第一話 ポーと約束。
初めまして。小町翔石に名前を変えての第一弾です。
ポーたちは十歳の設定です。
小学生が読んでも大丈夫なように、ちょっと多めにルビを振っています。
だから、こんな漢字読めるよって漢字にも読み仮名があることをご了承ください。
それでは、どうぞ。
はじめに
この物語はたったいま、あなた様がわたくしの話に耳を傾けてくださっているたったいまに起こっている話なのでございます。
もちろん、内容や展開によっては話が前後することもございます。
そちらでは朝なのにこちらでは夜ということも多々ございましょう。
それであっても、わたくしの語る世界は、あなた様の世界のもうひとつの姿、同時に進行している、枝分かれした、もしかしたらあなた様が生きるはずだったかもしれない世界なのでございます。
申し遅れました。
わたくしの名は大樹。
我が国に大樹、広樹、緑樹と三人いる語り部のひとりにございます。 以後お見知り置きいただけたら幸いです。
さあ、わたくしたちの主の命のもとに陰陽師たちによって行われている召喚の儀が、まもなく終わろうとしています。
わたくしたちにとっては生死を別つといっても過言ではないこの儀式。
枯れたはずの唾を、わたくしは飲み込みました。
1
グッドラック・アイランド。
海に面した漁業の盛んな地域と、山や肥沃な大地に恵まれた、畜産や農作物の豊かな地域と、冬の雪景色,そして何より鳳凰のふたつ名を持つ、見るものを感嘆させる名城、朱ノ城に多くの人が訪れ栄えている商業の地域とがある。
どの地域も活気に満ち、特色を生かした交易をしている。
名に「アイランド」とあるが単体の島ではなく、ジェイア大陸の東にある島国「トゥホーク島」の、五つある王国のうちのひとつだ。
天下統一を掲げてそれぞれの王が戦を繰り返したのは五百年も昔の話。
いまではそれぞれの国の国民のため、また繁栄のため、助け合っている。
戦乱の世に終止符を打ったのは、誰かが天下統一を果たしたからではなく、五人の英雄が魔王を名乗る悪魔との闘いでこの島国を救った「勇ありし者の戦い」に発端する。
五人の勇者は、あるものは頼み込まれて国王に、あるものは友のためにと国の首脳になった。
五人がまず定めたのは、戦のない世界にするための和平条約だった。
野心を持った人物にとっては厄介であろうこの条約も、魔王の脅威を目の当たりにしたあとでは、反対の声を上げるものなどいなかった。
歴史の裏側では何事かあったのかもしれないが、表向きは平和な世になった。
それでも人々は、いつかまたあるかもしれぬ有事のためにと、剣と魔法の研鑽を怠らなかった。
学校制度がつくられ、子どもたちに剣術と魔法術を一般の教養とともに教えるようにもなった。
生き残った魔物たちには、位の高い魔物をリーダーとし、五つの国に分散させるかたちで領地を与えた。
人間側の都合が強く含まれているとは気付いてはいただろうが、ひとつの不満も(少なくとも人間の前では)述べずに従ってくれた。
戦う力を持たぬ者たちも、胸をなでおろしていた。
魔物は魔物、人は人で境界線を(幾度かの行き違いがありはしたのだが)越えることなく暮らしてきていた。
魔物は人を襲わず、人は魔物を迫害しない、という協定も結ばれた(当然、知性のある魔物とだけではあるが)。
そうして五百年が過ぎた。
「おい、ポー」
やわらかな日差しを受けて、五人の少年少女が歩いている。
普段なら授業が終わったなら、もっぱら遊びの話題になる。
しかし、ボンザが気にしていたのは、何をして遊ぶか、ではなかった。
ポーと呼ばれた気の弱そうな少年は、振り返る。
「何?」
「ポーの父ちゃんと母ちゃんは、説得できたのか?」
「うん。こっちが拍子抜けするくらい、簡単にオーケーしてもらえたよ」
「そうか。そりゃよかった。じゃあ発売日に、ペイズの家に、九時に集合な」
みな、期待に胸を膨らませていた。
一か月後の深夜零時に、大陸中の子どもたちだけでなく、童心を忘れぬ大人たちをも夢中にさせている小説の新刊が、発売されるのだ。
ポーたちも例にもれず、その小説の大ファンだった。
ポーたちの学校で一番話題に上がるといってもいい。
だから一昨日、発売の知らせを聞いた者は、みな一様に歓喜の声を上げた。
「ああ、一か月後か。長いよなあ。明日にでもなってくれないかなあ」
ボンザが頭の後ろで手を組んで、ため息をつく。
「あら、一か月が早く過ぎてしまったら、なんだかもったいないような気がするわ」
ミーナは続ける。
「小説が発売されるまでの一か月間も、楽しいことがいっぱいあって、毎日が幸せで、そんな時間を永遠に思えるくらいに過ごせる。一日一日、毎日毎日。そのほうがいいんじゃない? 一か月後が明日になるなんて、もったいないわ」
ミーナの笑顔のあとを、ペイズが受けた。
「ボンザのせっかちはいまに始まったことじゃないからね」
「いま、馬鹿にしたろう」
「違う、違うよ」
ペイズに
「この野郎」
とヘッドロックをかけてじゃれつくボンザに、ポーは笑った。
ポーというのはあだ名で、ポールジョーンズというのが本名だ。
略しただけのひねりのないあだ名ではあるが、ひねらなければあだ名として成立しないというわけでもないし、友達であるこの四人にあだ名で呼ばれるたびに、ポーは新鮮な喜びを感じるのだ。
「さあ、早く公園に行って宿題を終わらせよう。そうしたら、なにして遊ぼうか?」
プランタは学年でも群を抜く秀才だ。
剣術ではボンザに一位の座を譲るも、魔法術は先生も目を見張るくらいの腕前だ。
学問の成績も優秀で、でも鼻にかけることもなく、なによりクラスメートの誰にも優しい。
つまり、宿題を終わらせるとは、プランタが先生代わりになって答えを導く手助けをするということだ。
リーダータイプのボンザ。
キャプテンタイプのプランタ。
紅一点のミーナ。
明るい性格のペイズ。
では、ポーの立ち位置は……。
お読みくださってありがとうございます。
いかがでしたか? まだ始まったばかり。
どんな冒険がまっているのか? これから、です。
これからを楽しみにしていただけたら嬉しいです。
では、またお逢いしましょうね。