第二十八話 盤上遊戯 ~智~
第一戦、負けてしまった白家の戦士たち。
でもまだ終わってはいません。
わたしたちも、つらいことがあってもまだ人生は続くのです。
白家の戦士たちは第一戦を終えて気になったことがありました。
それは何なのか?
では、どうぞ。
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「ごめんなさい。ぼくのせいで」
ポーがうつむく。
「いや、ポーに落ち度はない。入れ替わりをさせられなかったわしのせいじゃ」
清正がかばう。
「それに、過ぎたことを悔やんでもやり直すことはできぬ。それならば、これからどうするかを考えようぞ」
清秀が言う。
「そうだぜ、ポー。さっきはもう一押しってところまでいったんだ。次は勝てるさ」
ボンザが励ます。
「それにしても、あのギンってやつ。普通、女の子を狙うかな」
ペイズが怒る。
「それもそうだけど、一振りで三人を薙ぎ払ったあの剣技。ただものじゃないね」
「そうなのだ。やつが一番の曲者なのだ」
プランタに豪山が答える。
「それに、女子とはいえ盤上に立てば戦士。決して卑怯ではなく、立派な作戦なのです」
朝雲が付け足す。
そして言う。
「大河めが同じ作戦で来る可能性も、否定はできません。ギンを早々に戦いに引きずり出さねば、また二の舞になってしまいます。前衛に出てくれればありがたいのですが、もしも中衛に控えたならば、犠牲は覚悟して、槍の陣での戦いを提案します」
槍の陣とは攻めの陣。
槍の穂先のような陣形で、一点集中で突破し、一気に片を付けるのだ。
そのぶん、防御面では弱い。
「大将軍様、恐れながら申し上げます。ポーには悪いのですが、わたくしを舞台に立たせてはいただけませんでしょうか?」
豪山の右腕、田島双迅が申し出る。
「ポーを控えの一番手とし、わたくしを槍の先端にして、たとえわたくしが敗れても、若君とボンザで攻めれば、きっとギンの首、落とせることでしょう」
「ふむ。たしかにそれもよい作戦じゃ」
清正は答えるが、その案を採用するか否か、鵜久森兄弟に意見を求める。
「次を落とせば我らの負け。答えは慎重に考えてからでよろしいでしょうか?」
そう言って清正の許可をもらい、ふたりは顔を寄せて意見を出し合う。
「そうじゃ。向こうの召喚者と戦った者たちに訊きたい。やつらはどうであった? また戦っても勝てそうか? 龍を持たぬ者でも勝つための糸口などは、あったか? 些細なことでもよい。気になったことがあったなら教えてくれ」
清正は尋ねた。
「ジェンカの力はたしかに強かったです。でもスピードはそんなに速くはなかった。力に力で対抗するのではなく、速さで戦えば、龍を持たなくても勝てると思います」
ボンザは言った。
清正は肯いた。
「ペイズはどうじゃ。貴公は召喚者をふたりも倒した」
「ネースの力、言霊傀儡は、言葉を発しなければ発現しない力。できれば長距離がいいけど、せめて中距離からでも攻撃できる人が戦えば、あの紫の煙に巻かれることもないと思います。ポマティも近距離の戦闘型だから、近づかれる前に片を付ける戦い方がいいと思います」
「しかし、われらは魔法を使えぬゆえ、朝雲にかかる比重が大きくなってしまうのう」
「大将軍様、またぼくに戦わせてください。と言っても、ぼくの雇った傭兵が戦うんですけどね」
「なに。ネースを倒したときの戦いぶりは見事であったぞ」
「ありがとうございます」
「プランタはどうじゃ」
「ウィルソンの風に乗せた毒などの状態異常攻撃は、ぼくの風の魔法で無力化できます。でも、二本の小刀での剣技は意外と巧みです。龍を持たない人が戦うときは、その動きに惑わされぬよう、先に攻めて後手には回らないようにするのがいいと思います。でも、それでも正直手ごわいと思います」
