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第二話 ポーと学校。

今回はポーの学校での一幕です。

騎士や魔法使いの卵たちの平穏な日常です。


では、どうぞ。

 ミーナが言ったような幸せな日々だったのかはわからないが、とうとうくだんの小説の発売日になった。

 話を聞いたら、クラスのほとんどが午前零時に本を買うつもりだと知り、当初の九時ではなく、八時に集合し書店に並ぶよう予定を変更した。


 みな、授業は上の空だった。

 最初は苦々しげだった教師も


「みなさん、そんなに小説のことが頭から離れませんか? なんだかもうまったく授業の内容が頭に入っていないようですね」


 と白旗を上げた。


「だって先生、待ちに待った新刊の発売日なんですよ」


 クラスのひとりが言うと、みな何度もうなずく。


「では、こういうのはどうでしょう。今日、この時間は単語の書き取りとします。次の時間でその書き取りの小テストをし、みなさんが満点を取ったら残りの時間は自習にして、その代わり、来週一週間は宿題を二倍にする、というのは」


 みなの目が輝いた。

 よくよく考えれば宿題二倍が一週間は痛手だとわかるはずだし、結局は単語の書き取りという授業を受けることになるわけで、そのうえみんなが満点というかなりのハードルを置かれたわけだが、残りの時間は自習、つまり授業がなくなるという目先のえさに、みなまんまと喰らいついてしまったのだ。


「では、プリントを配ります。書き取りを始めてください」


 一斉にペンを走らせるクラスの中で、ポーだけが暗い顔をしていた。


 満点なんて、取れっこない。

 ぼくだけ満点が取れなかったら、いったいどうなっちゃうんだろう。


 おぞましい記憶がよみがえって、ポーの手が震える。


「先生。グループ学習をしては、いけませんか?」


 プランタが挙手して言った。

 教師は優しく許可した。

 プランタとミーナがポーの隣に、ペイズはボンザの隣に座り、書き取りを始めた。

 それを見て、クラス中でも仲のよい者同士が肩を寄せ合った。

 その光景を見て、教師は目を細めた。


 結果、満点を取れなかったのは十八人中五人いた。

 休み時間を挟んでもう一度、同じ問題のテストをしますと教師が言うと、ポーは安心した。

 帰ってきた答案用紙のバツ印の答えをおさらいして、次こそは、と奮い立った。

 

 二度目の採点後、祈るような気持ちでポーは答案用紙を受け取った。

 固くつむった目をカッと開いた。

 振り向いて万歳をすると、プランタたちは拳を握って答えた。


「全員が満点を取りました。約束通り残りの授業は自習にします。ただひとつ、もうひとつだけ、授業らしいことをさせてください。いまのテストの中に『ハク』という単語が出てきましたね。『ハク』とは、五百年以上も前のホムラ国という国の将軍の苗字で、我々の言葉でいうと『白』です」

「ミーナちゃんの苗字」

 と驚きの声が上がる。

「そう、ミーナさんの苗字の『ホワイトバタフライ』のホワイト、これと同じなんですねえ。不思議な偶然ですね」

「ミーナちゃん、もしかしたらお姫様かもしれないんだ」

 とまた声が上がる。

「そうかもしれませんね。その可能性は、誰も完全には否定はできませんからね」


 クラスが少し沸いた。

 ミーナは少し困った顔で、目線だけを下げている。


「まあまあ、ホワイトって苗字につく人すべてがホムラ国の将軍の血を引いているわけはないんだから」


 ペイズが空気の盛り上がりを抑えた。

 それでもそうそう抑えきれないのがこの年頃だ。

 紅潮した顔でひそひそと話すのは、やはり女子が多かった。

 教師は手慣れた声色で、注意を自分に向けた。


「ちなみに、来週の世界史の授業で、ここ、やります。ではみなさん、小説を読むのはいいですけど、夜更かしをしたせいで授業中に居眠りなんてしたら、罰を受けてもらいますからね。では」


 教師の言葉使いは丁寧ではあったが、罰を与えるときは容赦ようしゃがないことをみな知っている。

 みな、笑顔がひきつった。



人の心を思いやれる人に、わたしはなりたいです。

みなさんはどうですか? 


では、またお逢いしましょうね。

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