表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

33/76

32.輝け、奴等と姫の最終奥義(中編)

 白の女王群、第二波襲来。


 真の凶報であった。

 聞いた全員がげんなりした顔となった。


 トールも例外ではない。


「詳しい内容はマーシェに訊けってフェンが言ってたけど、そういうことか……」


 仮眠を終えたフェンと交代し、陣地に戻ってきたトールは、マーシェに事の次第を説明してもらっていた。


「こっちもセレストの〈伝書〉以上のことは分からないんだけどね。聖王国から援軍つっても、役に立つかどうか。本音で言うと微妙だよ」


 マーシェも浮かない表情をしている。


「俺はまだ平気だけど、他のみんなは疲れてきてるだろ? 交代要員が来ると思えば良いんじゃないか」

「そう願いたいねえ」

「聖王国ってそんなにヤバい連中とか?」

「いや。聖騎士団はそこまで酷くないよ。でも何をする気なのやら掴めないのが不気味でね」

「第二波をこっちに引っ張ってくるみたいだよな。どうするのかな」

「例の魔法薬も無いはずなのにね。あたしもさっぱりさ」


 謎は深まる一方だった。



✳︎✳︎✳︎



 夜明け前に目が覚めた。


 ひとまず寝ておきな、とマーシェに言われて、トールは仮眠を取っていた。

 一度ぐっと伸びをしてから、身支度を整えて天幕を出る。

 勇者の力を使いこなせるようになって以来、トールの寝起きは良くも悪くも完璧である。

 寝る時はスイッチを切るように意識が落ち、この時間に起きると決めればそうなる。

 戦うのも問題はない。いつもの調子で、マーシェかセレストを探しに行こうとした時。


「勇者様?」


 聞き覚えのある声が届いた。


 薄明の中、華奢な人影が真っ直ぐに歩いてくる。

 トールは(まばた)きをした。

 ーー知っている人だが知らない姿だ。

 正確無比な体内時計を持つ勇者でなければ、まだ寝ぼけているのかと疑うところであった。


「久しいですわね。壮健そうで何よりだわ」


 澄んだ声を聞けば間違いはない。


「ーー姫様?」


 ラクサ王国第四王女リディア。

 彼女が聖騎士の鎧に身を固め、紫色のマントを着け、細い腰に剣を提げた姿で、トールの前へ来て足を止めた。


「そうか……聖騎士になりたいって言って姫様が国を出た話、少し前に聞いたような」


 ようやく繋がった。

 アプロードス聖王国からの援軍というのは、かの国に渡ったリディアが一枚噛んでいたようだ。


「ええ。先日、見習いから昇格しましたの。あまり驚いておられないようね? 残念だわ」

「いや、凄くびっくりしてます……」


 驚愕の余り、どう反応したものか分からない。

 そのくらい、リディアの変貌は劇的であった。

 トールは着飾った王女の格好をしたリディアしか見たことがなかった。

 だが、壮麗な聖騎士の装備も、案外に似合っている。

 声も変わっていないが、喋り方は随分と違う。


「えーと。聖王国から援軍が入るって聞きましたけど、それって姫様が聖騎士になられてるのと関係してる……してますか?」


 トールは気を取り直して尋ねた。


「わたしの我が儘に付き合ってもらっている、というのが正しいわ。その前に勇者様、あなたに言っておくことがあるのだけど」

「あっはい」


 トールは内心で身構えた。


 リディアとトールの関係は、実に不穏なものだ。

 魔王討伐を成し遂げたトールの婚約者、というか、褒美の一つとして用意されていたのが、王女であるリディアとの結婚だった。


 だが、農家になりたかったトールはその話を断った。

 つまり王女を振ったのである。


 当時の彼女は我が儘かつ子供っぽい性格で、正直に言って苦手なタイプだったのもある。

 今思えば、もう少しリディアの名誉を傷つけない方法を取れば良かった気もするが、かつてのトールはそこまで考えが及ばなかったのだった。

