第十八話 ポーと友情。
おはようございます。お読みくださってありがとうございます。
でも、こんなことは失礼かもしれませんが、もっと多くの人に
読んでいただきたいのです。一番は面白い小説を書くことでしょうが、
わたし以外の人たちは読者を増やすためにどんな努力をしているのでしょうか?
ぜひ教えてください。よろしくお願いいたします。
今回は人を思う心っていいねっていうお話です。
では、どうぞ。
宿題二倍にはみな思いのほか苦しめられたので、地獄の一週間が終わると、みな足かせが取れたような気分になった。
次の一週間の宿題が少なく感じられ、ポーたちは小説を読む時間が長くとれたので、なんだか教師がいい人に見えてきたくらいだ。
教師の思惑通りに事が運んだ証拠だ。
ポーたちが小説を読み終えたのは、購入から約二週間後の日曜日だった。
最後の盛り上がりの怒涛の展開と、結末の素晴らしさからくる読後感に、みなしばらくは口も利けなかった。
沈黙の中、プランタが尋ねる。
「みんな、最後まで読み終えた?」
うん、と返事が来る。
そこからは互いの感想を気兼ねなく言い合った。
共通しているのは、興奮しているという点だ。
読者にここまで愛されるというのは、書き手にとってはこの上ない喜びだろう。
世界中で何万、何十万、何百万といるこのような少年少女が、大人たちが、天気のよい日曜日の昼下がりに、こうして語り合っているのだ。
「まさかあいつが悪者だったとはな。前にミーナちゃんが言ってたな。聞いて『そうかもしれない』とは思ったけど、やっぱ実際にそうなると、驚いたな。あのどんでん返しが、おれには予想できなかったよ。やっぱ面白いな。最高だな」
ボンザは手放しで褒めた。
それは皆の気持ちを代弁するものでもあった。
みなで集まって同じ速度で小説を読むのはこれで終わりになった。
そのあとはそれぞれが自分の調子で、二週目を読んだ。
一週目では気付けなかった伏線の張られ方に気が付いて、また新しい面白さを発見した。
そうしているうちに、ホムラ国に行く約束の日まで、あと一週間になった。
ポーたちはまた、ペイズの家にいる。
なんだかんだでみなが集まるときはペイズの家になることが多い。
いつもいつもお菓子をごちそうになったりして悪いからと、ポーの母親はポーに菓子折りを持たせた。
ペイズの母親がいたく礼を言うので、ポーは逆に軽く恐縮してしまった。
ペイズの部屋で、指輪を確認させてくれとボンザが言った。
ペイズはうちには金庫がある、と言ってはいたが、実際には家の金庫ではなく、小物を入れておくには便利なお菓子の空箱に仕舞っていた。
ジェイア大陸から輸入された、高級なチョコレートの空箱だ。
「あと一週間だな」
ボンザは指輪を窓から差し込む太陽の光に照らして、美しい白金の輝きを眺めている。
みなも意味もなく、指輪を手に取って指に嵌めて眺めたりしている。
と、指輪の穴を通して見えるものがある。
小さかったそれは、だんだんと大きくなってくる。
なんだ?