「うむ」
「大将軍様、わたくしを」
「待っておれ」
双迅の申し出を、清正は途中で遮る。
鵜久森兄弟の話し合いが、まだ終わってはいないのだ。
「あの、大将軍様。些細なことでもいいんですか?」
ペイズが少しためらいながら言う。
「うむ。よいぞ。言うてみよ」
「金剛の戦士がポマティを倒したときと、ぼくがネースの首をはねる前に、つぶやいた言葉があるんです」
「言葉とは?」
「『くんれ』と『はしら』です」
「ああ、それならおれのときも、ジェンカが『きいい』って言った」
「大将軍様、わたくしのときも『れなうぐ』と言いました」
ボンザの後に続けて、豪山が言う。
「ぼくのときも、ウィルソンが『ぞてわ』って言いました」
プランタも思い出したように声を上げる。
「わたしのときも『どいゆ』と、波動はたしかに言いました」
朝雲も、話し合いを中断して参加する。
「どういう意味じゃ?」
清正が問う。
「はしらは柱。きいいは単なる奇声でしょう。しかしそのほかは、どういう意味じゃ」
豪山は首をかしげる。
みな考え、沈黙のまま時間が過ぎる。
誰も謎を解き明かせない。
と、ポーの眼が光った。
「ぼく、わかったかもしれない」
「なんじゃ。言うてみよ」
「まず、敵を倒した順番に並んでみて」
言われるまま、ボンザ、プランタ、ペイズ、朝雲、豪山の順に並ぶ。
「そして、敵が言った三文字、豪山さんだけ四文字の言葉を一文字ずつ、言ってみて」
わけがわからぬまま、ボンザから言う。
「き」
「ぞ」
「く」
「は」
「ど」
「れ」
「次は二番目」とポー。
「い」
「ここで区切って」とポー。
「て」
「ん」
「し」
「い」
「な」
「い」
「そして三番目」と、またポー。
「わ」
「れ」
「ら」
「ゆ」
「う、ぐ」
「貴族は奴隷。天子いない。我ら遊具って意味だよ」
謎を解いたことでポーは鼻を高くした。
だが、その言葉の意味に、清正は、いや、白家の者たち全員が、青ざめずにはいられなかった。
「こちらを見よ。悟られる」
薄布の向こうにいるはずの天子様を凝視する豪山に、清正は注意した。
「どういうことじゃ」
豪山が言う。
「我らを混乱させようという腹積もりでは?」
との氷雨の発言は、
「それならばもっと上手いやりようがあろう」
と兄の朝雲によって否定された。
「たしかにそうじゃな。しかし、悟られぬようにしてまで我らに伝えたかった、つまり、事実、と受け止めるのも、それはちと早急ではないか?」
と清秀が言う。
「いや、事実なのかもしれぬ」
清正が重い口調で言う。
「憎き黒家の大河は、大将軍になったいまも、なる前も、憎らしい男ではあるが、卑怯な男ではなかった。そやつが言うのじゃ。悟られぬよう暗号として。そこまでしても、伝えたかったのじゃろう。しかし、それでこの盤上遊戯、我らにどうしろというのじゃ」
「父上、あと数分で、第二戦が始まってしまいます。ポーの件は、いかがいたしましょうか?」
清正は軍師の朝雲と、そして参謀の氷雨と、目を合わせる。ふたりは肯く。
「うむ。……済まぬがポー。いったん控えに回ってくれ。しかし有事の際には一番に出てもらうゆえ、気持ちを切らすでないぞ」
「はい」
正直、ポーは少し安心した。
槍の陣の配置を決めて、白家は盤上遊戯の第二戦へと向かう。
わたしは壊れやすいので、困難にあったとき足を踏み出すことは簡単にはできません。
心無い人に何と言われようとも、それでも自分のペースで歩いています。
第二戦に向けて歩き出した白家の戦士たち。わたしも勇ましくなりたいです。
どうなるのかと気になってくださっている方に、ありがとうございます。と言いたいです。
では、またお逢いしましょうね。