 結果として彼女は捨てられた姫君となり、そして何がどうなったのか、聖騎士になって目の前にいるのだが。

 恨み言の一つくらい、甘んじて受けるべきだろう。


 ところが。


「ーーその取って付けたような、妙な言葉遣いを止めてくださる? 普通の話し方になさって」


 トールより小柄なリディアは、下からにらみ上げながら言った。


「え? ああ。はい……?」


 意表をつかれ、まごつくトール。


「そもそもあなた、勇者なのだから誰におもねる必要もないでしょう。今のわたしは王女と言うより一介の聖騎士に過ぎないのだし、あなたもいつも通り雑で結構よ」

「本当にそれで良いんですか……じゃない、良いのか?」

「もちろん。……なあに、そのお顔。ご不満かしら?」

「そうじゃなくて、もうちょっと別のことを言われるかなと」

「あら、自覚がお有りだったの? 珍しいことね」


 リディアは、からかうような笑みを覗かせた。


「そうね、わたしがどこぞの変態ジジイに嫁がされたのなら、毒を塗った短剣くらい持ってきたかもしれないわ。勇者様には効かないでしょうけど」

「うぐ……」

「でもね。お父様が甘いのもあって、わたしは本当に欲しいものを手に入れたの。あなたも、ご自分がしたいようになさっているのでしょう。お互い様というものだわ」

「はあ。まあ、姫様がそう言うなら異存はないです……ないけど。うん」

「では、共に戦いましょう」


 リディアは颯爽と歩き出す。

 トールがついて来ることを疑わない、我が物顔の態度であった。


 ーー王族としての本質は変わらず、ということか。

 むしろ、より威力を増して再来したのかもしれない。


 トールは頭をかいて、リディアの後を追い掛けた。



✳︎✳︎✳︎



「まさか姫様がいらっしゃるとはね……」


 リディアの登場はマーシェにも意外だったようで、彼女は落ち着かない風であった。


「急で申し訳ないとは思っているわ。でも時間が惜しかったの」


 全く悪びれないリディア。


「勇者様は、アプロードス聖王国のことをご存知?」

「そんなに詳しくはないかな」

「そう。簡単に言えば、聖王と呼ばれるお方がいらっしゃるけれど、まつりごとはなさらない。実務を担うのは七名の枢機卿で、つまりトレヴォンからの要請を受けても、七名の合意がなければ動けないのよ」

「あ、そのせいで聖騎士団の派遣が遅れたのか」

「他にも色々とあるけれど、おおむねそういうことだわね。枢機卿のお一人がトレヴォン南部王国の出で、その縁で南部の危機的な状況が分かった。それで、勇者たるあなたに何とかしていただこう……という厚かましいお願いになったという訳ね」

「姫様、ぶっちゃけるなー」


 トールはむしろ感心した。


「言葉を飾る意味も時間も無いでしょう?」


 リディアも肩をすくめる。


「なりふり構っていられないわ。トレヴォン南部の被害はかなり酷いようなの。ラクサはもちろん、他国への被害拡大を防ぐ必要があるのよ」


 アプロードス聖王国はルリヤ神殿の総本山でもあり、国を越えて影響力を及ぼせる特異な国家だ。

 地球で言う国際連合……までは行かないが、女神の名の下に民を救うという大義名分で、こういった異変や災害時には聖騎士団を動かすことができる。


「と言ってもラクサは大国、簡単に干渉できない。だから、腐ってもこの国の王女であるわたしが、聖騎士となって事を収めるためにここへ来ることにしたの。よろしいかしら、勇者様?」

「ああ。経緯は分かった」


 国を出奔した形のリディアだが、王位継承権は保持したままだ。兄である王太子に子が生まれるか、彼女自身が結婚すれば継承権を放棄することになるが、一応はまだ正式な王女であった。

 彼女が聖騎士を連れてラクサ王国へ入国するのも、辺境伯にして勇者であるトールに協力を要請するのもーー法的に見てやや灰色(グレー)の部分はあれど、私利私欲のためではないので、ぎりぎり成り立つといったところか。


