第十四話 ミーナの秘密 其の一
早いものでもう中盤に入っています。
はい。前回に書き忘れてしまいました。すみません。
それから、投稿する時間なんですけど、毎朝同じ時間がいいですか?
今日はちょっと寝坊してしまって、何とか7時20分台に間に合わせましたけど、
もしも30分、40分になってしまったら「今日は休みか」と
読むのをおやめになられてしまったらショックなので……。
みなさんの声をお聞かせいただきたいのです。
では、どうぞ。
*
五人の少年少女は、無事に元の世界に戻ることができたのでございます。
ホムラ国の命運を左右する「召喚者」として。
次に時を渡るのは一か月後と相成ります。
白家の勝利とたしかにございました。
白家に仕える語り部として、わたくしも安心いたしました。
恥ずかしくも、早く時が過ぎぬものかと、童のようなことも思ってしまうのでございます。
しかし、五人の中に、思い詰めた表情の者がひとりだけ、いるのでございます。
はてさて、その者はいったい、何を思い詰めているのやら。
*
「ただいま」
家に帰ると、母親は料理をしていた。
「お帰り。いま、つくり始めたところだから、待ってね。あと三十分はかかるから。あ、小説はどこまで読んだの? 続きを読んでいてもいいわよ。昨日のうちに宿題を終わらせたご褒美よ」
「ありがとう」
本当は訊きたいことがあるのだけど、料理中にする話でもないし、いまはやめよう。
自室で記憶を思い返していると、父親が帰ってきたことが声でわかった。
どうやら、母親に頼まれた、切らしてしまった調味料を買ってきたらしい。
三人で夕食を食べた。
食器洗いを手伝うのは毎日のことだ。
自分が召喚者であることを知られずに白家について訊くためには。
そんなことを考えながら皿を洗った。
そうして家事の手伝いをし、順々に風呂に入り、眠りにつくまでの家族団らんの時間になり、その者は口を開いた。
「ねえ、パパ、ママ」
4
彼女の名はミーナ。
ミーナ・ホワイトバタフライ。
グッドラック・アイランドではもちろん、トゥホーク島全土を範囲に入れても「ホワイトバタフライ」の苗字を持つものはミーナの家族しか、いない。
ちょうど「勇ありし者の戦い」の終結後にその名が生まれ、ミーナの両親で第二十代目になる。
生まれた子が男子なら妻をめとり、もしも女子だったなら相手を婿養子としてホワイトバタフライの名と血を絶やさないようにしてきた。
なぜそうする必要があったのか?
男子は満十歳になったとき、女子は初潮を迎えたときに、その理由を知らされる。
ある名前とともに。
ミーナもすでに知らされている。
それはホワイトバタフライ家にとって、絶対に他言してはいけない秘密であった。
だからこれは、明かすべきではない話。
決して口外しないでください。
学校で、女子だけが集められて、生理のことを聞かされた。
怖がる人も、いけないことのように思う人もクラスにはいたが、ミーナは事前に母親から好きな人の赤ちゃんを産むために必要な、とても大事なことなのよ、男の子には内緒にしたほうがいいかもしれないけど、恥ずかしいことなんかじゃないのよ、と聞かされていたので、そんなに衝撃は受けなかった。
だから初潮が来たときには、初めてファイヤー・クロウができたときのように、母親に報告した。
母親は笑顔で、おめでとう、と言った。
「でも男の子には内緒にしたほうがいいんでしょ。じゃあ、パパには内緒でしょ?」
「ううん。パパは特別。教えてもいい人。パパ、びっくりして飛び上がるわよ」
そうしてふたりして笑いあった。
果たして、父親は飛び上がりこそしなかったものの、肩をびくっと震わせ、町一番のレストランで食事をしようと言った。
ミーナの家では年に三度はないことで、今度はミーナが驚く番になった。
食事を終え帰宅し風呂から出ると、大事な話がある、と父親が切り出した。
そして言った。
