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23.夏もやっぱり、静かじゃない

「代官の部下です。開拓が進まないので助っ人を呼んでみました」

「勇者です」

「聖女です」

「魔術師だ」

「以上三匹の飼育係だよ」


 何も起こらない訳がない。今回からは、そんな物語の始まり始まりーー。



✳︎✳︎✳︎



 人騒がせな代官、ユージェ・ヨーバルがやってきて帰った。

 と、思ったら別の人物がやってきた。

 それが事の発端だった。


「実務はやるんですけど、代官は一応ウチの姫様っつーか、おじょーさまなんで名目は違いますね。何と言えば良いですかねー? やっぱり丸投げ背後霊とかかなあ、あっはっは」


 そう言って笑うのは、やけに態度の軽い男であった。



 ユージェは高位貴族の箱入り娘で、代官と言っても形ばかりのものだった。

 実際、彼女はトールに訊かれた時も、代官としての仕事は「誰かにやらせる」旨の発言をしている。

 そうやって投げ出された実務を引き取ったという二人が、今トールとマーシェの目の前にいる。

 うち、片方の男が先程から喋り倒しているのだった。


「ジョー・キラップと申します」


 おどけた軽い口調だが、礼の仕方はしっかりしており、貴族の一員ではあるようだ。


「キラップ伯爵家の四男ですけど、家を継ぐ訳でも無し、そのうち平民落ちする悲しい身分ですよ。それでおじょーさまの使いっ走りだなんて役も回ってくるって訳です」

「…………」


 彼等はちゃんと事前に使者を寄越し、トール達の都合を聞いた上で来訪した。

 用件は、先日の一件を謝罪することである。

 そこでトールは家臣……ということになっているマーシェと、二人で応対しているのだが。

 ジョーが訊かれもしないのにペラペラと話しまくるので、口を挟めずにいる。


「あ、厳密にはウチのじゃーないですけどね! キラップとヨーバルは違うんで。同じく、バイエル侯爵閣下の一派ではありますが」


 本当に口の回る人物であった。


「ジョー。いい加減に本題へ入ってください。勇者殿が困惑されています」

 彼の隣に座る人物が、冷静に言う。

「おおっと、これは失礼。そうそう、こっちは僕の副官みたいなもんで、フロウと言います」

「フロウ・キラップと申します。お見知りおきを」

 フロウは金髪を短く切り詰め、男物の服を着ているが、体格が華奢で声も高く、女性だと分かる。

「あっ、残念ですがフロウは僕の奥さんじゃなくて従姉ですからね。我々二名がユージェ・ヨーバル様の補佐官となります。お困りのことがあれば、何なりと我々に申し付けてください」

「よろしく」

 長々と話すジョーに対し、トールの返答は短い。ジョーは器用に片方の眉を上げた。

「勇者殿は口数が少ないと伺ってましたが! 本当なんですね!」

「別にそうでもないけど……」

 こっちの常識や作法にうといため、つい口が重くなってしまうだけだ。特に貴族が相手だと、すぐに揚げ足を取られるというのもある。

「ジョーに比べれば、どなたでも寡黙です」

「フロウはいつも的確だね、はっはっは!」

「話を進めたいので、勇者殿には私から申し上げますが」

 フロウが、すっと立ち上がって頭を垂れる。

「先日は予定に無い出来事で大変ご迷惑をお掛けしました。お叱りは如何様にでも」

「ああ。まあ、二度目が無いなら構わない」


 聞けば、ジョーとフロウが補佐官の仕事で忙しくしている隙に、ユージェ等が勝手に出発してしまったらしい。ユージェの方が立場が強く、ジョー達二人では止めようがなかったという事情もあったようだ。

 とは言え、仮にユージェの色仕掛けが成功していればーー彼等も素知らぬ顔をしたであろう。当然ながら、完全に信用できる相手ではない。


「寛容なお言葉、感謝いたします」

「僕からもお詫び申し上げます。本心ですよ!」

 フロウは再び頭を下げ、ジョーもそれにならった。

 だが謝罪が終わると、ジョーはニカッと邪気のない笑みを見せた。


「ではでは手打ちでよろしいですね? ユージェ様も、今回はあまりに無茶が過ぎました。お父君のヨーバル伯爵、さらにはバイエル侯爵閣下にも叱られるでしょう。僕等もやりやすくなりまして、実に勇者殿に感謝しておりますよ!」


