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67.晴れ渡る空、翔べたなら(五)

フェンの最大MPが1000だとすると〈紅翼〉は一回で80弱使うことになります。初期型は1割、つまり100ぐらいだったので頑張ってコストダウンしてます。

一方、MP5以下でいい初歩の魔法に80以上突っ込もうとしたのが勇者様。やめれ。


 そして現在――


「――フェニックスの魔力の『八ぱーせんと』ってさあ、他のみんなじゃ全然無理じゃん?! そりゃ〈紅翼〉凄いよ? 戦況ぜぇんぶ変わっちゃうよ? でも魔力の消費が重た過ぎるじゃんんん?!」


「理論的には七.七四七パーセントまで落とせる。そこから先は術式をいじらねえと厳しい」


「簡単にむちゃくちゃ細っかいコト言ってくれちゃって?! そんな簡単じゃーないんだけどぉお?!」



 フェンとマイカ、上級魔術師二人の議論は白熱する一方であった。

 トールが持ち込んだ「パーセント」、つまり百分率の概念まで活用して話し合っているのは〈紅翼〉の行使に必要な魔力量である。


「フェン、やっぱり魔法や魔術に関しては細かいんだな。マイカさんにまで言われてる」


 専門的なやり取りについていけないトールが腕組みをする。


「トールさんは不愉快ではございませんか? ご自身のスキルを模倣されて」


 同じ魔術師でも自称「平凡以下の落ちこぼれ」のエレイシャは早々に魔術論議から撤退し、トールの横で同僚達に生温かい視線を送っている。


「いや、俺の身体だって一つしかないんで。やばい魔物が複数出てきた時のことを考えると、何人か〈紅翼〉使える人が居てもいいと思う」


「紛れもない勇者としてのご意見ですね……」


「おぬしらしいな。何人もの魔術師にそろってアレをやられたら、勇者でも危ういとは思わんのか?」


 ベルクートが為政者らしい物言いをし、トールもようやく気付く。


「あー……対人用ってことですか」


 フェンはあくまで多頭蛇(ヒュドラ)のような特殊な魔物と戦うために、新しい技を編み出した

 しかし王太子やエレイシャ達が懸念しているのは、魔物の脅威が大きく減じた世界――「これから」の舵取りなのだ。

 ラグリス大陸は魔王という共通の敵を討った後、人族同士でたびたび争いが起こった歴史を持っている。

 地球でもありがちな話だ。

 大袈裟に言えば、人間の業は異世界でも共通なのかもしれない。


「あらゆる魔法や魔術を無効化する、すなわち貫通してダメージを与えるのだぞ? 聖女の最上級の結界魔法でも恐らく防げぬだろうな」


 ベルクートの発言を受け、セレストがうなずく。


「あの多頭蛇(ヒュドラ)には結界が効きませんでした」


「あーあー、嫌になっちまいますな、護衛の仕事が高度かつ複雑になる」


 タームも気付いていたようで、ぼそっと言う。

 以前からベルクートや王族の護衛を務めているタームは、暗殺にも使われる危険があると考えているらしい。


「ま、元からフェニックスみたいな奴が突っ込んできたら、しょぼい中級のオッサンにゃ防げませんがね。あんな技まであると余計です、足止めもできんですわ」


「今のところ、フェンしか使えないようですけどねえ」


「難易度が高過ぎるくらいで丁度良いと言えそうですな」


 マーシェとシャダルムも、口々に意見を述べる。

 タームはぽりぽりと頭をかいた。


「上級魔術師でも習得できるかどうか、ですなぁ。ですがマイカがやる気を出すと、平易な術式に改良してしまうかもしれませんがね」


「ほう、マイカが?」


「術式の開発にかけては抜きん出ていますのでね。師団長やフェニックスみたいに目立つ魔術師ではないですが、あいつも冗談で研究塔の最上階に居る訳じゃありませんや」


「……あとで程々にするよう言っておきます」


 エレイシャが肩をすくめた。


「エレイシャさん大変だな……」


 トールが労いの言葉を掛ける。


「全くです。ふう、マイカとは候補生時代からの腐れ縁で、仕方がないのですけれどね……大変なのはトールさんも、でしょう?」


「ん、俺?」


「ええ、よくぞ()()フェニックスの面倒が見られますね。相当扱いにくいはずですが」


 エレイシャの何気ない一言で、元パーティーメンバー達三人が、それぞれ何とも言えない顔をする。


「むぅ……トールが面倒を見ているというか見られているというか」


とシャダルム。


「トール様が奇跡的に鈍感……いえ、勇者らしく大らかゆえ、ではないかと」


とセレスト。


