第十六話 ポーと日常。
魔法が使えるからといって、魔物がいる世界だからといって、
そうそうなにかアクションが起こるというわけではないと思うのです。
今回はポーたちの平穏な日々を書いてみました。
それでもポーたちは、一喜一憂、というと大袈裟かもしれませんが、
心が動くのです。
では、どうぞ。
不満の声は当然のように出たが、みな苦笑いをして受け入れた。
教師の見事な勝利だ。
その日、先週に教師が触れた通り、世界史の授業で白家と黒家の争いの歴史が取り上げられた。
長い戦いの末、やはり白家が勝利すると習った。
学校では盤上遊戯ではなく、御前試合と教えられた。
教師の冗談めかした脅しが効いたのか、居眠りをする生徒はひとりもいなかった。
ぼくたちが、おれたちが、わたしたちが出るんだよねと、五人が笑いをこらえてした目配せには、誰も気が付かない。
授業では、白清正、白清秀のほか、ポーたちも聞かされていなかった、白家と黒家の最初の戦で大将を務めた白頼信についても取り上げられたのだが、深く掘り下げられはしなかった。
みなはなんとも思わなかったようだが、五人はそこが詳しく知りたいのに、と歯がゆい思いをした。
学校内では、とうとう話す機会がないまま下校になった。
だが、学校で話すのはいつ誰に何の拍子に耳に入ってしまうかもわからないので、それでよかったのかもしれない。
いつもの帰り道、五人は公園で宿題を終わらせてから話をした。
「指輪ってどうした?」
とプランタが口火を切った。
「私は持ってきた」
とミーナが答えると
「ぼくも」
「おれも」
とポケットから指輪を取り出した。
白金色に光る、時の指輪を。
「家に置いとくわけにもいかないから持ってきたけどよう、学校で失くしやしないかってひやひやしたぜ」
ボンザが言った。
「あ、そうだ。見ててみて。出でよ」
ペイズが手を差し出した。
でも、金塊は出てはこない。
「ね。駄目なんだ」
「つまり、ぼくたちが龍を発現させられるのは、向こうの世界でだけってことか」
プランタが言った。
「大金持ちになれると思ったのになあ」
本心か冗談か、ペイズはため息をついた。
「一か月後にホムラ国に行くまでの間に、ぼくたちにできることって、何かなあ?」
ポーの発言に、みなは頭を悩ませた。
たしかにそうだ。
一か月は長い。
それまでに何かできることがあるはずだ。
なのに龍を使えないのなら、ボンザの剣とミーナの歌はまだ稽古のしようがあるが、プランタとペイズ、そして龍の使い方さえ明らかになってはいないポーは、どうすればよいのか?
小鳥が二羽、近くの木にとまって、さえずった。
あんまり難しく考えるなよと言わんばかりに。
ポーたちは考えた。
でも、考えても考えても答えが出ないときは、最後には何も考えていないのと同じような状況になる。
ボンザが頭から煙を吹かせて、一番に降参した。
「だってよう、どうしたらいいかなんて、わかりっこないだろ」
「たしかにそうだね」
とペイズが両手を頭の後ろで組んで、賛同した。
小鳥のさえずりは、変わらずに聞こえている。
プランタはそれに、いまやっと気が付いたようだ。
とても平和でかつ可愛らしいその声に、自然と笑みがこぼれる。
それがみなに伝染した。
空気が軽くなった。
小鳥はまたさえずる。
つがいなのか、会話をするように。
「じゃあ、宿題も終わったことだし、何して遊ぼうか?」
「今日はさ、遊ぶっていうより本の続きを読みたいな。またみんなで集まってさ」
「じゃあ、またぼくんちに集まろうよ。ケーキはないけど、お菓子なら、あるよ」
プランタが言って、ポーが答えて、ペイズが誘う。
みなその案に乗った。
いったん家に帰って例の小説を手提げバッグに入れて、ペイズの家へと集まってある程度読み進めてから、小説の感想を和気あいあいと語り合った。
寝て、起きて、学校へ行って、宿題をやって、遊んで(ここのところは集まって小説を読んでいるので、一般的に連想される「遊び」とは違うのだが)、家に帰って家族と和やかな時を過ごし、また寝る。
そして朝。
一日、一日、そうやって過ごしているうちに、長いと思っていた一か月の四分の一ほどが過ぎていた。
五人はネタバレを防ぐため、毎日、今日はここまで、とページ数を示し合わせて読んでいた。
だから小説を読み終えたというクラスメートには、まだどこどこまでしか読んでないから、中身は言わないでと五人で同時に言った。
嫌味ではなく心から、仲がいいねと感心された。
だから、こんな以心伝心も起こせるのだ。
「ボンザ、なんだい、この指輪」
心臓が凍り付いた。
ボンザの留守中にボンザの部屋を掃除した母親に、指輪を見つけられてしまったのだ。
泡を喰ったが、正直に話すわけにもいかない。
混乱したボンザは、とっさに嘘をついた。
「それ、ペイズにもらったんだよ。ペイズがおれとプランタとポーとミーナちゃんに、友情の証って。それ、高そう人見えるけど、おもちゃなんだって。五人の仲間の証なんだ。おもちゃだけど、大切なやつだから、捨てたりしないでよ」
「本当にペイズくんからもらったんだね」
「うん。ほんと」
「じゃあ、いまからペイズくんちに行って、確認してもいいかい?」
「うん。いいよ」
まずいことになったと思ったが、母親の後ろについて、歩いた。
何とかしてごまかさないといけないが、上手い方法が思いつかない。
そうしているうちに、ペイズの家についてしまった。
ボンザは困ったときの神頼みをした。
十歳の子どもにとって、親に叱られる、というのは
とても怖いことです。ボンザには恨まれるかもしれませんが、
作者として今回の最後に、ボンザにその役をふりました。
ごめんね、ボンザ。
では、またお逢いしましょうね。