「補佐官殿は随分、正直なお人ですねえ」

 マーシェがようやく会話に参加してくる。

「僕の数少ない取り柄というやつですのでね! ついでと言ってはなんですが、開拓中の町についてご説明してもよろしいですか」

「変わり身が早過ぎませんか、ジョー?」

「とりあえず説明は聞きますよ。トールも良いね?」

「分かった」


 ジョーは地図を広げて、淀みなく説明した。

 町はスピノエスとトールの屋敷の、ほぼ中間地点に置かれる。

 今は小さいが、いずれ領都として発展していくであろう町だ。

 中心部に、代官であるユージェと使用人等が住まう城館がある。七割がたは完成し、貴族にふさわしい内装を主にやっているところだ。

 ジョーとフロウは既に、こちらに詰めて指揮を執っている。

 その周りに、使用人の中でも家族がいる者や、身分の高い者が住む館がある。

 さらにそれを取り囲むように、入植者が住む区画ができる予定だというーー。


「入植者?」

「主にヨーバル領、キラップ領からです。魔王軍の侵攻、その他にも色々な理由で住む場所を失った者がそれなりにおりましてね。もちろん犯罪者はいませんよ! おじょーさまのお膝元ですからねー」

 ジョーは何でもないことのように言う。

 だが、トールは少し気になることがあった。

「マーシェ。俺達、あんまりこっちの方へは行ってなかったと思うけど。土地の魔力はどうだっけ。ほぼ手付かず?」

「今んとこ日帰りの範囲しかやってないもんね。まあ、あんたらは普通より遠征が可能だけどさ」

 魔法使い二人とトールは、魔力による身体強化や馬の能力強化ができる。よって日帰りだけでも、通常よりも遠くへ行き来して地力回復を手掛けてきた。


 だが、辺境伯領は広大であり、魔力を根こそぎ収奪されている。近場でも、なかなか回復が進まないような手強い地点も存在し、トール達も「やりやすいところ」から優先して行っている状態であった。

 もし上空からイナサーク辺境伯領を見下ろせば、トールの屋敷と水田を中心として、不定形に延びたスライムのように開拓地が広がっていると言えるだろう。

 つまり現状、日帰りの範囲だけでもトール達三人には手一杯だ。一泊して、さらに遠くへ行くという考えはなかった。

 町はここから、馬で三日の距離にある。魔力に物を言わせて短縮しても、ゆうに一日かかる場所だ。


「じゃあ、やっぱり何にもやってないな」

「近くでは農業魔法を使ってるから、多少は良い意味での影響が出てるかもね」

「そんなに影響あるか……?」

 トールとマーシェはジョーを見た。

 ジョーはぽりぽりと頭をかく。

「正直に申し上げまして、困っているところではあります。ええ、とても!」

 入植者には農業魔法の使い手があまり居ないという。

 そこでスピノエス神殿から神官を数人派遣してもらい、地力回復をやってもらってはいる。

「ですが、そう簡単にはですねー。うん、進んでいませんね!」

 容易に回復が進まない荒れた土地。そんな難しい場所だからこそ、辺境伯領はトールに預けられているのだ。

「そりゃあね。聖女サマが頑張ってるウチとは違うでしょうねえ」

「……虫の良い話だとは思いますが。聖女殿のお力を借りる……という訳にはいきませんか?」

 ジョーがチラッと上目遣いをした。ただし、いい歳の男がやっても可愛げはない。

「魔族領も近いですからね、ここは」

 マーシェは遠回しに断った。


 全くの嘘ではない。今のところ、トール達の知る限り周囲に魔物は現れていないが、いつ出てきてもおかしくはないのだ。

 だから開拓に赴く時も、トール達三人は非常時の対応を決めてある。

 まず単独で行動するのはトールだけだ。勇者の手に負えない時点で世界的な危機であり、やられる可能性は一番低い。

 セレストやフェンがいる場合は多少離れていても、何かあれば駆け付けられる範囲で作業をする。

 フェンはもちろん、神官のセレストも、普通の魔物を蹴散らすくらいは造作もない。だが、魔法が効きにくい系統の魔物が出現したり、怪我人を見つけたりした場合、それぞれ一人では対処が難しい可能性もある。それで、互いに救援が出せるようにという配慮であった。

