迅速
29階層
学習能力を逆手に取る戦法で12時間という恐るべき速度で階層攻略をした三南達は、生物として必要な小休止をしていた。
「この戦法は何度も使えない、だが一回で10階層は短縮できたな。 レイモンドと作戦本部の皆に感謝だ」
魔法によって暑苦しい事は無いが本格的な防護服なので動きは阻害する、なので製作者には悪いが鬱陶しい防護服を脱ぎながら呟く。
「同じダンジョン内なら無線もつながるみたい、アナ達が色々壊したからかもしれないけど下層からの敵は散発的だって」
「へぇー んなら他の奴らにも盛大にぶっ壊し続けろって伝えた方がいいかもなぁ」
「もう伝えた、アナの仲間が大喜びしてた……流石に仲間に被害は出さないように注意した」
「あぁ弾幕狂いの奴らか……近づきたくねぇなぁ」
アナが他の部隊と連絡を取り、ダンジョン施設そのものの破壊を提案した。
それに過剰反応したのがアナの同類、魔法版のトリガーハッピー達だ、キリュウが投げ出す程に魔法の連射に快感を覚える奴らは一定数居る。
「まあ頑張れよ戦闘顧問」
「んだとゴラァ! 勝手に役職ひっつけやがって! 権限使って弾幕狂いの中に放り込んでやらぁ!」
「じゃあ書類仕事するか? 俺としてはキリュウが運営側に周るなら役職を引っ込めてもいい」
「…………現状維持で頼む」
仕事関連の言い合いは三南の全勝である。 ドラゴン族も不器用だが、ドラゴン族の神たるキリュウの不器用さは文字通り神がかっている。
そもそも文字が書けず、機械にタッチするのも難しい。 ペンを持てば握り潰す、機械を持たせればウェハースのように折り砕く。
もはや事務仕事に関して呪われているのでは無いかというレベルで向いていないのだ、なので結局は身体の動かせる戦闘関係の役職が相応なのだろう。
「さて、次は30階層だ。 一応苦戦する演技はするが無駄だろうな」
「ホントに苦戦するかも?」
「あぁアナの言うとおりだ。 だがマジで苦戦したとしても攻略出来ない訳がない。」
「ははは、当たり前だ。完全な対策なんて存在しないからな、恐らく場当たり的なモノで繋ぎ本命は40階層だな。」
「そんで採算度外視の最強が50階層だろうなぁ、楽しみだ。」
「んじゃ2時間後に攻略開始な、俺とアナは寝る。 見張り頼む。」
「任せろって、オレぁここまで何もしなかったからなぁ」
「それこそ40と50はキリュウの独壇場だろ? 頼りにしてるぞ、おやすみ」
キリュウの胸に軽くドムッと殴りテントの中に引っ込む三南、本当に全く心配していない事を態度で示していった。
キリュウは長年生きて来て唯一の対等である三南に全幅の信頼を預けられ、内に内にと気合いを溜め込む。 三南とアナの安眠を妨害しないように内に、発散するのは40階層。
キリュウのフラストレーションは三南の予想を超えて溜まっていて、大惨事になったのは40階層に着いてからである。