とボンザは首をかしげて見る。
鳥だ、と気が付いたときには窓から侵入し、一声けたたましく鳴いた。
烏だ。
その次にはボンザの指から指輪を咥えて飛んで行ってしまったのだ。
「あ、待て」
「ボンザの指輪、持ってっちゃった」
ペイズが驚いているその横で、プランタの判断は速かった。
「ボンザ、変化の呪文で隼に変えるから、飛んで追いかけて」
「変化の呪文なんて、使えるの!」
ポーが驚く。
「同時にはふたりしか無理だけどね」
「じゃあ、ぼくにもかけてよ」
ペイズが言って、ふたりは隼になった。
「この呪文は三十分も持たない。そしてあのカラスがどこに飛んで行ったのかがわからない以上、安易に町を探し回ることもできない。だからここで待ってる。早く後を追って、取り返せなくても場所を知らせに帰ってきてね」
「クエー」
そう鳴いてから、二羽の隼は、さっそうと飛んで行った。
飛び方は本能が教えてくれる。
ボンザとペイズは風を切って烏を追った。
(いた。あれだよ、あいつだよ。ボンザ、森のほうに行くね)
(ああ。巣に行くつもりなんだろ。その前に追いつけるさ)
烏の飛行速度は速くても時速約六〇キロ。
平均すると時速二〇キロくらいだ。
それに対して隼は、水平飛行時では最高時速一一〇から一三〇キロ。
平均でも七〇から九〇キロ。
追いつけないわけがない。
(行くぞ)
とボンザは速度を上げる。
ペイズもついていく。
自分を追う存在に気付いて速度を上げる烏。
だが後の祭りだ。
(返せ。泥棒め)
ボンザは体当たりをした。
それがいけなかった。
烏の口から、ポロリ、指輪は落ちて行ってしまった。
(指輪!)
ペイズが急降下で取りに行く。
しかし、ペイズが咥えるより、川に落ちるほうが速かった。
ボンザが来て、ペイズは事情を話しに家に帰った。
二十分もしないうちに魔法を解いてもらったペイズや、ポーたちがやってきた。
プランタがボンザの魔法も解く。
「この川に落ちたんだって? とにかく探そう」
プランタは言うが早く、靴と靴下を脱いでズボンの裾をまくる。
五人は川に入った。
指輪が落ちたおおよその場所はわかっている。
膝下十センチまで水につかりながら、五人は手分けして手で探った。
川の透明度は高く、底がしっかりと見えている。
見つからないはずがない。
なのに、日が暮れかけてきても、見つからない。
「……もういいよ、みんな。あとはおれひとりで探すから。家に帰らないと父ちゃん母ちゃんに怒られっちまうだろ」
「何言ってんだよ、ボンザ。ぼくたちは友達だろ。友達が困ってるのに、ほっとけるわけがないじゃないか」
「ポー」
「ぼくがファイヤー・ボールで灯りをつけるから、もう少し探してみようよ。大丈夫、きっと見つかるさ」
「プランタ」
「弱気になるなんて、珍しいじゃん」
「ペイズ」
「川の流れで、石の下にでも入っちゃったのよ。心配しないで。見つけましょう」
「ミーナちゃん。……ありがとう、みんな。おれも頑張るよ」
指輪の落下地点を一番近くで見たのはペイズだ。
石の下に、というミーナの発言を聞いて、もしかしたらと石を持ち上げてみた。
「あった! あったよ、指輪。あった」
ペイズは指輪を拾い、高々と掲げる。
四人は、水が跳ねるのも構わずに集まって、喜んで、安堵して、涙ぐんだ。
ポーが裸足で家に帰ると、両親は怒るより先に心配した。
でもポーが理由を話すと、もう夕食の準備はできているから、手と足を洗ってきなさいと微笑んだ。
ポーたち五人はみな、それぞれの家で、満ち足りた気持ちで夕食を食べた。
*
この逸話からもわかるように、五人は少年少女、つまりはまだまだ子どもなのでございます。
平穏な日常を、しかしホムラ国の命運を左右するという重責を背負い、その重さに気付かぬまま、生活しているのでございます。
そうそう、ミーナの背負っているものはとりわけ重く、それを、すべてではないにしろ本人も知っているからこそ、よけいに悲壮に感じられるのです。
さあ、三度目のホムラ国への時渡りが迫ってきています。
五人は何を知り、何を成すのか?
あなた様の目にはどのように映るのでしょうか。
わたくしは語り部。
ただありのままに語るのみでございます。
いかがでしたか? わたしとしては、「優しい」話にしたかったのですが、
なっていましたか? なっていたという感想をもらえたら嬉しいです。
もらえなかったら、もらえるように努力します。頑張ります。
では、またお逢いしましょうね。