 異常を察知したら、セレストとフェンは、狼煙(のろし)代わりの音と閃光を放つ魔法を撃って知らせる。トールも一応、同じ魔法を封じたマジックアイテムを持っている。


 もっとも、これは念のための用心というものであり、今まで一度も出番はなかった。

 魔力が奪われている土地には瘴気も生じないため、魔物も近寄ってこないのだ。

 しかし今後、入植者が増えて魔力も回復していけば、どこかで魔物が現れるだろう。


 さらに言えばジョーとフロウは悪人ではなさそうに見えても、完全に味方とも言えない。

 セレストを一人で行かせるのは危険だった。


「うーん。フェンと一緒に行ってもらうって手はあるかな?」

 トールが小声で言うと、マーシェは若干ためらった。

「それで良いのかい? ほんとに」

「ああ」

「はあ。あんたってやつは全く、もう……」

 マーシェはなぜか溜息をつく。

 それから、声を大きくして言った。

「まあ、いっそみんなで行ってみてもいいと思うよ。視察がてらね。トール、どうする?」

「僕等は構いませんよ! おじょーさまもまだ居ませんから気軽にどうぞ!」

 ジョーは食えない笑顔をしている。一方、フロウは対照的な無表情で、何を考えているのかは読めない。

(見られて困るものはないっていうアピールか。セレストが手伝えば確かに早いだろうし)

 トールは傍らのマーシェを見た。


 彼女も少し口角を上げて、不敵に笑っている。


(マーシェも何か悪いこと考えてる顔だな、これは)

 付き合いの長いトールだから分かる。

 ジョーは軽そうに見えて妙な胡散臭さがあり、一筋縄で行かない手強さを感じさせる。

 が、マーシェも海千山千の冒険者だったのであり、強かに立ち回れるのだ。

(貸しを作っておくとか、そういう感じかな?)