「王族の名はこういう時に使うものよ」


 リディアの口調はさばけたものであった。

 父である国王ネマト等にも、了解は取っているらしい。


「さて、白の女王群第二波だけれど。聖騎士団の別働隊が、ここへ連れてきているところよ。もう数時間で到着するはず」

「ちなみに、どうやってるのかお聞きしても?」


 マーシェが尋ねる。


「あなた方も使った魔法薬よ。一般には知られていないけれど、実は聖王国も少しだけ持っているの。ラクサから聖王猊下への献納品としてね」

「んな貴重なもんを引っ張り出したってことですか……」


 あちゃー、というマーシェの心の声が聞こえそうだった。


「わたしはまだラクサの王女よ、使った分は責任を持って補填するわ。手配するのはお父様やオルトラだけれど、そんなのは些細な問題だわね」

「何か国王陛下と宰相閣下がお気の毒になってきますが……まあ理解いたしました。で、魔道具じゃなくて別働隊の皆さんが囮を務めて、ここまで走ってくるってことですね?」

「ええ。死にものぐるいで使命を果たしているでしょうね、今頃」

「マーシェ、俺は聖騎士団の人達に同情したくなってきたよ」

「また虫どもの相手をしなきゃならない、あたしらも十分可哀想だけどね?」

「あら、あなた方に全て押し付けようだなんて、思っていなくてよ?」


 リディアがにこりと笑う。


「こう見えて、わたしは魔力が多い方だもの。ちゃんと、こういう場合に役立つ魔法を覚えてきたわ」

「何となく心配だな……姫様、それ大丈夫か……?」

「聖王国に伝わる広域殲滅用の特大魔法だそうよ。わたし一人だけではないわ、聖騎士数人で力を合わせて使うの」

「余計にヤバい気がする」

「根拠も無しに誹謗するおつもり?」


 聖騎士になっても、リディアの無茶振りは変わっていなかった。


「……うーん。まあ良いけど、気を付けてくれ、ほんとに」


 トールは色々と諦めて、そう答えた。



✳︎✳︎✳︎



 第二波襲来まで、あまり時間がない。

 殲滅を担当していたフェンを一度呼び戻し、代わりにリディアと護衛の聖騎士達が出撃していく。

 

「本気でやるのか、あの姫様」


 フェンは気に入らない様子である。


「頑張って覚えたみたいだし、良いんじゃないか?」


 トールも不安はあるが、ひとまず見守る姿勢だ。


「頑張ったかは別にどうでもいい。カビ生えたような昔の魔法を持ち出すなんざ、事故の元に決まってる。何かあっても責任取れねえだろうが」


 吐き捨てるようにフェンが言う。こと魔法や魔術に関して、フェンは常に容赦がなく辛辣であった。


「どういう魔法なんだ、訊いたんだろうな?」

「うーん。何かこう、凄い名前だったな」



 聖光王龍大爆炎撃(デジタルメガフレア)



 リディアが習得したという攻撃魔法は、魔術師ではなくても魔力さえ注げば高威力が出せる、というものだそうだが。

 トールの故郷にあるマンガやゲームに出てきそうな、ど派手なネーミングだったのである。


「三世代ぐらい前のやつじゃねえか。案の定だな」


 フェンは不機嫌に口許を曲げてみせる。


 魔術師を養成するのは時間も手間も掛かることから、ラクサ王国以外の国にはあまり居ない。ゆえに他国では大規模な魔法を使う場合、魔法使いを複数集めて運用することが多いという。