「始めからフェンはあんなんだったもんねえ。こっちがヒヤヒヤするくらい」


とマーシェ。


「まあ、なあ。ほんと最初の最初だけだな、かろうじて丁寧にされたの。すぐ地が出てきたっけ」


 少し懐かしい気持ちになるトール。


「トール……よく平気だったな?」


 ベルクートが不思議そうに訊く。


「んー、召喚された直後はこっちの常識も何も分からなかったんですけど。質問しても『勇者様の言う通りです!』って気を使ってくれる人ばっかりだったんですよね」


「ふむ。王族でもままあるな、そういうことは」


「ダメなものはダメ、気に入らないものは気に入らないって、はっきり言ってくれたのはフェンが最初だったんじゃないかな。むしろ俺はありがたいと思ってます」


「嘘やお世辞を言いませんものね、フェン」


 セレストが言う。


「うむ……我々にはそれが合っていたのだろうな」


 シャダルムもうなずく。


「はっはっは! なるほどな! 分かる! 分かるぞ!」


 ベルクートは勇者の肩をばしばし叩く。


「……トールさんにはフェニックスも敵わない理由が明らかになった気がいたします」


「今でも魔法とか色々、分からないことあると訊いてるんで。フェンに敵わないってか、頭が上がんない感じなのは俺の方ですけど」


「ふふ。そういうところですよ、トールさん」


 エレイシャは静かに微笑み、食後の茶を上品に飲む。

 にまっとマーシェも笑った。


「何しろ最強の勇者サマだからねえ? だーれも敵わないさ!」


「なんでそうなるんだよ。だいたい、勇者は引退したいって言ってるだろー」


 トールはいつもの悪あがきをしながら、おかわりのチーズ餅風料理を手元に引き寄せたのだった。



✳︎✳︎✳︎



『ねーねーフェニックス。こっちでも話せるぅ?』


 ぺちゃくちゃ喋る肉声とは別に、マイカの魔力が机の上に文字を書く。

 簡易版の〈伝書〉、もしく魔力で行う筆談と呼ぶべきか。

 言いたいことがあるようだが。


『面倒だ。断る』


 ばっさりと拒否するフェン。

 口先でやっている真面目な議論とはまた別に、魔力の筆談で話し合いをする……常人なら脳内がこんがらがりそうだが、魔術の同時行使が得意なフェンには何ということもない。

 マイカも彼ほどではないにしても、この程度は造作もない。

 が、何が悲しくて今ここで入り組んだ話をしなければならないのだ。遠慮したい。

 だがマイカには通じなかった。彼女は素知らぬ顔でまた魔力の文字をつづる。


『エレちゃんが厳しくって、ナイショ話ができないんだよー』


『聞かれて困るような話をするんじゃねえよ』


『じゃあ手短に行くよぉ』


『……言葉が通じねえな』


 ひそかに溜息をつくフェン。

 なお〈紅翼〉についての会話は会話でまだ続いている。


『キミここに残る気だってことで合ってるよね、フェニックス? 王都に戻りたいって思わないんだよね?』


『当たり前だ。嫌ならとっくに見切りを付けてる』


 フェンは他人に気を使うような性格ではない。トールの元に残ると決めたのは誰でもない、彼の意志だ。


『ふぅーん? 勇者君ってさ、いい人だとは思うけど魔法ド下手だしお人好しで甘過ぎるし、フェニックス一番嫌いじゃない? ついていくって決めたの、なんで?』


『お前が他人に興味を持つのは珍しいな』


 魔術の研究に熱中するあまり、人間に関心を持たないのがマイカという女である。

 他人の顔と名前はほとんど覚えない。

 人間の魔力には個人差が出るため、それで識別している。

 ここに居る面々で言うとトールやセレストとはよく話すものの「勇者君」「聖女ちゃん」で済ませる。名前を覚えるのが面倒だからだ。

 一方でマーシェやシャダルムら一般的な魔力保有者には……取り立てて冷たい訳ではないけれども、ほぼ眼中にない。

 ――有象無象よりも真理と深淵のことを考えていたい。

 そういう典型的な、魔術師という生き物なのだ。

 フェン自身も多かれ少なかれ似たようなところはあり、ひとのことは言えないのだが。

 厄介なのは、マイカはふわふわしているように見えて頭が良く、その気になれば観察眼も鋭いという点だ。

 トールが話す異世界の知識に食いつくのは予想できていたものの、関心が勇者本人に向いてきたか。


『……トールの故郷ではな、誕生日って言うらしいが生まれた日から年齢を数えるんだとよ。で、あいつは十六歳になった()()()に引っ張られてきやがった。スキル以外はどこをとっても勇者に向いてねえあいつが』