 マーシェに考えがあっての提案なら、トールが反対する理由はない。

「じゃあ行ってみるか」


 町を訪問することになった。


「お待ちしておりますよ! ああ、それと勇者殿にはお願いがもう一つ」

「はい?」

 ジョーが要請したのは、町の名付けだった。

「こればっかりはね、僕やおじょーさまが決めるのは問題がありまして。領主たる勇者殿にやっていただきたいのです」

「えー……考えとく。すぐに思いつかないけど」

 トールは困惑を顔に出しつつ、とりあえず先送りにする。

「頑張りなよ、領主サマなんだから」

 マーシェがくくっと笑った。



 ジョーとフロウは多忙のようで、トール達との話し合いが終わると、すぐに帰り支度を始めた。

 ラクサ王国もすっかり夏だ。だいぶ日も長くなってきたが、既に影が濃く伸びる時間帯になっている。


 しかしジョーとフロウも簡単な身体強化の魔法を使えるので、途中で野営し強行軍で戻るそうだ。


「キラップは軍人や騎士が多い、武門の家柄なんですよ。僕もフロウも、野宿は慣れてます」


 ジョーは屈託ない笑顔で言った。


「道中もご安心ください。フロウの剣の腕はなかなかのものですよ? ちなみに僕は情けないことに、人並みの弱さです。はっはっは!」

「ジョー、自慢することではありません。そもそも最強と名高い勇者殿の前で、私如きを持ち上げないでください」

「フロウさん、隙がない感じがするなと思ったら護衛役なのか。納得した」

「勇者殿まで、そのような」

「あっ。勇者殿、僕の大事な副官を取らないでいただけます?」

「えぇ?! そんなつもりじゃ」

「おやおや、大事な副官ねえ。フロウ殿も赤くなっちゃって。大丈夫ですよ、うちの勇者はそこまで野暮じゃないですから」

「マーシェ殿。ジョーはただの従弟です」

「あっはっは、フロウは素直じゃないからー。そこが可愛いんですけども」

「悪ふざけもいい加減にしてください」


 最後まで騒々しいジョーと、頬が桜色をしている以外は冷静なフロウ。彼等は連れ立って帰っていった。


 トールに大変な宿題を残して。



「町の名前か……」

「トールは苦手そうだよね、こういうの」

 マーシェが人の悪い笑みを浮かべた。

「苦手だよ。全然思いつかない」

「トールの町で良いんじゃないかい?」

「恥ずいから! 絶対嫌だ」

 トールは首を横に振った。

「何でそこで恥ずかしがるかねえ? 普通だよ?」

「マーシェは平気なのか、自分の名前が使われても」

「ちょっとくすぐったいけどね、そりゃ。ある程度は仕方ないさ」

「じゃあマーシェの町になっても良いって?」

 半信半疑でトールが訊くと、マーシェはぶふっと吹き出す。

「トール、あんたねえ。あたしと、ただならぬ仲だと思われるよ?」

「うぐ」

 もっともな指摘である。

「ま、せいぜい悩むんだね」


 マーシェはそう言って、トールの肩をぽんと叩いたのだった。



✳︎✳︎✳︎



 その数日後、トール達は町へ向かって出発した。

 

 以前スピノエスへ行った時と違って、今回はネイとラン、それにメイドごっこを継続中のイクスカリバーとイージィスが留守番をしてくれる。お騒がせ美女二人もーーそこはかとなく不安ではあるがーー兄妹のことは守るべき対象と思っているようなので、残していくことにした。