「だが数がいりゃ良いってもんじゃねえ。詠唱が長ったらしくなりやすいから融通が効かん。あと魔力の無駄が多い」


 大規模な魔法そのものが時代遅れだ、とフェンは言う。

 時間と魔力を食い潰してでも、ひたすら火力を大きくするのが良い、とされた頃に生まれた魔法らしかった。

 だが使いどころが難しく、次第に廃れていったそうだ。


「魔法にも厨二病みたいな時代があったのか……」

「ちゅーにが何だかは知らんが、一種の病気だってのは同意だな」


 古くから伝わる魔法に対して、フェンの反応は極めて冷淡だった。伝説の禁呪、などと言うよりも、型落ちの旧式という扱いであるらしい。


 面白いものだと考えつつ、トールは言った。


「まあ大丈夫だよ。今回は俺がいるからさ」


 仮にリディア達の魔法が暴発しても、勇者の本気で防ぐつもりだ。


「至れり尽せりってやつか? さすが王族」


「フェン、そう怒るんじゃないよ。姫様にも目立ってもらった方が良いのさ」


 マーシェが近寄ってきて、口を挟んだ。


「政治的ご配慮かよ……面倒くせえな」


 白の女王群掃討戦は現在、トールが中心になってしまっている。


 当初はトール本人も含めて、ここまで大事になるとは誰も思っていなかった。勇者が軽く片付けるだろう、という程度のもの。

 蓋を開けてみたら、大陸級の厄災だったのである。

 だがイナサーク辺境伯領は王都から遠く、それが解っても援軍が間に合わない。

 王国は何くれとなくトールを援助しているのだが、民衆から見た存在感はやはり薄く、このままでは「勇者と違って何もしなかった」という非難を受けてしまうだろう。


 するとーー。


「俺を次の王様にするとか、そういう流れになりそうでさ……」

「あたしはちょっと見てみたいけどね?」

「お前も相変わらずだな、マーシェ」

「ふーん、フェンは違うのかい」

「別に? 結構な趣味だとは思うがな」

「何だよ二人とも?! 俺、絶対に嫌だからな」


 勇者の功績がこれ以上大きくなると、恐らく農家を続けられない。


「もうじき稲刈りなんだぞ?! ややこしいことに巻き込まれたくない!」


 断言するトール。


「お前、大陸統一もできそうなのに、これっぽっちもやる気ねえんだな」


 フェンは呆れているが、彼とて一欠片でも権勢欲があるなら、こんな田舎でフラフラしているなどあり得ない。つまりはトールと似たようなものであった。


「無い無い、そんなの。だから姫様に頑張ってもらいたいよ」


 リディアは王女だった頃から、その愛らしさで国民に人気があった。

 そのリディアが聖騎士になったのは、ラクサ王家の七光りもあるだろうが、真面目に努力を重ねたからだ。

 もともとリディアは身体を動かすのを好んでおり、乗馬をしたり護身術を習ったりしていたらしい。しかし、それでも並大抵の苦労ではなかっただろう。


 その上で、王族の義務として民を救わんと帰国した。花を持たせる方が王国のためであり、目立ちたくないトールの利益にもなる。


「仕方ねえな。手並みの拝見と行くか」

「王国の民なら、成功を祈っておかないとねえ」

「多分、そろそろかな?」


 トールは顔の前に手をかざし、強くなる陽光の向こうを眺めた。



✳︎✳︎✳︎



「ーーあなた方には苦労を掛けるわね」


 じわじわと気温が上がっていく中で、リディアは聖騎士達に声を掛けた。

 彼等は、見習いから昇格したばかりの彼女よりも先輩格だ。本来ならリディアは一番下っ端として最後尾につくものだが、現実には先頭に立っている。


「自分が見目の良い道化だということは、分かっているのだけれど。付き合わせてしまったわ」


 ーーリディアが、曲がりなりにも王女だからだ。


「構いません、王女殿下」

 右隣に立つ聖騎士が言う。

 兜をかぶっていて顔は分からないが、大柄な男性のようで渋い声だ。


「私どもは皆、リディア様の御覚悟に感銘を受けておりますので。お供をさせていただくのは名誉なことですわ」

 続いて、左隣にいる聖騎士もうなずく。こちらは女性騎士であるらしい。


「あなた方に感謝を。では、詠唱を始めます」


 リディアは静かに魔法の詠唱を開始した。

 歌うような声が流れていく。

 やがて聖騎士達も唱和し、詠唱の声は次第にうねりながら大きくなっていった。



 地平線の向こうから、魔物がやってきた。

 雲のようにも見える無数の虫型、白の女王群だ。

 トール達は既に嫌というほど目にしているが、リディアと聖騎士達は初見である。

 不気味な姿が大きくなり、群れの全貌が見えてきた。


 第一波に比べればやや小さい。しかし第二波もまた大群であった。

 トレヴォン南部に甚大な被害を与え、あらゆるものを食い尽くして増えたのだ。

 北部よりもさらにラクサ王国から遠かったこと、聖王国が所有する魔物寄せの魔法薬がわずかしかなく、誘導できなかった個体がいたことから、イナサーク辺境伯領まで到達した数が少なかっただけに過ぎない。


 聖騎士団は今回、大きく三つの隊に分かれている。

 まず、リディアが率いる隊。

 もう一つが、リディアの元まで白の女王群を誘き寄せる囮役の部隊。

 最後がトレヴォンに残った魔物の掃討と、復興支援を担う部隊である。


 この他、ラクサ以外の国に侵入した魔物も、一部は聖騎士団が討伐を手伝っている。



 長い詠唱を続けるリディアの目が、きらりと光るものを捉えた。

 別働隊が現れ、彼等や馬達の装備が夏の陽を反射したのだ。

 始めは蜃気楼のようだった姿は、素晴らしい速度で接近し、くっきり見えるようになっていく。

 聖騎士団の練度は高く、危険な任務にもかかわらず、統制の取れた動きで走り続けた。


 もうじきだ。


「ーーいと高きに坐す偉大なる女神よ……」

 

