第二十四話 盤上遊戯 ~暴~
長らくお待たせいたしました。始まります、盤上遊戯。
戦いを書きたいと思って考えたこのストーリー。
ここまで来るのに結構な時間を要してしまいました。
わたしとしてはその必要があったわけですが、
みなさんとしては「もっと早く」って思われましたか?
もしよろしければ、感想をお聞かせいただきたいのです。
では、どうぞ。
6
石畳の上を歩く。
細く狭い通路に足音が響く。
鼓動が高鳴る。
高くから照らす太陽に手をかざし、白家の十二人は舞台の袖に現れる。
去年の勝者である黒家はそのあとに姿を現す。
東から白家。西から黒家。
二十四名の戦士たちが、会する。
盤上遊戯の行われる六十四のマスの周囲五メートルほど離れたところに壁があって、無人の観客席のその上、北側に、天子様のための観覧席がある。
絹の薄布があり、姿はぼんやりとしか確認できない。
が、たしかにいる。
貴族たちがその周りを囲んでいる。
立ち上がった天子様に一礼をし、あらためて敵ひとりひとりの顔を見る。
「か、勝つ……んだよな? おれたち」
ボンザの余裕も吹き飛ばす黒家の戦士たちの面構えに、思わず横にいたペイズに尋ねる。
「ぼくもちょっと、武者震い」
ペイズが答える。
「喧嘩は顔でするもんじゃないよ。ぼくたちのほうが強いって。心配いらないさ」
プランタが言う。
ミーナは意外と落ち着いていて、風貌から、
きっとあの人は誰々だと思うけど、合ってますか?
と同じ後衛の栄と光に訊いていた。
すぐにそうする必要はないとわかることになる。
観覧席の天子様に紹介するように、白家、黒家の戦士たちがひとりひとり名を呼ばれたのだ。
黒家の大将軍は、初めて見るポーたち五人に目をぎょろりとさせた。
声は聞こえなかったが、口の動かし方で
向こうにも召喚者がいるのか。
と言ったのがポーにはわかった。
双方の大将と軍師(白家は参謀の氷雨)が一つ高くなった席に腰を下ろす。
耳に描いた魔法陣の力で、ポーたちは離れていても清正の声が聞こえるようになっていて、その指示に従ってマスを移動し、戦うのだ。
ポーたちの声も、清正には届くようになっている。
ポーは湧き上がってくる弱気の虫を追い払うように、ばちんばちんばちんと三度、両手で頬を叩いた。
両軍の戦士が舞台に立ち、盤上遊戯が、始まる。
「ペイズ、傭兵を雇え」
「はい。出でよ」
ずっしりと重みのある金塊が出現する。
「傭兵を雇います」
ペイズの出した金塊で雇える傭兵の一覧から、清正は金剛の戦士を選んだ。
ペイズの体が盤外に出て、ペイズのいた場所に傭兵が現れる。
身の丈二メートルはあろうかという長身に、皮膚の下にはちきれんばかりの筋肉を持ち、両手持ちの大剣を軽々と振り回す、特上の傭兵だ。
黒家の大将が思わず声を上げ、清正はニヤリとする。
次は後手、黒家の番だ。
言霊傀儡のネースが、盤の北側、金剛の戦士の前に立ち、明らかに狙っている。
清正は栄に準備は怠るなと囁き、ボンザを南側に、獣人のジェンカの真向かいに動かした。
黒家の大将、黒大河は鼻息も荒く、挑発に乗った。
「ジェンカを前へ。決戦じゃ」
ボンザとジェンカの戦いだ。
ジェンカは己を熊と化し、肉体を武器として戦う。
一方のボンザは龍の通り、剣を構えた。
ジェンカは一気に距離を詰めると、右手を振り下ろす。
剣で受けるボンザ。重いと思った。
いったん引こうと重心を後ろにすると、何かに当たった。
振り返るとプランタがいた。
「ボンザ、ぼくの付与の力を使うよ」
ボンザの龍である剣の力が増幅した。
剣を振るって戦うときに何倍にもなるボンザの強さが、さらに強化されたのだ。
ジェンカが振り下ろした左手の一撃を、またボンザは剣で受けた。
今度の一撃の軽さに、ボンザの口元は緩んだ。
黒家の大将もただ見ているだけではない。
黒家の、虎ではないが歌の力を持つ小島叶が歌で黒家の全員の力の強化を図る。
ミーナの歌には及ばないがまた少し重くなる。
戦いの補助はできるが、戦いが終わるまで次の戦いは行われない。
それが盤上遊戯の規則だ。
ボンザの剣が、ジェンカの腹を浅く切った。
しかし、血は出ない。
ボンザの耳元で、清正の声がする。
「いまの一撃でジェンカの体力の三分の一を減らしたぞ。こちらもミーナに歌ってもらうゆえ、次で決める覚悟で戦うのじゃ」
鋭い爪で攻めるジェンカ。
見事な剣捌きで戦うボンザ。ミーナが歌い、黒家のウィルソンがなんらかの毒を乗せて送った風を、プランタが風の魔法、ヴァトス・カマーでかき消す。
またもやのボンザの斬撃は、黒家の癒し手、三屋葉と新田織子が癒した。
ならば、とボンザは心臓を突き刺した。
崩れ落ちるジェンカがボンザに覆いかぶさり、何かつぶやいた。
ジェンカは消えた。
盤上遊戯では、自軍が残り四人になるまでは、敵をふたり倒すと舞台から去らねばならない。
残り四人になったら、制限はなくなる。
ここでボンザを温存し制限のなくなる四人になるまで備えるか、否か。
清正は氷雨に意見を求めた。
ポーたちは図書館や授業で、十度目の盤上遊戯は白家が勝つと
知っています。でもそれはポーたちの世界での話。
もしもここがパラレル・ワールドだったら。歴史が変わってしまったら。
どうなるのでしょうか? どうなるのでしょうね。
では、またお逢いしましょうね。




