第二十三話 ポーと召喚者。
十二月になっても比較的に暖かい日が続いていましたが、
わたしは寝るときに毛布を一枚足そうかと、今朝、思いました。
やっぱり冬ですね。お互い風邪などひかぬように気を付けましょうね。
では、どうぞ。
しかし、稽古に使った時間は一時間ほどで、もう三時間は黒家の召喚者対策に使った。
二年続けての敗北の大きな要因、それが虎を扱う黒家の召喚者たちだ。
盤上遊戯は三番勝負。
つまり四連敗もしている計算になる。
その強さは、当然、いやというほど身に染みているのだ。
二年続けて召喚されたということは、今年もまた召喚されるのだと如実に物語っている。
朝雲が説明する。
言霊傀儡のネース。
言葉で人の心を支配し、その名の通り傀儡として扱う。
つまり同士討ちをさせるのです。
癒し手のポマティ。
本来、癒し手は傷を癒す後衛の者。
しかしポマティは前衛で戦い、過剰に癒すことで我らの体を内部から崩壊させるのです。
獣人のジェンカ。
自らの体に熊の力を発現させて、熊と化し戦うのです。
その力は白家一の剛力である豪山でも敵いません。
風使いのウィルソン。
盤上に風を吹かせて、睡眠効果や、毒の作用のある霧を我らに送り、行動力を削いできます。
最後に、心眼のギン。
こやつの額に第三の眼が開くと、もう我らにはどうしようもありません。
その剣技の凄まじさたるや、悔しくも我らの誰にも止められないのです。
ポーは気圧され、ごくりと唾をのんだ。
対照的に、ボンザは余裕然としていた。
朝雲は続ける。
召喚者以外の黒家の者も手練れではあるのですが、勝てない相手ではないので説明はあとに。先に召喚者の対処方法を、しっかり話し合わないといけないのです。
その心眼のギンってのは、おれに戦わせてください。
そうボンザが名乗りを上げたのだが、清正は首を縦には振らなかった。
「悪いがボンザよ。そやつの相手は清秀と決まっている。許せ」
清正を見て、清秀を見て、また清正を見て、ボンザはよく呑み込めぬまま、肯いた。
その召喚者対策の最後は、しかし決して暗いものではなかった。
ポーたち五人の白家側の召喚者たちは考えた。
無論、白家の軍師である朝雲を筆頭に、白家の者たちも考えた。
黒家側の召喚者の能力も、伝え聞いただけで恐ろしい。
しかし、四戦戦って、二年間考えて、攻略法と思えるものが朝雲には閃いていたのだ。
それを進言した。
ポーたちも、プランタが、
例えば風使いには風で対抗するというのはどうでしょう?
ぼくは風の魔法を使えるんです。
どこまで通用するかはわかりませんが。
と発言すると、清正の顔はぱっと明るくなった。
黒家側の五人の召喚者の能力が、これまでのような脅威ではなくなるのではないかと、白家の面々は期待を持った。
話が進んでどんどんと意見が出て、ポーの血色はみるみるよくなった。
話が煮詰まってくると、今年は勝てるぞ、と清正が言い、ぐいと茶をひと飲みにした。
そう、今年は勝てるんだ。
ボンザは心の内で思った。
図書館で調べて、おれたちはもう結果を知ってるんだ。
それはポーたちの間で秘密だと固く戒めあっていたので口にこそしなかったが、ボンザは口笛でも吹いたい気分だった。
話し合いが終わったとき、鎧の手直しを終えた職人が来て、ふたたびポーたちは鎧を身に着けた。
今度は体によくなじみ、職人の腕を賛辞した。
夕餉を取り、次は十日後と約束をし、時を渡る。
約束の日にやってきて稽古と打ち合わせをし、今度は夕餉の前に時を渡る。
三日後、ホムラ国にて神主の必勝祈願の祝詞を興味深く思いながら聞いて、儀式が終わると、ポーたちは清秀と話した。
「いよいよ明日だね」
ペイズが言う。笑顔だ。
「うむ。ペイズは怖くはないのか?」
「うん。そりゃちょっとは緊張はするけど、相手は同じ人間でしょ。対策だってばっちりだし、怖くはないよ」
「その対策だって、実際に戦ってみるとまったく通用せぬことだってあるのだぞ。我は去年の盤上遊戯で奴らの強さを目の当たりにしたのじゃ。油断は禁物じゃ」
「魔物と戦うときの心得を、忘れたの? ペイズ」
プランタが言う。
「自分より弱いとわかっている魔物でも、息の根を止めるまで細心の注意を払うべし、だね」
「そう。ましてや相手は初めて戦う虎を持つ人間なんだ。気を付けないと」
「わかった。ぼくが間違ってたよ」
「我はな」
と清秀は話し始めた。
「去年の盤上遊戯でギンに手も足も出なかったのじゃ。あのような屈辱は初めてじゃ。自分にはらわたが煮えくり返る。この一年、あやつの顔を忘れることはなかった。なんとしてでも勝ってみせる」
清秀がこんなにも感情を露にするのは初めてのことなので、五人はその意志の強さを知った。
自然、気が引き締まった。
最初に立てた作戦通りにポーは中衛を任されることになった。
結局、了の龍は明らかにならないままなのだが。
ポーたち五人も、白家の者たちも、それぞれの思いを胸に秘めて、明日を迎えるのだ。
*
さあ、いよいよ盤上遊戯の幕開けでございます。
ポーたち五人は結果を知っています。
でもそれが正しいと、誰が言えるのでしょう。
もしもこのホムラ国が並行世界のホムラ国であったなら、どうでしょう。
石橋を歩いていたつもりが細い一本の綱に変わっていた、というような危うき事態になるとは思われませんか?
結果を知っているという事実が慢心を生み、敗北し、歴史が変わる可能性があるとは、思われませんか?
わたくしは白家に仕える語り部。
敗北などとは考えとうもございません。
鬼が出るか蛇が出るか。
それはまだ気の早い言葉でございましたでしょうか。
ただ勝利を祈り、手を合わせるのみでございます。
とうとう黒家の、謎に包まれていた召喚者たちが、能力だけですが
明らかになりました。そして、物語は終盤へと向かっていきます。
盤上遊戯までのフリが長かったですか? どう思われましたか?
やっぱりわたしは、読者であるみなさんの声が聴きたいのです。
つまらないならつまらないでもいいです。おきかせください。
では、またお逢いしましょうね。




