第十三話 ポーと図書館。
ホムラ国から帰ってきた五人は次にどこに向かうのか?
って答えは出てますね。そうです、図書館に行くのです。
私は町の図書館に小学生の時以来に行ったとき、
こんな狭かったっけ? と驚いた記憶があります。
縮小されたのか、子どもだったから広く感じたのか……。
あるあるですね。
では、どうぞ。
月の出ていたホムラ国から、太陽の出ているグッドラック・アイランドへ。
窓から差し込む光に、当然、五人の目は眩む。
ペイズは二時を告げる大時計の鐘を待って、懐中時計の時刻を合わせた。
「あのよう」
とボンザが神妙な顔をした。
「これから町の図書館に行って、白家のこと、調べてみないか」
「それ、いい考えだね」
プランタが賛成して、三人も同意した。
さっそくと、五人はペイズの家を出る。
図書館に行けば、すぐに情報を得られるだろうと高をくくっていた五人だったが、ホムラ国について書かれた文献は、簡単には見つからなかった。
「ホムラ国って、パラレル・ワールドだったのかなあ?」
「そんなことはないさ。異文化を紹介する雑誌にも載ってるくらいだぞ。探せばあるよ、絶対に」
弱気なペイズに、ボンザが力を込めて言った。
「これ、そうじゃない?」
ミーナが見つけた。
手に取った本の表紙にはっきりと「東の海の果てのホムラ国」と書いてある。
「これだ」
ここが図書館であることを忘れて、五人は声を上げた。
同じ本棚にあった何冊かのホムラ国に関する本を抱えて、五人は机に向かう。
ひとつの本を五人で読んだ。
と言っても、本一冊一冊を最初から最後まで読むのは骨が折れるので、まず目次を見て、知りたい情報のあるなしを探した。
ホムラ国の城。違う。
ホムラ国の衣服。違う。
ホムラ国の食文化。先ほどの夕餉が思い出されて唾が出るが、これも違う。
ホムラ国の誇る自然。違う。
ホムラ国の戦の歴史。これだ。
プランタが手早くページをめくる。
その章にたどり着いて、でも白家や黒家といった名前は出ては来ず、逸る気持ちを落ち着かせながら、プランタはまたページをめくった。
五人は目を走らせる。
ない、ない、ない。
次のページへ。
ない、ない、な、あった。
ボンザがこれだと指をさす。
五人の目に白家という文字がはっきりと映った。
その文字に続く文章を読んで、五人は息をのんだ。
白家が黒家とホムラ国の覇権をかけて争っていたのは、およそ五百年以上も昔のことだったのだ。
五人はそれぞれの胸の内で、それぞれの思いを巡らせた。
気を取り直したプランタが、
次のページに行ってもいい?
と尋ね、五人の気持ちはまた本に戻った。
次のページで、御前試合という文字が飛び込んできた。
勝ったのか?
それとも、負けたのか?
ボンザがつぶやいて、ペイズは思わず唾をのんだ。
「六十年以上にも及ぶ白家と黒家の戦いは、白家の勝利で終わりを告げたのだった。勝ったんだわ」
五人はそれぞれの言葉で歓喜した。
今度は咳払いをされたが、それはもうお構いなしだった。
軽く頭を下げたが、すぐに五人は目を合わせて笑いあった。
「よかったあ、勝ったんだ」
「俺は負けるだなんて、これっぽっちも考えもしなかったけどな」
「そのわりにはさっきのつぶやきは、切羽詰まった感があったじゃないか」
ほっと胸を撫で下ろしたペイズにボンザはうそぶいたのだけど、プランタの指摘には鼻から息を吐くように笑っただけで反論はしなかった。
五人が目を見張ったのは、この一文だった。
十度目の御前試合で勝利し、当時の二大勢力であった黒家を滅ぼした白家は、以後、三百年もの間、ホムラ国を統治した。
そして時代がうつろい、近代化が進むと、大政奉還をして、自ら将軍職を辞し、白の名も歴史の中に埋もれていったのだった。
そのあとは、十歳の五人には少し難しすぎるところや、つまらなく感じられて読む気のしないところ、飛ばして読んだところもあったのだが、持ってきた本の、一応すべてには目を通した。
ボンザが一番に、感慨深げに大きく息を吐いたのだが、気持ちは五人全員同じだった。
この話題はどうせ大声ではできないのだから、それならば周囲の人の姿を確認できるこの場でと、ボンザは小声で言った。
「でもよう、盤上遊戯については、詳しいことは書いてはなかったな」
「そうだね。十度目の御前試合で勝利して黒家を滅ぼしたってあったけど、十度目ってぼくたちがこれから戦う盤上遊戯だよね?」
「うん」
プランタが何を言わんとしているのかはわからずに、返事をするポー。
「いいことなのか悪いことなのかはわからないけれど、ぼくたちが戦ったって記録は、ないみたいだ」
ああ、と気付きとも落胆とも取れる声をペイズが漏らすと、五人はしばし沈黙する。
「ぼくたちは、いなかったことになってるのかなあ?」
ポーが言う。
「まさか、死んじゃうとか」
ペイズが怖がる。
「それはないわよ。大将軍様も言ってたじゃない。死ぬことはないって」
「ぼくたちの戦う盤上遊戯は、やっぱりパラレル・ワールドでの出来事なのかも……しれないのかあ」
プランタの葉発言に、五人はまた、沈黙する。
が、答えは出ない。
と、ミーナがあくびをした。
「ごめんなさい。こんなときに」
「いや、無理はないよ。だって、いま五時になるところでしょ。つまりぼくたちにとっては、十一時くらいだもん」
プランタが言うと、そういわれるとぼくも眠いや、とポーが言い、おれたちは今日は二回晩飯を喰えるんだな、とボンザは嬉しそうだった。
いやよ、太っちゃうわ、とミーナは困り顔をした。
そこでなんとなくみなの気持ちが家のほうに向いて、その場はお開きになった。
帰る道すがら、五人の頭の中は示し合わせたかのように、白家のこと、盤上遊戯のことで占められていた。
次は一か月後か、とプランタがつぶやいた。
「大丈夫さ。白家が勝つって書いてあっただろ。きっと召喚者のおれたちがすんごい力を発揮して、黒家なんてコテンパンにやっちゃうんだよ」
ボンザはそう楽観した。
しかし、ボンザが言うようにホムラ国の歴史を伝える本には、たしかに白家が勝つと、白家がホムラ国を統治すると、書かれていたのだ。
みなの胸にあった不安が、それで一気に軽くなったのも事実だ。
このことはぼくたちだけの秘密だよ、学校でも家でも、うっかり口を滑らせないようにね。
とプランタにくぎを刺されて、わかってるよとみなは答えたものの、わかっていても滑ってしまうからうっかりなのだ。
秘密を秘密のままでいさせられるかどうか。
じゃあまた明日、とボンザとペイズが、しばらくしてミーナが、そしてプランタが、家族の待つ我が家へと帰っていった。
ポーはひとりになると自分の龍である了について、出るはずのない答えを、気が付くと求めていた。
石ころを力なく蹴飛ばした。
みんながわかってるのにポーだけ龍の力の使い方がわからなくて、
それはやっぱりショックです。子どもだからなおさらです。
頑張れ、ポー。きみの頑張りはみんなが見てるよ。
では、またお逢いしましょうね。




