第二十五話 盤上遊戯 ~知、そして力~
おでんのおいしい時期になってきましたね。
いや、おでんはフルシーズンおいしいですけど。
やっぱ冬でしょ。おでんは。
みなさんの、冬に食べたくなる「あれ」はなんですか?
お互い風邪などひかぬよう、あったかくして過ごしましょうね。
では、また。
温存を選んだ。
入れ替わりで豪山が前へ。
ジェンカの穴を埋めるべく、興梠将成が立つ。
黒家の侍大将だ。
ふたりが火花を散らす。
だが、次に戦ったのは豪山と将成でも、金剛の戦士とネースでもなく、プランタとウィルソンだった。
「さっきの風、けっこう頭に来たんだよね」
「頭に血が上った状態で戦っても、いいことはないよ」
「アドバイスかい? 本当に癇に障るやつだね。痛ぶり甲斐がありそうだ」
相手は風を使っての毒攻撃と聞いていたプランタは、一直線に突っ込んでくるウィルソンの後手に回ってしまった。
「ぼくが距離を置いて戦うと思っただろう。そう思ったときに、お前の負けは決まったんだ」
ウィルソンの二本の小刀に、致命傷とまではいかないものの、傷を負わされた。
息を継ぐ間も与えずに攻め立てるウィルソン。
防戦一方のプランタは剣を落とした。
「これで終わりだ」
ウィルソンが小刀を振り下ろす。
「ファイヤー・アロー」
プランタの放った魔法がウィルソンを射抜く。
すぐに剣を拾い、とどめを刺した。
「やった」
ポーは言った。
「ごめん、ポー。ぼくにもっと力があれば、離れた位置からでも付与できたのに」
ポーは最初、何を言っているのかわからなかった。
ファイヤー・アローはたしかにウィルソンを射抜いていた。
しかし、それだけでは彼の動きを完全に止めることはできなかったのだ。
プランタの剣がウィルソンを貫くと同時に、ウィルソンもプランタを刺していたのだ。
相打ちだ。
ふたりは重なるように倒れこみ、消えた。
これで白家はのこり九人。
黒家は残り八人。
しかし、白家はふたりの召喚者を倒している。
そして次に行動できるのは白家だ。
まず、プランタの付与の龍が使えなくなったため、ミーナの龍、歌で味方を強化し、栄の癒し手で金剛の戦士の精神が相手の言霊を跳ね返すようにする。
それでその確率は半分ほどに減少するのだ。
それでも四割強の確率で支配されてしまう。あとは神頼みだ。
金剛の戦士をネースにぶつける。
二メートル近い体躯で、とても素早い動きをする金剛の戦士。
後方に宙返りしてネースはかわす。
すぐさま言霊傀儡の虎を使う。
「傀儡となりて、我の命に従え」
言霊が紫の煙となって金剛の戦士を覆う。
煙が晴れたとき、金剛の戦士は傀儡になってしまうのか?
清正は固唾をのんだ。
霧が晴れてきて、白家と黒家の戦士たちや、天子様が見守る中、真っ先に声を上げたのはペイズだった。
「大将軍様、傀儡になってはおりません」
「よし、行け。金剛の戦士よ」
上段から大剣を振り下ろし、ネースを捉えると思った瞬間、ネースはポマティと入れ替わった。
盤上遊戯において一度だけ許される「入れ替わり」だ。
しかしペイズは事前にそういう規則もあると聞かされていたので、金剛の戦士も混乱することなく、ポマティを戦いの相手と認識した。
金剛の戦士はペイズの代わりとして戦っている。
彼は彼の意思で戦うが、ペイズの眼は同時に金剛の戦士の眼として戦況を見ることができ、思考も何割かは共有できるのだ。
ペイズは金剛の戦士に、ポマティの戦い方を教えた。
ただそれだけなのだが、さすがは特上の傭兵、構えを上段から中段に変えて、ポマティの手に触れられることなく戦った。
ポマティの顔に焦りの色が浮かぶ。
見た目通りの力と、見た目に反する速度で大剣を振るう金剛の戦士は、徐々にポマティを追い詰めた。
引いていくポマティ。
盤上遊戯では、戦いから「逃走」することも規則として許されている。
あるいは、と清正が思ったとき、大河が立ち上がり、言った。
「ポマティ、一度、逃げるか?」
「誰が!」
ポマティは激怒した。
着席する大河。
彼の目論見通りだ。
黒家も耳に描かれた魔法陣によって会話ができる。
にもかかわらずわざと戦士たちの面前で言えば、恥をかくのは必定。
それで、たとえ負けても次の戦士が有利になる手傷を負わせられればよいと考えたのだ。
真正面から距離を詰めるポマティは、金剛の戦士の胴を払う一撃を跳んでかわした。
かに見えた。
金剛の戦士の大剣は、ポマティの左足を捉えていたのだ。
これで決まったとみている者は思った。
しかし。
白家の召喚者の中で一番の実力者のプランタが
そうそうに盤上から去ることになりました。
次はペイズ(の雇った傭兵)の番です。
どんな展開になるのかを楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、またお逢いしましょうね。