「これはね、我がホワイトバタフライ家に伝わるとても大事な話なんだ。だからほかの人には絶対に言っちゃいけないよ。実はね、ミーナ。我がホワイトバタフライ家の祖先は、東の果てにあるホムラ国という国の、将軍様なんだ」えっとミーナは驚いた。父親は続けた。「名を『白』と言って、我々の言葉で言うところの『ホワイト』なんだ。白家の将軍様が、船に乗ってこの国にたどり着き、たとえホムラ国が滅ぼされようとも白家の血が残るようにと、わたしたちのご先祖様を設けなさった。名前に『ホワイト』と残して。パパが第二十代目の『ホワイトバタフライ』、つまりホムラ国の大将軍、『白』の血を引く正統な子孫なんだ。私たちのご先祖様の名前を教えておくよ」
そう言って父親はある名前を告げた。
ミーナは話の規模の大きさに目を丸くした。
理解の範疇を超すことはなかったものの、からかっているわけでもない父親の目をじっと見て、聞いた。
「そして、ミーナ。ミーナが初潮を迎えたことによって、ミーナがいまから、第二十一代目の『ホワイトバタフライ』になるんだ」
ミーナはもはや言葉を失っていた。
そんなミーナを見て、父親は笑顔になった。
だからミーナは、
なあんて、冗談だよ。
とでも言うのかと思ったが、違った。
「でもね、ミーナ。二百年前のご先祖様、白家の大将軍は殺されてしまったんだ。なんでだと思う?」
「……わからないわ」
「表向きは病死ってことになってるんだ。でもね、本当の原因は、五百年前の盤上遊戯にあったんだ」
バンジョーユウギ?
何だろう?
ミーナは思ったが、思っただけで口にはしなかった。
「別名を御前試合と言ってね、そこで白家は敵である黒家と戦ったんだ。決着が付いたのは十度目と言い伝えられている。その十度目に、問題があったらしいんだ」
十度目に問題。
わけがわからないままではあったが、重要そうな言葉を反復して記憶しようとした。
「なぜ『らしい』なのか。問題の盤上遊戯が五百年前で、白家が大将軍じゃなくなったのが二百年前。そこに三百年もの時差がある。そのうえ、グッドラック・アイランドとホムラ国には船で五か月以上の距離がある。手紙で知らせようにもジェイア大陸みたいに定期便があるわけじゃない。送りようがないんだ。パパたちのご先祖様が情報を得るには、往復で一年近い年月をかけてホムラ国に行くしかないんだ。もちろん、そう何度も行けるわけがないし、あまり頻繁に行くわけにもいかない。白家とホワイトバタフライ家のつながりが、ばれたらいけないからね。ばれたらいけないから、ご先祖様は情報を文字として残すこともしなかった。情報はすべて口伝で後世に残したんだ。
で、十度目の盤上遊戯でどんな問題があったのか。白家は勝ったと聞いている。でも、勝ったのは勝ったんだけど、敵の親玉がどうにかして姿を消してしまったらしいんだ。逃げたのでも、隠れたのでもなく、消えたんだそうだ。みんなの見ている前でね。詳しいことは口伝でも伝えられていない。だからパパにもわからない。ただ、消えたそうだ。
でも、敵の親玉は死んだわけじゃなかった。どうしてかはわからないけど、三百年後の世界に、姿を現したらしい。もちろん白家の人たちだって馬鹿じゃない。三百年前に起こったことを、きちんと伝えていた。いつかまた我々の前に現れて厄災をもたらすかもしれないってね。それでも、大将軍は、殺されてしまったんだ。でも、殺さなくたって白家は大政奉還をして将軍職を辞すると決めたあとだったんだ。なにも殺さなくても……。それで、わたしたちホワイトバタフライ家にも、いつ被害が及ぶかわからないでしょ。だから子孫であること、白家の生き残りであることは一層、絶対に誰にも言っちゃいけないことになったんだ。私たちだけの秘密なんだ。わかったかい?」
「うん。わたし、誰にも言わない」
ミーナは心から言った。
父親は母親と顔を合わせて微笑んで、これも大事なことだよ、と言った。
「『ホワイトバタフライ』には、『ホワイトバタフライ』だけの秘密の名前があるんだ。それはね」
ミーナの苗字のホワイトバタフライにはこういう意味があったのです。
わたしとしては「これで驚くだろう」と思った伏線では、もちろんありません。
でも人はみんな自分が主役の人生を歩いているのです。
ミーナにはミーナのドラマがあると、そういう意味です。
言われなくてもご理解いただけていますか? 野暮ですみません。
では、またお逢いしましょうね。