「みんながいないからって、教育に悪いことをしないでくれよ?」

 念を押すトールだった。

「逆に訊くが、汝はどのような心配をしておるのかのぅ?」

 にまぁっとするイクスカリバー。

「具体的にナニが駄目であるか言うてくれぬと、イクス分かんないにゃーん、であるぞ」

「あのなぁ……」

 トールは額を押さえた。

 イクスカリバーは妙な語尾を付ける技を覚えてしまったらしい。

「……ほんとは分かってて言ってるだろ。イース、イクスが暴走しないように頼んだ」

「心得ておる。貴公も仲間等と共に在れば問題は無かろうが、警戒を怠るなよ」

「うん。屋敷のことはイースが頼りだから。マジで頑張ってくれ」

 トールは、常識人枠となってしまったイージィスに後事を託したのだった。



 トールとセレスト、フェンの三人がそろっているのだから、旅程の大幅な短縮が可能である。

「またやるのかよ……」

 フェンは嫌そうだったが。

「セレストとマーシェがその気だからなぁ」

 トールがしみじみ言うと、フェンは舌打ちをしていた。諦めの悪い性格である。


 そんな経緯でマーシェを加えた四人は早朝に出発し、夕方、空が暗くなる頃には建設中の町に到着した。


「もう小さい村くらいにはなってるんだな」


 町の周囲には簡単なものではあるが、丸太を組んで作られた防壁があった。トール達は速度を落として、防壁沿いに馬を走らせる。

 少し行くと門があり、見張りも立っていた。


「あ、あんた達……じゃなくて、アナタがたは領主様のご一行で?」


 見張りは正規兵ではなく、住民による自警団らしい男二人組だった。体格や顔つきはゴツい半面、あまり戦い慣れているふうではない。

 良くも悪くも純朴そうな男達だ。

 そんな二人に、馬を降りたマーシェがにこりと笑い掛ける。


「そうさ、補佐官殿のお招きでね。邪魔させてもらうよ」

「うはあ。てっきり、あの兄さんがホラ吹いてると思ったら……い、いや失礼しやした! お通りください!」

「ジョー殿から聞いてると思うけど、大袈裟なことはしなくっていいからね。あたしらは様子を見にきただけなんだ。そこんとこ頼むよ」

「へ、へい!」

「ジョー殿とフロウ殿は、どこへ行けば会えるかい?」

「えっ、さてどっちだか……オマエ知ってっか?」

 片方の男が、もう一人に訊く。

「朝は東地区にいたような。でも今はちょっと。いつも、あっちこっち動き回っとる人らなもんで」

「そうかい、忙しいんだね」

「でも城館に行けばカクジツじゃあないですかね、なぁ?」

「城館?」

「代官の貴族様が住む予定の、あの城館でさぁ」

 男が指差す方向を見ると、暮れていく空を背景に佇む、大きめの建物が見えた。

「なるほど、じゃあ行ってみるよ。ありがとさん」

 マーシェは愛想良く答え、トール達も彼女に続いて町へ入った。


「思ったより、にぎわっていますね」

 馬を歩かせながらセレストが言った。

 建物はまだ作りかけのところが目立つものの、活気はある。

 暗くなってきたため、ちょうど作業を終わらせて戻ってきた住民が多いようだ。

 あちこちで炊き出しをしているらしく、料理の匂いが漂っており、行列ができている。


「補佐官の二人は結構やるようだね。ジョー殿が口先だけじゃなくて何よりだよ」

「めちゃくちゃ喋り倒してたもんな、あの人。あれが全部適当だったら困る」

「オレは顔を合わせてねえが、そこまでか?」

「マーシェが口を挟めないレベル」

「本物だな……」

「フェンもセレストも、会えば即座に分かるさ。あたしの予想じゃ、城館の前とやらに居ると思うよ」

「見張りの方は、居場所が分からないと言っていましたが」

「何せ抜け目がない人みたいだからね。ほら、ご覧よ」


 マーシェの言葉通り、彼等が城館に近付くと、ぴらぴらと手を振っている男の姿が見えた。


「本当にこれほど早くいらっしゃるとは! 実にびっくりです!」

 オーバーに驚いてみせるジョー。

 その隣には、無言で目礼をするフロウもいた。

「わざわざお出迎えいただいてすみませんねえ。お忙しかったんじゃありませんか?」

「噂は風より早いというやつですよ! 急いで帰ってきた訳です」

「ここはまだ小さな村同然です。見知らぬ方がいらっしゃると、すぐに話が回ってしまうのです」

 フロウが淡々と教えてくれる。

「ご案内は私がいたします。まだ至らぬところが多々ありますが、ご容赦を」

「フロウ殿もうちに来たからにはご存知でしょ、あたし達は貴族的な接待なんて必要ありませんからね?」

「承知しております。が、この地の領主に粗末な扱いをする訳には参りません」

「大丈夫ですよ! ほどほどにいたしますから。僕だって勇者殿に睨まれるのは真っ平御免です」

 ジョーはにこにこと言い立ててから、頭を下げる。


「聖女殿と魔術師殿は、初めてお目にかかります。この度はお手数を掛けますが、領民のためですので! 何卒! よろしくお願いします」

「ええ。精一杯務めます」

「トールが決めたんなら文句は無い。オレ達を使えるか、あんたの手腕に期待してるぜ」

「おっと、これは責任重大ですね! 僕も即席の補佐官ですから、どうかお手柔らかに!」

 フェンの挑戦的な言動にもめげずに、ジョーはのらりくらりとかわす。