 ごまかしが効かないと判断して、フェンは答えた。


『召喚の儀式で中核になったのは師団長だ。あと髪の毛一本分でもマシなやつが居れば、そっちを召喚したに決まってるだろうが。あいつしか居なかった、そういうことだ』


『――――…………』


 マイカが黙った。

 魔力の筆談だけではなく喋り続けていた口も、紙の上に魔術陣やら何やらを描いていた手も、ぴたりと止まった。

 周囲にいたトールやベルクート達も異変に気付いてこちらを見たが、マイカの奇行は今に始まったことでもない。

 気にするな、とフェンが軽く手を振ると、雑談に戻っていった。あちらはあちらで盛り上がっているようだ。


『……そっか』


 マイカがぽつりと筆談を寄越した。


『師団長は絶対に未成年(こども)を出さなかったもんね。フェニックスもそうだし。聖女ちゃんの従軍も最後まで反対してたし……召喚の術式には年齢の条件まで入れてなかったけど、師団長なら考えるよね。戦うのは大人の役目だって』


『ああ。だが召喚されたのはトールだった。皮肉な証明だ』


 〈異世界召喚〉は、思い描いたものを寸分違わず召喚できるとは限らない。あくまで指定した条件に叶う存在を選び出してくる。

 勇者を呼ぶ場合、最大にして必須の条件は「魔王を倒せる者」であること。

 先代勇者に女好きの悪癖があったように、それ以外の要素――性格や魔法の才能というのは余録(おまけ)に過ぎないのだ。もちろん優れているに越したことはないが。

 年齢にしても魔王と戦えない極端な赤ん坊や老人が除外される程度であり、何歳という条件付けは不可能だ。

 ロジオンはそれでも、ぎりぎりまで粘ったのではないか。フェンはそんな気がしている。


『……師団長、知ってるの?』


『あいつがニホンでは未成年扱いだったのは知ってる。誕生日のことはたぶん知らねえ。トールにオレが口止めした』


『そっかぁ……』


 マイカは小さく息を吐き、持っていたペンをくるくると回した。


『勇者君は、抱えているスキルがそこまで強いんだね。魔力自体はあんなにあるのに、スキルでいっぱいいっぱいってことかぁ……そりゃ勇者は魔王を倒せればイイっちゃイイけどさあ? 本当に特化型で他は捨てちゃってるんだねぇ』


『本人は華麗に魔法を使ってみたかったらしいが、な。練習しても笑えるくらい上達しねえ』


『あー、なるほど。……そりゃ失敗もするよね、うんうん』


『……失敗?』


 何やら不穏な単語が出てきた。


『あ、こっちの話! 気にしないでね! でもさあ魔王は倒したでしょ? もういいかなーって思わないの?』


『オレだって魔王を倒した後も自分が生きてるとは思ってなかったんでな。やりたいこともねェが、とりあえず、ここに居れば退屈だけはしない』


『あは、それはそーだろね。タネモミ撒くとか、他に使いどころの分かんない魔術がバンバン増えてるしぃ?』


 マイカは納得したようで、するりと魔力を引っ込めた。

 そして何事もなかったかのように〈紅翼〉についての議論を再開する。

 フェンも素知らぬ顔で、そっちに集中することにした。


「んー、これがこうして、こう! でも、こっちと矛盾するかなー? じゃああっちをちょっと変える?」


 マイカはぶつぶつ言いながら、手元で魔術陣を描いていく。

 ――新しい魔術を生み出すには、いくつもの関門がある。

 一定程度の力量のある魔術師なら、既存の術式を改良したり新しく創り出したりすることはある――けれども、それを他の魔術師でも使える術式に落とし込むのは、実は言うほど簡単ではないのだ。