 リディアは聖騎士達と共に、詠唱の最後の句を高らかに歌った。


 駆け寄ってきた別働隊は、そのままリディア隊の背後へ合流する。

 それを追って虫型の大群が雪崩れ込む。


「ーー天罰の光を以て敵を穿て!」


 リディア達の頭上に、巨大な魔法陣が出現した。



✳︎✳︎✳︎



「おー、名前通り派手だなぁ」


 魔法陣が次々と閃光を放つさまを、トールは遠目で眺めた。

 日本人感覚で言えば花火大会、あるいは扇状一斉射撃を思わせる様相である。

 空に浮かび上がる魔法陣の各所から、光線が吐き出されて魔物を撃ち落としていく。

 女神の神罰ーーあるいは断罪の鉄槌が下されているかのようだった。


 ただし勇者パーティーのうち、この場にいる三人はまるで信仰心が無い。


「案の定っつーか、周りに味方がいると巻き込んで酷いことになるやつだな……今回はまあいいが」


 宗教画のごとき神々しい光景を見ても、やはり辛口にフェンが言う。


「まぁた、冗談じゃない天変地異ばっかりだねえ」


 マーシェは大袈裟に嘆いてみせていた。


「で、トール。あっちからシャレにならん衝撃波が飛んで来てるが、どうするつもりだ?」

「そりゃ止めるよ。もちろん」


 トールはイージィスを持って、前へ出る。


「イース、出番だぞー」

『フッ、我に任せておけ!』


 暢気なトールとは裏腹に、イージィスはやる気であった。


 ーーリディア達の放った特大魔法は、地面を削り取り、魔物ごと吹き飛ばしている。

 そのために発生した衝撃波が襲い掛かってくるのを、トールはイージィスの権能を振るって防御した。


「結構重いな?!」


 フェンに言わせると古風な魔法かもしれないが、やはり火力は凄まじい。

 イージィスで広範囲に障壁(バリア)を張ったものの、びりびりと叩きつけられる衝撃で手が痺れそうだ。

 トールは魔力を注ぎ込んで受け切った。


「これ姫様達は……自爆してないよな?」


 真っ白に天を染めていた魔物の群れは、半分以上が刈り取られ消滅している。

 トールは背後にいるフェンとマーシェを含め、後方への余波は押さえ込んだが、リディアが少々心配になってきた。


「確かにおっそろしい魔法だよ。姫様はよくあんなもん使おうと思ったね。ご無事だと良いけども」

「術者の保護ぐらいあるだろうよ。普通なら、だが」

「あたしにゃ、あの魔法が普通に見えないんだけどね。専門家の意見は違うのかい?」

「攻撃魔法は、使った本人を傷つけない術式を組み込むものだからな。そこは昔から変わってねえよ。王女の身分は、使い捨てするには高過ぎるだろう。わざわざこんなところまで来て、こんな方法で暗殺しねえと思うぞ?」


 マーシェとフェンが物騒な会話を交わしている。


 トールは勇者の視力と聴力、魔力の感知能力を活用し、リディア達の気配を探った。


「影響がデカ過ぎて分かりにくいな」


 聖光王龍大爆炎撃(デジタルメガフレア)が炸裂したため、砂埃が分厚い煙幕のように舞い飛んでいて視界は極めて悪い。その上、周囲の魔力も乱れている。


 しばらく後に、ようやく。


「あ、居たよ、姫様と聖騎士の人達。無事みたいで良かった」


 もうもうたる砂塵の向こうで、人馬の影が揺らめいた。

 帰還してきた聖騎士団である。

 砂まみれになっているが、駆け通しだったはずの別働隊も含めて整然と進んでくる。

 その中心にいる聖騎士が兜を外すと、栗色の髪がこぼれた。


 リディアだ。


 トールが手を振ると、彼女も柔らかな笑顔で振り返した。

余談。

「デジタルメガフレア」は主にカメムシ類を防除する水稲用殺虫剤の商品名。名前がかっこよすぎることでも有名。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