで避けた。
通じておる。
我の剣技が、通じておる。
先に斬りかかる清秀。
が、後の先を取られてしまう。
刀を弾いた直後、ギンは先ほど三人を一振りで薙ぎ払ったあの一撃を繰り出した。
ギンの剣が清秀の胴に届き、体がふたつにわけられそうになる既のところで、胴と剣の間に雷刃を差し込んだ。
しかし、体ごと弾き飛ばされる。
「これをかわすのかい」
「去年の我とは違うのじゃ」
態勢を整え、両者、また構える。
精神が刃のように研ぎ澄まされる。
一秒、二秒、三秒と重なっていく時間が、無言の会話を交わさせる。
清秀が、消える。
白家の戦士たちは、心臓を掴まれでもしたかのように、蒼白な顔をしている。
舞台は、水を打ったようになる。
雷刃の切っ先が、太陽を受けて光っている。
ギンが、両膝をついた。
歓喜の声が上がる。
「やったあ」
とボンザ。
「すごいよ、若君」
とポー。
豪山に抱きつかれて、苦しそうなペイズ。
みなの視線は舞台の一点に注がれている。
戦士たちだけでなく、貴族も、天子様も、清秀とギンの一騎打ちに心を奪われていたのだ。
「放っておいても消えるだろうが、武士の情けじゃ」
そうとどめを刺そうとする清秀に、ギンは囁いた。
「暗号は、解読できなかったのかい?」
気が付くと、黒家の大将である大河は、ひとつ高くなった席から地面へと降りていた。
それは、第二戦の戦放棄を意味する。
戦が終われば、舞台の戦士たちは、制約なしに動けるのだ。
黒家の戦士たちは、天子様に向かって突進していた。
ポマティと葉、それに織子はギンの治癒に当たった。
貴族たちは腰を抜かして、逃げることもできずにいた。
天子様を守ろうとする衛兵たちも切り捨てて、黒家の戦士たちは天子様のいる観覧席になだれ込み、天子様を隠している薄布を引きちぎった。
黒家は言った。
「天子いない」
その真意がいま、周知の事実となる。
拍手喝采。お見事、若君。
でも、事態は急変しました。
どうなるのか、楽しみにしていただけたら嬉しいです。
あと、ひとつ報告をさせてください。
この物語も、もうすぐカウント・ダウンです。
書くのは長かったけど、なんだかあっという間な気がします。
ちょっと寂しいです。
では、またお逢いしましょうね。