 マイカは、術式を構築することにかけては天才的な腕を持っている。

 他方、フェンは直感で魔術を操ってしまうタイプであり、現状で彼にしかできない――より正確には他人に上手く説明できないまま行使している魔術が結構ある。

 それを解きほぐして平易に書き換えていくマイカの手元を見ていると「よくやるぜ」という気分になるのだが。


「ちょっと複雑過ぎぃ! こんなの、よく頭ん中だけで構築できるね? おかしくないフェニックス? 脳みそ煮えてるどころか蒸発して別次元に逝ってるんじゃない?」


「うっせぇぞ、ふわふわ頭」


 お互い様という言葉がよく似合う。

 一つ溜息をつくと、横合いから茶のカップが差し出された。

 見ればセレストだ。

 わざわざ飲み物のお代わりを持ってきてくれたことに気付いて、フェンは黙って受け取った。


「お話は終わりましたか?」


「ああ。あとは放っておけばマイカが勝手にやる」


 マイカはもう、こちらの話は半分以上聞いていないだろう。魔術を描くのに没頭している。

 彼女も悪人ではない。ただ有能で、どこまでも魔術師の本能に忠実であるがゆえに、相手をするのが大変に面倒くさい。

 訊かれたことには答えた。特大の餌もくれてやったのだから、さっさと帰ってもらいたいものだ。



 ――政治的な立ち回りには興味のないフェンも、この数日で察している。

 今回の電撃的な王太子の訪問には、さまざまな思惑が絡んでいる、と。

 国王ネマトの譲位が近い。

 次の国王はベルクートではあるが、未だに勇者を推す者もいる。

 それを押しのけてベルクートが王位に就くには、勇者トールからも次の王として認められ、支持され、変わらぬ忠誠を向けられている証しが必要なのである。

 それを確かめるために、無理を押して本人が来たのだ。


 そして似たようなことが、実はフェニックス自身にも言える。

 師団長ロジオン――彼が長い間その座にあったのは、勇者の異世界召喚を取り仕切れる数少ない人材であったためだ。

 だが、それが終わった今。

 ネマトが譲位すれば、遠からずロジオンも引退するつもりではないだろうか。

 順当に考えて、次の師団長はトラスになる。

 しかし実力主義の魔術師団において、師団長に必要なのは第一に魔術の強さ。フェンにも一応、資格だけはなくもない。

 王都に戻らないのか、と訊かれたのは、暗にそういう意味があったはずだ。

 マイカはトラスの妻だが、忖度に縁のない人柄で、研究塔を代表する上級魔術師の一人。

 トールやフェンの話を聞き出す上で、もっとも中立に近いのである。


(ま、師団長も副団長もやる気はねえよ。これっぽっちも向いてねえし)


 魔力の相性こそ極悪だが、トラスの実力と公正さはフェンも認めている。うまくやるだろう。


「フェン? どうかしましたか?」


 セレストが声をかけてくる。


「――別に。何でもねえよ」


 フェンは、淹れてもらった茶を一口飲んだ。

 いつもの香りがした。

 セレストはフェンの好みを把握している。

 不味いはずがない。


 ――変わっていくものもあるが、変わらないものもある。


 離れる気は、ない。



✳︎✳︎✳︎



 楽しい時間ほど早く過ぎるもの。

 そう言ったのは、いにしえの賢者だったか地球の科学者だったか。


「――くぉらあああっ! 逃げるなトール! 勇者たるもの正々堂々と勝負せぬか!」


 ベルクートから気合の声が飛ぶ。


「だってほら引退してますから! 無茶言わないでいただけますか?!」


 勇者はどこか抜けた返答をすると同時に、手に持った「武器」を振るう。


「黙れっ、最後にその小癪な木の棒をへし折ってくれるわ!」


「正々堂々って一対一だと思ってましたけど?!」


 模擬戦こと勇者フルボッコ大会から一日経った、今。

 トールはまたしても木の棒で戦わされていた。

 前回使っていた棒は駄目になっているので二本目だ。

 相手は殺る気いっぱいのベルクートと――


「勇者殿、さすがですなあ!」


「木の棒のみでこの強さ、誠に凄まじい」


「くっ、また避けられました! おい! そっちへ行ったぞ!」


 ――王太子を追いかけてきた近衛騎士団の面子であった。

 その数、二十名。

 日頃からベルクートに付き従っている彼等はみんな、明るく爽やかな笑顔と暑苦しい体格をした手練れだった。

 どうもベルクートはかなり強引かつ突発的にシャダルム一行へ潜り込んでイナサーク領へ来ていたようだ。

 騎士達は護衛もさることながら、王太子の首根っこをつかんで連れ帰るための人員として送り込まれたらしく、今朝早く到着した。

 ただし現在は職務を横に置いて、トールとの模擬戦に熱くなっているが。

 最後にもう一戦、とベルクートが言い出してこうなったのだ。

 うっかり絆されてうなずいてしまったのが、勇者の運の尽きであった。


「殿下も入れて筋肉達磨×21はキツい……! 男に追いかけられても嬉しくない!!」


 可及的速やかに終わらせようとトールは思った。

 どうせ、まだ帰りたくないベルクートが時間稼ぎをしているだけだ。

 近衛騎士達もやや脳筋ではあるが、馬鹿ではない。

 ベルクートの思いを汲んで、彼の気晴らしに付き合ってやっているのだ――

 