「僕はまだ仕事が残ってまして、一旦失礼いたします。何かあればフロウにお申し付けください。ではまた後程!」

 嵐のようにジョーは去っていき、沈着な表情のフロウが残った。


「……忙しいのに悪かったかな?」

 トールが訊く。

「いえ。いつも騒々しい男で申し訳ありません。馬をお預かりします。皆様はこちらへどうぞ」

 馬番だという男が近寄ってきた。トール達はフロウの言葉に従って手綱を預け、彼女に着いて館へ入った。



✳︎✳︎✳︎



 仰々しいもてなしは必要ない、と散々言っておいたおかげか、トール達は広い客間に通されたものの、それ以外はゆっくり過ごすことができた。

 仲間うちだけで夕食を取った後、ジョーとフロウがやってくる。明日に備えた打ち合わせだ。

「やあ、少々お邪魔いたします。旅の疲れは取れましたか?」

 ジョーは相変わらず、にこにこと笑顔を振りまく。

「ああ、ありがとう。十分休憩させてもらった」

「それは何よりです! では始めさせていただきますよ!」


 フロウの手によってテーブルの上に再度、町の地図が広げられた。


「勇者殿とマーシェ殿には既に、地図をご覧いただいてますよね。土地の魔力について、もう少し詳しくお話ししますと」

 ジョーの指が地図上を動き、ややスピノエス寄りの地点を指した。


「この辺りで、スピノエス神殿から来てもらった神官の皆さんが地力回復を行っています。ですが、ほとんど進んでいない状態ですねー」

「神官は何人で、いつごろから務めを果たしているのでしょうか?」

 セレストが質問する。

「三名の方が、十日ほど前からですね!」

「確かに苦戦しているようですね。わたくしはスピノエス神殿の皆様とお会いしたことがありますが、真面目な方ばかりでした。手を抜いているとは思えません。一度お話を聞いた方が良さそうです」

「なるほど! では、そちらからご案内いたします。神官の皆さんも聖女殿の手解きを受ければ、もっとうまく行くようになるかもしれません!」


「次はオレか? 農業魔法もできなくはねえが、専門外なんでな。やれてセレストの半分ってとこか。他の作業に回ってもいいぜ」


 フェンのような魔術師は本来、建築や土木作業でも力を発揮する人材と言える。普通の人族より魔力の扱いを得意とするだけに、一人で十人以上の働きをするからだ。

 フェンは従軍中に土壁を作ったり、塹壕を掘ったりするのも一通りやったことがある。トールの元で農業魔法ばかり使っているのは、他にやることがないだけ、という身も蓋もない理由が大きい。


「大変ありがたいご提案ですね! ですが、今回は聖女殿に同行していただけますか? 他の作業は、時間はかかっても僕らで何とかなりますんで」

「了解だ」


「あ、そうそう。ジョー殿には言っとくけど、地力の回復はトールもできますよ」


 マーシェがさらりと言った。

 ジョーは「はて?」と首を傾げ、黙って控えていたフロウと顔を見合わせる。

「僕の乏しい知識によれば、勇者殿は農業魔法を使えないはずですが?」

「農業魔法とは違うけど、勇者スキルの裏技みたいな感じかな」

「あっはっは、さすが勇者殿!……と言えばいいんでしょうか……」

「なぜ、そんなことをしようという発想に……?」


 ジョーとフロウが戸惑いを見せている。


 これまでトールの農業の実態は、パーティーメンバー以外はいくらかでも彼と関わりのある者……身内とも言うべき人々にしか知られていなかった。

 だが、いつまでも隠し切れるものではない。


「だって農業したかったし。やってみたらできた」


 トール本人の自覚は、このレベルだが。


「実際うちの周辺はね、トールがやらかした影響もあって、あんなに地力回復が進んでるんですよ。何せ勇者の本気ですから」

 マーシェが種明かしをしてみせた。

「……今更ながら、それは僕が聞いていい話なんですかね? 割と機密情報なのでは」

 そこに気付くジョーは、やはり油断がならない。

「ジョー殿は目も耳も良さそうですし。隠してもね、いずれバレるでしょ。とっとと共犯になってもらおうと思ったんだけど、どうです?」

 マーシェはニヤっと笑った。

「うわあ! とても名誉なお言葉ではありますがねー……うーん! ちょっと常識と戦略を立て直しますんで、しばしお待ちを?!」

 ジョーが腕組みをして、悩み始めた。


「……諦めて受け入れるしか無いのでは?」

 フロウも形の良い眉が少し寄っているが、神経が太いのか態度は平静に戻っている。


「そこまでドン引きされると、すごい微妙な気持ちになるんだけど」

「世間一般の反応ってやつだ。自覚しろ」

 それぞれの理由でぼやくトールとフェン。


「フロウさんは適応力が豊かなのですね」

 妙な部分でセレストが感心している。


「うん。フロウはいつもコレですから、助かってますよ。やれやれ、これは僕も腹を括るしか無いようですね!」


 ジョーは決断を下し、トールもまた勇者兼領主として、領地の開拓に加わることとなった。


 その結果は無論、とんでもないものになっていくーー。

米の名は…「なつしずか」(静岡県)

 県内の早場米産地および、後作に野菜を栽培する場合の両立を目指して開発された。極早生で良食味。

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