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第十一話 ポーと月のしずく。

ポーたちは特別な力、龍を使いこなせるよう稽古します。

ポーだけが後れを取ります。

頑張れ、ポー。


では、どうぞ。

 なにぶん初めて出た力で、しかも不吉とされる文字。

 研究もされてはおらず、朝雲も氷雨もどうしたものかと頭を悩ませていた。

 剣の腕前を見たいと催促さいそくしたが、正直、大した腕ではなく、魔法術もプランタのあとでは見劣りしてしまう。

 知略ちりゃくに長けているわけでもなさそうだ。

 図らずも、朝雲と氷雨は同時に首をひねった。


 が、それは間違いだった。

 ポーはたしかに利発な少年ではなかったが、それは学問においてであって、たとえばチェスの腕前はとても筋がよく、ポーの国の詩人、ルーデンベルグの詩を百三十五編すべて暗唱できるのも、ポーただひとりだけだった。


 そして、これはポー自身も、プランタたち四人も理解できるようになるのはまだ先の話なのだが、ポーは人の心の機微きびを鋭く察することのできるさとさを持っていた。

 それは戦況を誰よりも早くに理解できる、つまり誰よりも迅速に、そして的確に行動できるということを意味していた。

 それがポーの長所なのだが、それがわかるのは戦場に出てからの話で、だから鵜久森兄弟がそれに気づけないのも無理はないのだ。


 その間に、ボンザの剣術をもう一度見せてはくれないかと白家の何人かがせがみ、ボンザの剣の相手をした式神が倒されて、元の符へと戻った。

 これで三体目だった。

 見ていた何人かが駆け寄って、ボンザを褒めたたえている。

 プランタとペイズも力試しを終えて休んでいる。

 ミーナはまだすべての歌詞と曲を覚えられずにいたが、それなりの成果は出していた。

 いまだになにも成してはいないのは、ポーだけだった。


 ボンザは誉め言葉を受けながら、心配そうにポーに目を動かす。

 動かしたときに気付いたのだが、プランタもペイズもミーナも同じように、ポーを見ていた。

 そこに近づいていったのは、清秀だ。


「首尾はどうだ?」

「若、それがなんとも」

 

 朝雲は困っていた。

 そして

「いや、了の力は前例がないので、我々としてもどうしたらよいのか手探りをしているというのが正直なところなのです」

 とポーを気遣った。

「うむ。手で探っても見つからぬなら、足ででも探ってみるかのう」

 みなが笑った。ポーも笑った。

「急いては事を仕損じると言うではないか。ポーの龍を知るのはひとまず休み、またそれからにしようではないか」


 清秀の計らいで、ポーたちは茶をごちそうになった。

 もちろん、ホムラ茶を飲むのは初めてだ。

 茶菓子も、見るのも口にするのも初めてで、ここが異国であると再認識させられた。

 空は高く、晴天で、気が付いたらポーは自分を責めるのをやめていた。


「そうだ。若君、御前試合っていうのは、ああ、盤上遊戯のほうが一般的だったっけ。盤上遊戯は、いつ行われるの?」

 プランタが訊く。

「二か月後じゃ」

「二か月。長いようで短いね」

「うむ。天子様より召喚の儀の詳細を教わったのが九か月前。召喚の儀の準備が整ったのが七か月前。そしてそこからそなたらを召喚するまでに要した時間が、ちょうど七か月」

「ぼくたち以外にも召喚できた人っていたの?」

 とペイズ。

「いや、そなたらが初めてじゃ。召喚の儀というものは術者の精神力を恐ろしく消耗させるのじゃ。それゆえそう何度もできるものではない。それに、召喚の儀に必要な月のしずくも、そうやすやすとは溜まらん。おお、月のしずくについても、説明はしていなかったな。手短に話そう。月のしずくとは、時の回廊でこの地と彼の地を結ぶために必要な、霊水なのじゃ。その指輪も、月のしずくを加工してできたもの。そのように小さきものではあるが、神の水とも呼ばれるほどに貴重なものなのだ」

「時の回廊っていうのは、ぼくたちが通ってきた渦巻のことだね」

 プランタの発言に、ボンザが膝を打つ。

「その指輪が持った力で時の回廊を渡れるのは二度だけ。ゆえにいまはもう力を失っておる。呪いを言うてみよ」

「我、光となりて、彼の地に赴かん」

 ポーが言った。

「ほんとだ。なんにも起きない」

「ポーらが帰るためにはその指輪を月のしずくに沈めて、力を取り戻させねばならんのじゃ。いまから行こうぞ、月のしずくのある場所に」


 さっと立ち上がった清秀を見て、ポーたちもならった。

 ポーたち五人は、清秀と一体の鬼のあとについていった。

 城内はまるで迷路のようで、プランタでさえも道順を覚えきれなかった。


「あの、若君」

 とボンザが訊く。

「若君も砂占術をやったんでしょ。若君の力は、なんて出たんだい?」

「我も剣じゃ。ボンザと同じ、な」

「そうなんだ」

 ボンザは驚いた。

「父上がな、大層喜ばれて、我が白家に伝わる家宝の刀を、我はたまわったのじゃ」

「そうなんだ。いま腰に差してる剣が、その剣なの?」

 今度はペイズが訊いた。

「いや、これは無名の刀じゃ。賜った剣は『雷刃らいじん』というてな、その刀を振るった代々の白家の者は、いかずちを纏う勇者のごとき強さだったと白家の伝承にあるのじゃ。雷刃は神から『雷』の龍を授けられた刀だとも爺に聞かされたのじゃが、爺のことじゃ、どこまで大風呂敷を広げたのか」

「大丈夫さ。若君だって白家の血を受け継いでるんだ。今度の盤上遊戯は勇者の強さで戦えるさ」

 ボンザの励ましに、清秀は気をよくして意地悪を言う。

「雷刃は雷神の力を持ち、手にする者の命を喰うと言われておる。ボンザ、次の機会に握ってみるか?」

「いいよお。命を喰われちゃ、たまんねえぜ」

「冗談じゃ。許せ」


 みな笑った。

 声こそ出さなかったが、鬼も笑っているのを、ポーは見た。


「ねえ、みんな。鬼も笑ってるよ」

「嘘だあ」

 とペイズははねつけたのだが、見てみて

「あ、ほんとだ」

 とひるがえした。

「この鬼は火山という名でな、白家に仕える陰陽師の中でも一番の力を持つ朝雲の式神であるがゆえに、火山自身の力も相当に強いのじゃ。朝雲の式神にはもうひとり大海という鬼がいてな、大海は父上の警護を承っておる。大海もまた強く賢い鬼なのじゃ」

「背が高くて筋肉もりもりで、強くて賢いんだ。うらやましいなあ」

「うらやましい? 鬼のおらが、うらやましいだか?」

「え、しゃべれるの!」

「驚いたであろう、ポー。式神の強さは術者の強さ。朝雲の式神はしゃべれるのじゃ」

「うらやましいなんて言われたのは、おら、初めてだべ」


 魔物が照れるところを見るのは、ポーたちも初めてだった。


「さあ、着いたぞ」


月のしずくとはいかなるものか?

いや、そんなに大きな意味は持たせてはいないんですけどね。

 

今回もお読みくださってありがとうございます。

みなさんに楽しんでいただけるよう、もっと多くの人に読んでいただけるよう

頑張ります。


では、またお逢いしましょうね。

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