「おおっと! 勇者どのー! ちょこまか逃げるだけでは終わりませんぞー!」


「勇者殿は小柄で見こなしが軽い。的が小さくて当たらないですなあ」


「日本人としては普通です! そっちがそろってデカ過ぎるだけ……あぶねっ?!」


「チィッ、外したか!」


「うわーっ?! もう殿下と一緒に帰ってくださいって?!」


 前言撤回。

 こいつらも楽しんでいる。

 シャダルムには負けるものの、筋骨隆々の巨漢ばかりだ。

 トールは召喚された当時、身長は百六十センチ代後半。同級生の中でも中間くらいだった。

 長さの単位が違うため一概に言えないのだが、そこから三年の間に体感で十センチ近く伸びたところで、成長が止まっている。それでも日本人としては高身長に入るだろう。

 が、ラクサ王国人は地球で言う欧米人に近いようで、全般的にがたいが良い。

 フェンは痩せ形ながら身長はトールより少し上。

 マーシェは女性としては大柄で、トールとほぼ同じ。

 セレストは小柄な方に入るとは言えラクサ的には小さい、のであって百六十センチはあると思われる。

 そしてシャダルムは二メートル超の大男なのであり、ベルクートや近衛騎士達も百九十センチ級がひしめいている。

 しかも鍛えているだけあって、縦ばかりではなく横にも大きい。


「そんなのが二十一人も! むさ苦しいんですよ!」


 トールでも嫌になろうというものだ。

 殺到してくる筋肉と暴力を押しのけて脱出し、少し距離を取ってから木の棒を構え――


「ていっ!」


 ()()()を叩き込んだ。

 ずばん、と派手な衝撃音。

 声もなく崩れ落ちる全身鎧の群。


「うん、静かになった」


 ふーっと息を吐くトール。


「うぬ! スキルは使えんと言っておったではないか、トール……!」


 雷光に打ち据えられて膝をついたベルクートが、悔しそうにうめく。


「木の棒が壊れそうだから封印してたんです! 壊れる前に全員倒しちゃえばオッケーでしょ」


 トールは最初の模擬戦で、木の棒の限界をつかむことができていた。どのくらいの魔力なら流し込んでも壊れないのか、なんとなく感じ取っていたのだ。


(あんまり理解できちゃうとイクスに怒られるから、もうやらないけどな……)


 聖剣を操る時に雑音が混じってしまうので駄目だとイクスカリバーが言っていたのは、まさにこのことだろう。

 あとで何かしら、農作業でもいいからイクスカリバーを使う感覚を取り戻しておく必要がありそうだ。


「ほう、ならば――」


 突然ベルクートが立ち上がった。

 そして素晴らしい速度で、暢気に考え事をしていたトールに斬りかかってきた。


「――――ッ!」


 咄嗟に木の棒で受けた。

 やや気を抜いてしまっていて、そうするしかなかったのだ。

 瞬間、耐久限界を迎えた木の棒は粉々になって吹き飛んだ。


「はぁーはっはっは!! 油断したな!」


 大笑するベルクート。

 模擬戦の勝利条件と敗北条件は前回と同じ。

 つまり勇者は二連敗したのである。


「ちぇっ、せこいですよ殿下!」


「勝ちは勝ちだ!」


 なおも笑いつつ、ベルクートはどさりと地面に腰を下ろした。


「しかし足腰が立たん! これ以上は無理だな……」


 兜を外し、空を仰ぐ。

 今日も抜けるように青い空だ。


「セレストを呼びますか?」


「いや、負傷はない。大丈夫だ。あまり回復魔法に頼り過ぎては鍛錬にならぬ」


 回復魔法は傷を癒やすだけでなく、一定の疲労軽減効果がある。だが、ベルクートは手を振って謝絶し、トールも無理には勧めなかった。


「殿下、そろそろ――」


 ガチャガチャと金属鎧を鳴らして近衛騎士達が立ち上がり、誰からともなく綺麗に整列する。その動きには迷いがない。


「ふ……そうだな。潮時、か」


 ベルクートがつぶやく。


 ――地球的に表現すれば「ローマの休日は終わった」ということになるだろうか。

 王太子帰還の時が来たのである。


話が進まないので終わらないとは、これいかに。

もう2回ほど続く……!

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